三人目の攻略対象者
いいね、ブクマ、感謝です(*^^*)
仕事が忙しくて、次回からちょっと更新間隔開きます、申し訳ございません(汗)少しずつ書いてはいますので、気長にお待ちくださいませ…!!
今日の天気は穏やかだが、雲が白から薄い灰色に変わり、湿り気を帯びた風が吹き始めた。もしかしたら雨が降るかもしれない。人々も雨の気配を察してか、動きが忙しないように見える。
嵐の前の静けさか……。なーんて中二臭いこと思いながら、意識を窓の外から現状に戻した。
今、私は馬車で領主街ルーベの中央広場に面した高級レストランに向かっている。
そこに、最後の攻略対象であるゼオンらが待ち受けているのだ。
ゼオンの祖父であるフーリン商会会長から手紙が来たのは三日前。かなり前に出した、『お宅の娘さんとお孫さんの件で話があるから会えませんかねぇ』との旨を丁寧語で書かれた手紙の返事だ。
何でここまで時差が発生したのかというと、その前から会長が遠方に出掛けていたらしい。うちの優秀な密偵様方はちゃんと本当かどうか調べてくれて、事が起こる大分前から帰ってきては出かけを繰り返しているという証言を得ている。
で、長いこと待った手紙の返信は返信しなかった謝罪と、『街一番のレストランで話し合いましょう』と、何故か場所指定有り。
なんであっちから場所指定? 罠? と思ったけど『あちらも我々が何か仕掛けるのでは、と警戒しているのでしょう』とパーシー談。
そもそも、私に罠を仕掛けるのは公爵家と王家に喧嘩売るのと同義語。良いことなんてなんもないしってさ。確かに。時間指定はこちらでして、素直に招待に応じることにした。
というわけで、現在その道すがらってワケ。
同行者は、私の中で戦友と呼び名の高いパーシー。彼とは一緒の馬車に同乗中。本来は同性の侍女が(うちの場合、キャロラインが)同伴なのだが、最初から付き合ってくれているパーシーは大事な戦力だし、心の支えだ。なので、執事長の役割でないことは百も承知だが、今回も彼に同行してもらっている。有り難いことに、彼自身OKして着いてきてくれているので非常に心強い。
ちなみに、キャロラインは先日の職務放棄したその日の内に、体調不良による休養申請が人伝に届けられている。パーシーは侍女頭が何やってるんだ信じられないって怒ってるけど、彼女の心労の原因は私だし、ずっと働き詰めだったぽいから、この際いいかと休みの許可を出している。
一人になる時間も必要かなって会いに行かなかったけど、お見舞いの品でも買って顔を見せに行ってこようかなと思っているところだ。
そうそう、今回乗車しているのは、つい先日キャロラインと共に街に行った時の、デカくて邪魔で無駄に豪華な馬車ではなく、渋い色合いで趣きのある適切サイズの馬車だ。元々この馬車はライニールが所有していた馬車の一つで、彼が亡くなってからは車庫でホコリ被っていたものを有り難く使用させてもらっている。
お陰で今回は大通りを走っていても、道行く人から邪魔そうな目で見られることはない。
『あれ? 領主様、馬車の趣味変えた?』『いや、領主様が変わったんじゃないのか』『そんな話は聞いてないけどねぇ』『前の馬車は本当に悪趣味だったからね』『道塞いて邪魔だったしな』『最近領主様がちゃんと働いてるって噂だぜ』『ホントかよ。でも確かに前みたいに頻繁に街に来てないみたいな』『流石のお花畑姫も、旦那の死には改心したのかな』
……いや、不思議そうな目で見られてはいる。この手の台詞が行く先々で聞こえてきた。自分の評判と悪口って、周りがどんなに煩くてもついつい拾ってしまうもんだよね。
ま、まあ、前よりは馬車のウケはいいし、正しい噂も流れてるみたいだし、一歩前進ということにしておく。
そんな私達の後ろには、念の為に連れてきてる侍女二名が乗る馬車と、二台の馬車を専属の護衛騎士六名が馬上の人となって囲んでいる。警備体制もバッチリ。
安心安全な馬車の旅をしている私の手元には、ゼオンの母――リリーナ・フーリンと調査報告書がある。それに目を走らせながら、ゲームのゼオンを思い出していた。
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ゼオン(ゲーム開始時十六歳)
王都で平民用の雑貨店を経営している家の子供(隠されてるけど養子)。えんじ色のふわふわな髪とヘーゼルの垂れ目の美少年。
人懐っこいワンコ系の心優しい少年。同世代の子と比べて小さい体と可愛い見た目から、ゲームでもリアルでもショタ好きのお姉様方から大人気のキャラクター。本人は同世代と比べて低い身長のことや童顔なことを少々気にしており、いじりが過ぎるとどんな相手にでも立ち向かう。手先が器用で、店先には彼が作った雑貨が並べられ、人気商品となっている。
本名ゼオン・フーリン。実家はバルカン領ではそこそこ大手だったフーリン商会。アマーリエから逃げ出した後に実家に逃げ帰るも、怒りのアマーリエの追手によって、家族を全員殺される。
ゼオンは使用人のお陰で命からがら逃げ出し、王都で小さな店を営む遠戚の元に身を寄せる。フーリン商会全滅事件は野盗の仕業、ゼオンも死んだものと処理され、ゼオンはそのまま子供のいなかった親戚家の子供として育てられることに。
アマーリエからゼオンに対しての暴力は比較的少なかったが、『泣き顔が可愛いから』と性的なことと精神的DVにより追い詰められていた。
『ヨツバお姉ちゃんは、僕が駄目じゃないって教えてくれた凄い人。僕には人を喜ばせる物を作れる才能があるって教えてくれた。僕の作ったもので皆を笑顔にさせられるような、一流の作り手になりたいんだ』と、ヨツバに対してはどっちかってと尊敬に近い感じ。
ニーヴェル同様、物語に実父のことが関係していない。そもそも一族全員殺されてるので、もはや真実を知る者は誰もおらず、ファンブックでも永遠の謎扱いされていた。
ゲームではちょっも顔がいいからって調子に乗んなよみたいに絡まれたり、平民差別を受けて雑貨を壊されるシーンとかのイベント多め。もしかしたら三人の中では一番不憫な子なのかもしれない。
でもそんなことを感じさせず、常に前向きでめげない姿勢を貫き、最終的にいじめっ子たちを改心させていく姿はまるで少年コミックスの主人公さながら。
その人を惹きつける性格のお陰で、悪政に苦しむ領民たちを仲間にし、共に反乱を促して屋敷を取り囲み、アマーリエ・バルカンを捕らえる。裁判を経て処刑台送りにしてハッピーエンド。
*****
……以上が、ゲームのゼオンメモである。
屋敷で顔合わせした時の、母親のドレスに引っ付いてビクビクしていた小動物――ゲームでも可愛かったけど、幼少期は女の子みたいで輪を掛けて可愛かった。
でも、可愛いだけでライニールの持つ怪しい美しさとは全然違うんだよね。リリーナはよくあれでライニールの息子だって言い張れたな。余程作戦に自信があるのか、それとも本当にそう思っているのか……。
ってか、ゲームのゼオンが『お母さんは優しくて愛情深い人で、聖母みたいな人だった』って語ったシーンあったの今思い出した。
母親の形見のペンダントをアマーリエから取り返して泣くゼオンは、美麗スチルも相まって号泣ものだったのに……がっかりだわ。
「奥様、もう間もなくレストランに到着致します」
「え? あ、もう? わかった」
声をかけられて思考を中断する。降りる準備をしなければとパーシーに調査報告書を返した。
パーシーはページ数に不備がないかをゆっくりとチェックし、手と膝上を使ってトントンと四隅をキチンと揃え、A4サイズの封筒に丁寧に仕舞った。うーん、めっちゃ几帳面。いや、大事な資料なんだから雑に扱うなんて以ての外なんだけどさ。
……つか、今気付いたけどパーシーってイケオジだよなぁ。白髪じゃなくてシルバーグレイの髪はきらきらしてて綺麗だし、顔も体もシュッとしてて背が高いし清潔感があってとても良い。若い頃も絶対良い漢だった筈。
覚醒したては全く気づけなかったけど、ここに来て私にも周りに目を向ける余裕が出来たってことだな。あー、この隠し子騒動に早々にケリをつけて早く婚活したい。パーシーもあと二十年位若かったら狙ってたのにな。
そう思っていたところで、訝しげな表情で顔を上げたパーシーとバチッと目が合う。
「……何かございましたか?」
やっべ邪に見過ぎたか!?
「あ、い、いや、なんでもない。ただ、丁寧に仕事してるなぁ〜って思って……」
「大事な証拠書類ですから、当然でございます」
「ご尤も……。……関係ないけど、パーシーって今年何歳になる?」
「はい? ……五十八ですが……?」
「え!? そんなに行ってたの!? まだ五十行くか行かないかと思ってた!」
「え、ええ、まあ、私はどうも童顔のようでして、昔からよく年下に見られていました」
まじか……多分、髭が無かったらもっちょっと若く見積もってたところだわ……。
「因みに、ご結婚は?」
「どうにも縁がないもので。割り切って仕事一筋に生きております」
「うわ、勿体ない。こんなに真面目で堅実な人ってなかなか居ないのに。皆見る目無いね。私がパーシーと同い年だったら絶対狙ってたのに」
長い独り身生活と世間の常識的に、パーシーの国家公務員並の誠実さは結婚生活に必要不可欠だと思うんだよね! あー、何でパーシー同い年じゃないんだろ。今から神様の悪戯か魔法起きて若返んないかな、パーシー。
……『彼はそれが仕事でお前に尽くしてるから勘違いすんな』って声が聞こえて来そうだが、いいじゃん妄想くらい。実現しないんだし。はあ。
「……奥様、もしや再婚をお考えですか?」
「え? まあ、一応……。……!?」
思わずそう答えてハッとなる。
やべえ、婚活に思い馳せすぎて記憶から抜け落ちてたけど、アマーリエは未亡人になったばかりだった。
夫が死んだばかりだというのに次を考えてるなんて性格が悪過ぎる……。しかもパーシーはライニールの実家であるトリスタン公爵家に仕えていて、幼い頃から彼のことを知っている人物。
絶っ対、好感度下がった……! なんとなく築きつつあった信頼が下がってしまった……!!
「あ、いや、そのぉ……」
パーシーの顔が見れない。なんとか上手い切り返し考えんと、今後の生活に支障をきたしかねない……!
考えろ……考えろ……!!
「それは良いお考えでございます」
……あれえ?
思った以上に明るい返答に、呆気に取られて顔を上げる。パーシーの顔は不愉快を示しておらず、それどころかどこか安心したような……まるで仏のような顔で微笑んでいた……。ドユコト……?
「ぱ、パーシー……。怒ってないの……?」
「いえ、まさか。バルカン公爵家の血と王家の血を残すのは奥様にしか出来ないの大事なお役目でございますから。逆に、今だにライニール様を引き摺って居られるのではないかと心配しておりました。きちんと先々のことを考えておられるようで安心しております」
「あ、ああ、そういう……成る程ね……」
そういや、この世界もご多分に漏れず兎に角血筋を大事にする世界観だったわ。なんだかなー。
「ま、まあこう言ってはいるけど、大抵の輩は私の立場と金のことにしか興味無さそうな気がするから、なかなか難航するだろうけどね」
一応、気を使ってそう言っておく。
「そこは否定出来ませんが、そのような男には近付かないことをお勧めします」
「でも、大抵は隠して近づいて来るでしょ。そういう相手はどうやってわかるの?」
「その人と為りは交流してみないとわかりませんから、一定の距離を保ちつつ、ある程度は交流して探っていれば自ずとわかるでしょう」
「ふむ。じゃあ……」
こんな感じで、意外にも再婚話に盛り上がったまま、馬車は無事目的地に到着したのであった。
いつの頃からかパーシーは主人の口調の変化は受け入れてます。主人公は自キャラ設定忘れてますw
お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)




