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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 福 萬作
第一部

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ニーヴェルの父親

前回もいいね、ブクマありがとうございます!


 ややあって、恐る恐る顔を上げたヨランダの顔は、驚愕に目を見開いていた。


「っ……ど……どうして……なんで……それを……」

「……キャロライン。悪いけど、ニーヴェルとメイドたちを連れて部屋の外に出てくれる?」


 震える唇をなんとか動かして絞り出された疑問。その問いに答える前に、キャロラインらメイドに退出を促す。

  

「えっ? わ、わたくしもでございますか? パーシーは……?」


 しかしキャロラインは納得いかなかったようで、パーシーを鋭く睨む。こんなとこで対抗心燃やすなや。

 

「パーシーはもう知っているから残っても大丈夫。けど、これから話すことは込み入っているんでね。事情を知らない者は控えてほしいんだ」

「そんな……この場にアマーリエ様を置いていくのは心配です! わたくしも残ります!」

「心配してくれてありがとう。でも、これは最悪、命に関わる可能性がある話なんだ。あまり他言にしたくない」

「い、命に!? なっ、ならば、尚更わたくしもお話にっ」

「キャロライン。奥様のご命令だ。即刻退出するように」

「っパーシー、貴方……!!」


 流石アマーリエの乳母だ。心底心配している様子のキャロラインに胸が痛むが、これ以上は本当に話せない。


「キャロラインたちを巻き込みたくないんだ、頼む」


 そうお願いすると、キャロラインは泣きそうな顔で「畏まりました……」と肩を落とし、メイドに支えられるように部屋を出て行った……めっちゃ心苦しい……めっちゃ申し訳ない……ごめんよキャロライン……。


 他のメイドも不安そうな面持ちでその後に続いて部屋を出て行き、最後に壮メイド長がニーヴェルを促す。この異様な雰囲気と光景に流石の悪童も空気を読んだか、それとも話の筋を理解できてないのか定かではないが、ニーヴェルは頭上にはてなマークを乱舞させながら、大人しく部屋を出ていった。

 

「――……さて、夫人。いつまでも床に座ってないで、こちらへどうぞ」


 パーシーが鍵を閉める音が広い空間に反響したのを皮切りに、ヨランダに手を貸してソファーの方へと導く。ヨランダは言われるがままフラフラ付いてきて、大人しく腰を下ろした。私は向かいに腰を下ろし、パーシーが後ろにつく。


「さて、夫人も怒涛の展開に混乱してるでしょうし、一先ず私の方で話を進めさせていただきます。我が家ではありますが、何処で聞き耳を立てられているかわかりませんので、相手の名前は口には出しません。なので、こちらで確認していただきます」


 パーシーに目配せし、ここに来る直前彼に預け、隠し持っていたらしい冊子を受け取る。まずその表紙を見せると、ヨランダは僅かに目を見張り、そっと目を伏せて無言で頷いた。


 これは生徒会年報――その年の生徒会役員の名簿や日報が収められている、所謂一年間のアルバムみたいなものだ。

 

 しかもこれは生徒会役員にしか配られない超貴重なもの。驚いたことに、ライニールは生徒会役員だったのだ。絶対顔選だ。

 

 そしてこれはヨランダが三年生の時の物である。基本、余程のことがない限り生徒会役員は三年間一緒なのだが、今回の場合この年の物でなければ意味はない。なぜなら、()()三年の春に編入してきて、たった一年しか学園に通っていないからだ。

 

 ヨランダの許可を得てパラパラとページを捲り、とあるページを開いて机に置く。そこには複数人の男女の集合写真……じゃなくて、集合イラストがある。写真技術がないのだから仕方がない。


 ヨランダが在学中の生徒会、これはまたなかなか豪華な役員だ。我が国の現近衛騎士副団長と現侯爵、東方の群島諸国の現女王、隣国の皇妃、ライニール、若きヨランダ……。ニーヴェルはヨランダによく似ているなあと改めて思いながら、私はヨランダの隣に立つ厳つい青年を指差す。


「この方で、間違いありませんね?」


 黒い髪と氷のような冷たい色の瞳を持つ青年。眉間に皺を寄せ、剣呑な雰囲気か絵からでも伝わってきて、戦闘民族という言葉が似合いそうな印象だ。年報によると、名前はレグナード・ウィルソン。身分は他国の男爵子息となっている。しかし、これが仮初めの姿であることは周知の事実となっている。

  

「……はい……」


 ヨランダは蚊の鳴くような声で、確かに首肯した。

 

 ………………うわぁ、まじかぁ。

 

 息子とは似ても似つかないこの男がニーヴェルの実父であると確定した瞬間、ファンとしていち早く秘密の父親がわかった嬉しい気持ちと、アマーリエとして頭を抱えたくなる気持ちがせめぎ合う。


 というのもこの男、アーディー王国側としてはちょっとばかし面倒な相手なのだ。


 男の正体は、レグナード・カルルス・シュヴァルツァ。王国とは巨大な大河を挟んだ北方に存在するシュヴァルツァ帝国の現帝王である。

 

 かつてのシュヴァルツァ帝国は、北方にごちゃごちゃと存在していた国々の一つでしかなく、中でも一際小さく、近隣の国家に巨額の見返りを渡して守られているような国だった。そんな弱小国家を七、八年程で巨大国家に作り上げたのがこの男――通称『殺戮帝王』。

 

 この物騒な通称の原因は、戦争で周りの国々を蹂躙して潰して行ったというところにある。とにかく戦争、戦争、戦争で数多の血を流して、彼の国の大地と川が全て赤く染まったといわれている。

 

 群雄割拠していた所を統一させた凄い人であるのに、『血の帝王』『魔王帝』『死神帝王』とか、ポジティブなあだ名は一個もない。

 

 一体何がどう転がって、小国の下位貴族から大国の帝王にまで成り上がれたのか。……もしかして彼も転生者だったりする? だとしたらかなりやべぇ奴だろうな。


 そんな新参国家と王国の関係は、ぶっちゃけ悪い。その原因は四年前。王国に友好条約を結ぶために使者が送られてきたことがあるのだが、その見返りが『代わりに王女頂戴』ってものだったのだ。

 

 王女――つまり、アマーリエのことである。確か、まだ十二歳位の頃の話らしい。ロリコンかよ。

 

 とはいえ、帝国がヤバイ相手ではあろうとも、王国の規模も戦力も負けていない。しかもアマーリエは王の寵児だ。当然こんな巫山戯た話は即却下。愛娘を引き合いに出された国王は激怒して使者を追い返したそうだが、その後の音沙汰はなく。

 

 謝罪すら寄越さない帝国の舐めた態度に怒った王国だが、一応こちらからも使者を送るという大人な対応(?)をしたそうな。しかし使者は帝都に入ることすら許されなかったらしい。

 

 その態度は遺恨を残し、両国は薄氷を踏むが如き緊張した関係が続いている。

 

「ご家族は、相手のことをご存知なので?」

「……家族は、知っております。()()()とは、在学中に顔合わせをしたことがありましたので。……私達の関係は秘密にしておりましたので、他の者は知らないと思います」


 あの男、と棘の含んだ言い方にドキッとする。顔合わせ済みというなら、当時は仲が良かった筈。王国との関係性を考慮して悪く言っているのか、それともヨランダとレグナードの間柄に変化が生じたのか……。二人のロマンスはめっちゃ気になるところではあるが、現時点で情報はないので、私にはわからない。


 ……ん? 家族は顔合わせしてるから知ってるけど、他は知らない?


「あの、ちょっと質問なのですが、ニーヴェル君本人は父親のことをご存知ないのですか?」

「え? ええ、勿論。あんな男が父親だなんて、ニーヴェルが可哀想だから秘密にしておこうと家族で話し合いました。そちらの年報も含め、我が家にあったあの男に繋がるものは全て処分しております。それが、何か?」

「そうだったのですか? え、でも、ニーヴェル君は父親のことを名前も立場も知っていましたよ?」 

「!? に、ニーヴェルが、あの男のことを知っていたのですか!?」

 

 焦って立ち上がったヨランダに前のめりになって迫られる。顔からは大粒の汗がどっと溢れ出していた。


「え、ええ、はい。我々がニーヴェル君の実父を知るに至ったのは、彼の発言からでしたので。……ご存知なかったのですか?」

「存じ上げません……! そんな、まさか、いつの間に……!?」

 

  諸々を逆算して割り出し、卒業ギリギリの在学中に仕込まれていたことはわかっていた。パーシーと一緒になって当時の在学生や教師陣とか数人が候補に上げてたけど、誰も彼も決定打に欠けてたんだよね。

 

 そこにきて『アマーリエ(元王女)より偉い』発言。候補者で現在のアマーリエより身分の高い者はパーシーが目星付けてたこの男しかいなかったのだ(ちな、私は『似てないし』と弾いてた)


 屋敷に連れ帰った当初は我に返ったように口を閉じたニーヴェルも、確認の為にと年報に載ってた若い頃のレグナードを見せてみると、『この人が俺の父上……』と、口を滑らせ涙ぐんでいた。

 

 だけらヨランダ教えてたのかとばかり思っていたので、ちょっとびっくりしてしまった。

 

「ニーヴェル君は『父親から手紙が届いたことがある。その時に聞いた』と申しておりましたが……?」

「手紙……? まさか、あの時に!?」 


 まるでムンクの叫びのような格好で悲鳴を上げたヨランダだが、ふっ、と電気が切れたように崩れ落ちた。


「危ない!」


 咄嗟に立ち上がって手を伸ばすが、ラッキーなことにヨランダはソファーの方に倒れたので事なきを得た。


「大丈夫ですか!? 少し休憩を……!」

「いっ、いえ、大丈夫、です……少しばかり……頭に、血が上りまして……申し訳、ござい、ません……。少々、お待ち下さい……」


 そう言う彼女は真っ青で息も絶え絶えの様子だが、顔には怒りの表情が浮かんでいた。


 もうこれ誤魔化しとかじゃなくて、確実に憎んでるじゃん。マジでこの場にニーヴェル(子供)いなくて良かった。母親の父親に対するこんな表情、見せられるワケないじゃんね。軽く野次馬根性出してしまって後ろめたい……。

お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

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