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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 福 萬作
第一部

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19/56

息子の本性を知る母

スカッと系の話大好きです。いざ書こうとすると難しいですねぇ


 私の言葉にヨランダは悲鳴のような声を上げて立ち上がる。


「では、裁判をして白黒はっきりしますか? こちらは願ってもないですが」

「違っ! そういうことではなくて……! っし、証拠はっ? 証拠はあるのですか!? あなたの証言だけなんて、公平性に欠けますものっ。裁判では証拠にもなりませんわっ!」

「そうでしょうか? 地位が上である私の証言の方が優位になるでしょうね」

「っ!! それはあまりにも横暴ではありませんか!」

「おっと、早とちりしないでいただけます? 裁判に持ち込めば公平性に欠けているのは重々承知です。私は争いは嫌いですし、後を引かせるのも長引かせるのも面倒です。ですので、互いに納得の上、終わらせたいんですよね。なので、今この場で全てを終わらせるつもりなので安心してくださいませ」


 ヨランダは怒りと不安とが入り混じったような複雑な顔をしていたが、私はそのまま続ける。


「今、この場ですぐ出せる証拠はありません。ですが、私の言葉の裏付けを取ることは可能です」

「は……?」

「夫人、まず一つ確認なのですが、あなたの知っているニーヴェル君は『品行方正で勉強もマナーも完璧な優秀な息子』という認識で、私の『公爵家に相応しくない』という言葉は不適切だとお考えですか?」

「はい。幼さ故の勉強不足はまだあるとは思いますが、息子は血筋に恥じない自慢の息子ですわ」


 わお、言い切った。言い切っちゃったよ。でもヨランダの顔はマジだし、曇りなき眼で私を見ている……それがあまりにも力強い。自分の息子を信じるってのは愛情深くて素敵なことだとは思うんだけど、盲目的なのはどうかと思うけど……ちょっとだけこっちが悪いことをしている気になってしまう。

 

「……わかりました。キャロライン、彼は今部屋?」

「左様でございます、お嬢様」

「ありがとう。では夫人、私の後に付いてきてください。ただし、私が良いと言うまで喋るのは禁止です」

「え? あ、はい……?」


 前世では音声や映像が記録できるものがあったけど、ここは魔法すらないなんちゃって中世。だから手っ取り早く彼の本性を見せてやることにした。百聞は一見に如かずって言うやつよ。やる気が萎む前にすっくと立って、さっさと部屋を出る。


 私の後をヨランダが続き、パーシーとキャロラインで挟み、目的地へと誘う。ニーヴェルに貸し与えている客間の扉の前にメイドが三人、疲れ切った様子で立ちすくんでいた。私が来たことに気づくとパアッと顔を明るくさせるが、言葉を発せられる前に『しーっ』としてみせると、三人とも慌てて手で口を塞ぐ。


「……ご苦労さま。ニーヴェル・ヨーキリスはどう?」

「はい、変わりありません……」

「そう……では夫人、先程も言った通り、大声や勝手な行動は厳禁ですからね」

「は、はい……かしこまりました……?」


 みんなでヒソヒソと話しした後、ゆっくりそっと扉を開け……た瞬間から響いた、ガッシャーン! と響き渡る甲高い音。次いで「いい加減にろ!」と怒鳴る子供の声――瞬時にヨランダの全身が強ばった。固まったヨランダを差し置いて私が室内を覗き見る。


 テーブルについているニーヴェルに対峙しているのは壮年の綺麗なメイド長。周辺には、割れた食器の破片や、乗っかていた食べ物が散乱していた……なんてもったいないことしてやがんだあのクソガキは!


「ふざけるな! 俺は家畜じゃないんだぞ! こんな雑草食べられるか!」

「なんてことをするのです! それは雑草ではなくて立派な野菜ですよ! 食べたことないのですか!?」

「ふん! 我が家ではこんな貧相なものは食べん! 肉だ、肉を持ってこい!」

「メインディッシュはまだです! オードブルすら食べ終わっていないのに!」

「知るか! 俺は肉が食いたいんだ! 早く肉をもってこい! 俺がパンを食い終わる前に早くしろ!!」

「まあ……!!」

 

 ……うっわぁ……こりゃ酷い。


 昨日、ニーヴェルを屋敷に連れ帰って話を聞いた後、メイド長らに世話を任せてパーシーと作戦会議していたら、今朝から早々に上がってくるニーヴェルの暴挙の数々。同世代相手に暴力振るってたとはいえ、屋敷にいるのは大人だけ。そういうことは鳴りを潜めてるかな〜と思ってたんだけど、そんなことはなかったんだぜ。「一度その目で確認してください」と、半日足らずで草臥れたメイド長に促されて、様子見に行ってみたら、こんな感じだったわけさ。いや、今朝見たときより酷いぞこれ。


 メイド長はああ見えて五人の男児の母親なので、多少強気でもいいから世話を頼んだのだが……そんな彼女でも、ニーヴェルの相手は苦戦している様子。あまりの言い草に絶句するメイド長に対して、二ーヴェルは勝ったと思ったのか、したり顔でパンを鷲掴み、千切らず直接パンに齧り付く。


 あーあー、食べかすがボロボロと……うわ今度はグラスのジュース一気飲み……。あまつさえ呆然としている別のメイドに「ジュースが無くなったぞ! 早くしろノロマ!」って唾飛ばしながら暴言が飛ぶ。メイドになって日の浅い若いメイド涙目。


「おい、食事が終わったら武器商人を呼べ。俺はよく切れる剣が欲しいんだ」

「貴方様にそのような権限はございません」

「なんだと、無礼な女め! どこの家の者だ!」

「家名はございません」

「家名がないだと? お前、平民か! 平民の分際で貴族の俺に意見するとは許さん!」


 ……凄いな、今の会話だけで意味不明なおねだり、平民叩き、女叩きの三コンボ達成させたぞ。

 

 ヨランダを見る。顔が青い。中は見えてなくても、聞き覚えのある我が子の声の様子から、察しはついているようだ。

 

 「……どうぞ、夫人。ご子息の『完璧な教養』を、その目でご覧になっては?」

「あ……あ……あ、の……」


 促すが、ヨランダは小刻みに震えて動かない。三人のメイドも、ヨランダが誰であるかわかったようで、白い目を向けながらヒソヒソと話をしている。まさに針の筵。それはそうだ。下位でも貧乏でも彼は貴族。最低限のマナーを学んでいると思うだろう。おまけに、まさかあんな小綺麗な顔して、やってることが下町の悪餓鬼顔負けの暴君なんて、お釈迦様でも思うまい。

 

 ま、これでヨランダも己が息子の本性が分かったろう。


 今朝、この悪童っぷりを見るまでは、聞き出した情報を元にヨランダを問い詰め、諦めさせるつもりだった。しかしこんな非常識な姿を見せつければ、ヨランダも無理だとわかってくれるだろうと思って作戦を変更したのだが、なかなか効果覿面だ。

 

 しかも引取先予定であるアマーリエ・バルカンの暴言なんか吐いちゃってる現場を見てしまったら、これはもうどう足掻いても絶望。

 

 いやぁ、なんだかんだでニーヴェルの証言は裏が取れてなくて、行きあたりばったりなところだったあったから不幸中の幸いだ。


 後は部屋に戻って、もう一度話しして、二人には納得してお帰り願うだけ。ヨランダに見せつける為にメイドたちには我慢させてしまったのだから、アフターフォローしないとなぁ。


「――もう我慢ならん! あの女を呼べ!」

「あの女?」

「赤目の魔女のことだ!」

「当家にはそのような者はおりません」

「なんて察しの悪い女だ! アマーリエ・バルカンのことに決まっているだろう!」

「! なんと無礼な! アマーリエ様を魔女呼ばわりなど!」

「喧しい! ()()()()の俺が呼んでるんだ、さっさと呼んでこい! 全く、これだから女は役に立たん!」

「な……!?」


 また出たよ魔女呼ばわり……ん?


 ……なんか今、次期なんちゃらって聞こえたよーな……?

 

「何を仰っているのですか!? 『次期当主』などと烏滸がましい! 貴方はただの」

「黙れ! 俺は次期バルカン公爵になるんだ! 皆そう言っていたし、あの魔女もそのつもりで俺を屋敷に連れ帰ってきたんだぞ!」

「なっ!?」

「はああああああっ!? 誰も言ってないしそんなこと!?」


 やっぱ聞き間違いじゃなかった! なるほどだからあいつあんな横暴なのか納得したわ! 頑張ってるメイドたちが絶望するような事言うなや! 誰だ『皆』って?! ヨランダ!?

 勢いよく振り返ると、ヨランダがバネみたいに跳ねた後、目を逸らしてガタガタ震えだした。ハイミッケ!


 ……なんてやってたら、視界に入ってきたパーシーに、「奥様……」と頭を抱えて溜息を吐かれる。

 それを認識して、え? となった数秒後、気付く。廊下も、室内も、静まり返っていることに……。

 

お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

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