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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 福 萬作
第一部

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VSヨランダ

久しぶりに更新させていただきます。登録していただいているみなさま、待っていてくださりありがとうございます。一日一行でも書けるよう、完結に目指して努力します。


 一夜明けた、次の日。


 午前の仕事をあらかた終え、執務室の机でとある冊子を眺めていると扉を叩かれた。応じるとパーシーがいつも通り礼儀正しく入室する。


「失礼致します。奥様、ヨランダ・ヨーキリス夫人が到着なさいました。応接室にお通ししております」

「そう。ありがとう」


 冊子を閉じ、それをパーシーに渡して部屋を出る。パーシーはそれを大事そうに抱えながら私のあとに続いた。


 扉前待機していた侍従が開けてくれた応接室の扉をくぐる。大きなテーブルとソファーがある位置、下座の方に紺の巻き髪と水色の瞳を持つ妙齢の女が、目の下に隈を作り、青い顔をして立っていた。ニーヴェルの母ヨランダ・ヨーキリスだ。


 改めて見ると、確かにまだ二十代の顔立ちだ。確か、ライニールと同い年なので二十七、八歳くらいか。老けて見えていたのはロッテンマイヤーの印象が強かったからかな。


「奥様……!!」

「ご機嫌よう、ヨーキリス夫人」

 

 今にもこちらに駆け寄って来そうだったが、こちらが普段通りの態度をとったからか、彼女はハッとしてその場に押し留まり、美しい所作で頭を下げた。それでも、初対面の時とは違い、余裕が見られない。

 

 それもその筈。彼女の息子は今こちらに居るのだから。


 昨日、私はなんやかんや誤魔化してニーヴェルを屋敷に連れ帰った。

 

 パーシーに聞いてヨランダの居所を聞き、『街で息子さんを見掛け、保護しました。息子さんはこちらが預かっております』という旨を通達した。


 使者の話では、その時になって初めて息子がいなくなっていたことに気づいたらしい。


 私がニーヴェルに街で会って連れ帰ったのは午前中、使者を出したのは夕方。ということはつまり、ヨランダは半日以上、自分の子供がいなくなったことに気付かったらしい……普通、お昼ご飯の時とかに気付かないもんかね?


「どうぞ、お掛けになって?」

「……失礼致します」

  

 私が上座に腰掛け、パーシーが背後に立つ。

 ヨランダが腰掛けたところに、すかさずキャロラインが紅茶を淹れて私らの前に置いて部屋の隅へと下がる。話し合いの準備は整った。

  

「ようこそ、ヨーキリス夫人。お忙しいところ、突然呼び立てて申し訳ありません」

「いえ……。あの、息子は……ニーヴェルは無事なのでしょうか?」


 おお、先ずは息子の安否確認か。ケイレブ母と違って好印象だ。

 

「勿論。今は別室におります。話し合いが終わり次第、会わせましょう」

「そうですか……良かった……」


 とホッとしたが、表情は晴れていない。


 そりゃそうだ。正妻に認められていなかった愛人の、その息子が正妻の手元に居るのだ。安心しろと言われても、素直にハイそうですかはできまい。ヨランダの心内は穏やかではいられないだろう。


「あの、それで、息子はどうして街にいて、奥様に保護されたのでしょう?」

「それはこちらがお聞きしたいですね。何故ご子息は街を一人で出歩いていたのです? 普通、侍従や護衛の一人は側にいる筈では? 仮にも貴族の子供、しかもライニール様の遺児と称している者が一人で出歩くなど、危険極まりないでしょうに」

「それは……事情がありまして、今はどちらも付けられないのです。私は今、お世話になっているお屋敷のご息女の家庭教師をしております。息子は、『仕事の邪魔になるから、一人で勉強や剣の練習している』と言ってくれていたので、その言葉を信じていたので、てっきり部屋に籠もって集中しているものとばかり……」


 事情ね〜。


 これまたパーシーや周りから聞いた情報によると、彼らの生家であるヨーキリス家は、バルカン公爵家の隣に位置する小さな男爵領を治めている。


 かつては鉱山のお陰でウハウハな生活をしていたが、ヨランダの父親の代に鉱物資源が尽き、徐々に衰退。今は貧乏とまでは言わないが、日々の生活がカツカツらしい。


 だから親子の世話をする侍従も護衛も付けられないのはわかっていたけど、ニーヴェルが親にも知られず一人で出歩いていた理由を知りたかったので、敢えて色々知らない体で聞いてみた。

 

「成程。一人になったのを良いことに、人目を盗んで屋敷を抜け出していた、と」

「ええ、はい、恐らく……」

「……断っておきますが、私がご子息を攫ったということはありません。本当に全くの偶然、視察に下りた際にお見掛けしただけですので、そこは勘違いなさらないでいただきたい」

「も、勿論です。そのようなことは思っておりません」


 嘘付け。視線と言葉に疑いが込められてたのわかるぞ。まー、確かにこんな立場と状況じゃ疑わずにはいられないだろうけど。

 

「失礼ですが、ご子息は以前からこういうことを?」

「いえ、そのようなことはありません」


 即答で否定された。


「本当ですか? 街で見かけたご子息は、初めて一人で屋敷を抜け出した人間という感じではなかったですが?」

「ありません。両親からも何も言われておりませんし、息子は何事においても物怖じしない性格なので、そう思われたのではないかと思われます」

「ご両親?」

「はい。父である前男爵は、早くに息子……私の弟に家督を譲りました。私は家庭教師を生業としており、息子共々実家で厄介になってはおりますが、仕事上、時には依頼者の屋敷で長期滞在することもありますので、息子のことは両親に任せておりました。両親からは、素直で真面目な良い孫だとよく褒められております」

 

 『任せておりました(キリッ)』『褒められております(キリキリっ)』って……。


 そりゃ両親の言うことだから信じちゃうかもだけど、他人の家ですら人知れず抜け出せてたんだから、自分の庭であるヨーキリスだったら自由自在だったろうとか思わないかなぁ。

 

「……そうですか。わかりました。ああ、ご子息を連れ帰った理由ですが、保護というよりは拘束といったほうが近いかもしれませんね」

「こ、拘束っ? お、奥様? 拘束とは、思想や行動を縛る時に使うもので、大体は犯罪者を捕えたときに使用するものでして……」  

「言葉を誤って使ってる訳ではありません。ニーヴェル・ヨーキリスはバルカン公爵領内で、領民に乱暴を働きましたので、捕まえさせていただきました」

「ニーヴェルが!? ど、どう言うことですか!?」


 出し抜けにそんなことを言われて、動揺を隠せず立ち上がるヨランダ。青い顔に汗が伝う。


「そんな、まさか……あの子はまだ九歳ですよ? そんなことがあるわけ……」

「それがあるんですよ。私が目撃者です」

「奥様が!?」

「相手は下町で暮らす同じ年頃の少年です。倒れて抵抗できない相手に対して、木剣で殴り付けていました」

「え? ……あこ、それはもしかして、よくある子供同士の喧嘩というものでは……?」

「は? 何を仰ってるのです?」


 一瞬ポカンと間抜けな表情をした後、徐々に生気を取り戻して、子供同士のことに何を大袈裟なと言わんばかりに眉をしかめるヨランダ。


 全く事の重大さに気付いていない彼女に対して、不愉快さを全面に押し出す。ビクッ、とヨランダが怯えた顔をした。


「喧嘩とは、対等な立場でしか成立しません。ニーヴェル君は貴族、相手の子供は平民。貴族に逆らえば不敬罪や無礼者だと誹られるような立場を利用されて、一方的に殴られていることを、『ただの喧嘩』と? 例えこれが大人同士だったとしても、貴方は『友達同士の喧嘩なんだから』とでも言うのですか?」


 前世でも、一対多の暴力を『イジメ』と称して軽んじられる風潮だったけど、普通に傷害事件だからね。なんで子供だから……って甘く見られるのか、マジで訳わからん。自身の欲望を解消するためだけの暴力は絶対駄目だってちゃんと教えるべきなんじゃないのかな。

 

「それは……。でも、あの子はそんな非道いことは……」

「しないと言い切れますか? ご両親に預けて、ニーヴェル君とあまり関わりがないのに」

「ですから、両親が……」

「ご両親とて、ずっとニーヴェル君に張り付いているわけではないのでしょう? まあ、貴方がなんと言おうと、私はご子息がその立場を大いに利用し、嫌がる子供に一方的に暴力を振るう姿を見ました。全く野蛮で、下劣で、卑劣な行為です。正直、私の中でニーヴェル君へと印象はかなり悪くなっています」


 きっぱり言い切る。ヨランダは言い返す言葉が見つからなかったか、唇を戦慄かせ視線を彷徨わせた。


「それに、ここはバルカン公爵領。養子縁組もしていない今は、私だけの領地。私の領地で、私の領民に狼藉を働くのは、私を軽んじているのと同意義。さて、傷害、領域侵犯、不敬……一体幾つの罪状になりますことやら。私は、私の大事な領民を守る為に、ご子息の身柄を預からせて頂いた次第です。バルカン公爵家は、犯罪者を養うつもりは毛頭ありません」

「は、犯罪者ですって!? 裁判もしてない内に犯罪者扱いは酷いですわ! 訂正してくださいませ!」

 

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