お説教
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名前を呼んだのがいい抑止力になったのか、ギリギリのところで木剣が止められる。呼ばれた本人は、打って変わって焦り顔でキョロキョロと辺りを見回し、私の存在に気付いた頃には、私は彼の目前にいて――
「女の子相手に何してんだ悪ガキ!!」
ニーヴェルの脳天目掛けて、ゲンコツを食らわせた。
突然現れた私に、ヨツバや周りの子供たちはポカン。
頭を殴られたニーヴェルは目から星が飛び出したような顔をしたが、次の瞬間には「いってええええ!!」と悲痛な叫びを上げてその場にしゃがみ込んだ。
そんな彼の前に、私は仁王立つ。
「あんたねえ! さっきから見てたけど、何やってんの!? 他人の嫌がることを強いるのも無抵抗な相手を殴るのも最っ低のことだよっ!? しかも女の子にまで! 残るような傷できたらどうするの!?」
「う、ううっ……!! お、お前、誰だ……!?」
「誰ってあんた……! …………………………あ」
ヤッチマッター!!!!!
勢い余って、小学生時代クソガキだった二番目弟を相手にするときと同じ行動してしまった!! 二番目弟もニーヴェルと同じ乱暴者だったからね! ついついね!!
ってか、何日か前ケイレブ母に子供相手に暴力はいけませんよ〜って言ったばかりなのに! 言ってることとやってること矛盾してるやん!
いやでもこれは行き過ぎた暴力を止める為に必要なことだし! ケイレブ母にも、何もしてない子は殴るなって言ってたよーな気がするし、ニーヴェルは何かしてるし、ノーカンで(!?)
「っだ、誰でもいいだろう。単にお前の行動を見過ごせなかった大人だ」
「っお、オレは貴族だぞ! 貴族を殴っていいと思ってるのか! オレに手を上げたんだ! お前なんか、お祖父様に頼んで縛り首の刑に……!!」
勢い良く立ち上がり、涙目で私を睨み上げたニーヴェルだったが、私の顔を見た途端、さーと顔を青くした。
「あ、あ、あ、あま……あまま……」
「……私の顔は覚えていたのね」
カタカタと震えて、うまく名前を言えないみたい。ちらりとヨツバを見ると、彼女も私に気付いたみたい。驚いた顔で固まっていた。
「で? 何か言いたいことは?」
「え? え、え、い、い、あ……」
「も○い泣きかよ。懐かし」
「え?」
「なんでもない。さっきのやり取り聞かせてもらったけど。あのね、勘違いしてるようだから教えてあげるけど、確かに、貴族は王から領地を賜るが、あくまで『王の土地を管理している』ってだけ。領地を貰えるのだって、その貴族が何かしら王や周囲に認められる努力をしたからであって、貴族だから偉いって単純な話じゃないんだよ」
他の国や世界ではどうか知らんけど、アーディー王国では、兎に角一番偉く唯一絶対無二のは王様並びに王族で、土地も人も王様のもの。貴族が賜る領地は、あくまで『貸し出してるだけ』って感じ。
私もパーシーになんかの際のお小言食らったときに知ったんだけど。これが結構他の貴族もあまりに当たり前のことなのに忘れてるらしい。
まあ、よくよく考えてみれば『王の国』なんだから、そう言えばそうだよねって話だけども。
ちなみにバルカン公爵領は何も努力してないけど、王族と結婚ってだけで名誉だから与えられるらしい。あんま大口を叩けない。
「だから、お前が今している行為は本来の所有者である王のものを害してる行為に他ならない。もしあんたの行為が王にバレたら、領地没収……だけならまだいいけど、私財まで没収されて、一文無しで放り出されることあるんだからね」
ま、大抵の貴族は自分とこで握り潰しますけど。
「え……!」
でもま、子供にはいい脅しになってるみたい。青い顔を更に青くして、ダラダラと冷や汗を掻き始める。
「あ、あの、その、オレ……ぼ、僕……」
「更に言わせてもらうと、ここはバルカン公爵家の領地で、ヨーキリス男爵家の領地じゃない。私の領民に乱暴を働くなんて……なに、ヨーキリス男爵家はバルカン公爵家に喧嘩を売ってるの?」
「あ! い、いや! 違うんです! 家は関係ありません!! 僕は……その、えっと……」
「言い訳は良い。あんたがすべきは、彼女らに謝ることでしょ」
「……は?」
「ヨツバたちに誠心誠意謝罪しなさい、って言ったの。そしてもう二度とこんな蛮行をしないと約束しなさい」
「な……なんで貴族の僕が、平民なんかに頭を下げなければならないんだ!! ……ですか!!」
私の謝罪要求に最初は目を丸くしたニーヴェル。もう一度繰り返し請求すると、今度は憤慨して怒鳴り声を上げた。おうおう、逆ギレか。
「悪いことをしたんだから当然でしょ。正当な理由なく暴力を振るう輩は貴族でもなければ平民でもない、ただの犯罪者だ。貴族を名乗りたいなら、家名に恥じない行動を取りなさい」
「ぼ、僕はただ……そう! 剣の稽古をしてあげようとしたんです!」
はあ〜? 言うに事欠いて、何いってんだコイツ。
「……稽古?」
「そ、そうです! こいつらがっ」
「こいつら?」
「か、彼らが大人になったら騎士になりたいって言ってたから……僕は将来騎士になるために剣術を教わってるから……だから、僕が教わったことを、教えてあげようと思ったんです! 僕は悪くありません!」
「ヨツバに百叩きするって聞こえたけど?」
「ほ、ホントにやるわけないじゃないですか! ちょっとした余興です!」
……絶句……。
うちの弟ですら『なんか文句ある!?』って開き直るのに……いや、開き直るのも腹立つけど。
なんでこんなすぐバレるような嘘を吐くんだか……。
片手で頭を抱え、深いため息を吐く。呆れてものも言えない。
こりゃもーちょっとお灸を据えてやるかな……。
ふと地面に視線を落とすと、最初の方で落とされた棒が目に止まる。
拾い上げる太さは申し分ないが、長さが足りない……まあ、なんとかなるか。
踵を返し、棒を両手で握っめニーヴェルに向かって構える。所謂、剣道の中段の構えってやつだ。
「構えな」
「え? え……? あ、あの……何を……」
「どうした? まさか構え方も知らないとか? 習っているというのも嘘?」
「う、嘘じゃない! です! でも……」
「なら、その教わったことを私に教えてみろ。早くしろ。そのまま私の練習人形になるか?」
「ひ!」
脅しに屈し、恐る恐る木剣を構えたニーヴェルと対峙した。
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