幕間 〜一段落〜
付け足しました。
「ふい~! 終わったぁ!!」
あの後、宰相はケイレブを連れ立ってホーンバック公爵領に帰って行った。
一人払いをして誰の目もないのをいいことに、私は自室のにあるふっかふかのソファーに横になって思い切り伸びをする。肩の荷が一つ下りただけで物凄い解放感だ。
宰相の来訪は、手紙を出してすぐのことだった。当初の予定では、手紙をやり取りして徐々に詰めていくつもりで時間がかかるだろうと踏んでいたが、まさかの来訪……めっちゃびっくりした。
どうやら所用で偶々ホーンバック公爵領に戻っていたところに私からの手紙を受け取り、予定をずらしてまでぶっ飛ばしてわざわざ来てくれたらしい。マジで宰相様有難う。
ホーンバック家では、一粒種失踪から数年後に遠縁から養子を貰っている。養子は既に結婚して子供がいるが、幸いなことに子供は娘。ケイレブはその養子夫婦の養子とはなるが、公爵家の正当な後継者として大切に育てる、と家に来た時の事前の話し合いで宰相は語っていた。
その時は『本当にエンリケの息子であれば』という言葉を付けていたが……なんとなくだが、何かしらの予感を持って来訪したのではないだろうか。でなけりゃ、宰相ともあろうお人がこんなスピーディーに話を進めるか? 多くは語られなかったので知る由もないが。
一応、マーガレットも一緒にホーンバック公爵領に連れられて行った。馬車は別だし、どちらかと言えば彼女は護送扱いだつたけど。
本来であればバルカン公爵家に対する詐欺行為を裁く権利もあったのだが、宰相に「こちらで預からせてほしい」とお願いされていたのでお言葉に甘えさせてもらった。
というか、言われるまでバルカン公爵家で裁くとか全く考えてなかったのは私だけの秘密。
マーガレットは色々とやらかしているので、公爵家で身請けするのは難しいそうだ。今後彼女がどうかるかは知らないけど、金を渡して縁を切るか、公爵家で死ぬまで軟禁されるのか……ま、それは私の預かり知らぬことか。
帰り際、宰相に「我が家の揉め事に巻き込んでしまい、本当に申し訳なかった。この詫びは、ホーンバックの名に誓っていつか必ずしよう」と頭を下げられ、おまけにマーガレットに渡した金貨三十枚と調査費用を足しても多い金貨をお詫びとして頂戴してしまっている。もうそれだけで十分だし、寧ろわざわざ足を運んでくれたので早期解決できたとこちらの方が感謝していると伝えておいた。
実は、宰相とはアマーリエが王女時代に交流があった。ずっと『小父様』と呼び慕っていたが、結婚してからは領が隣同士だというのに一度も顔を合わせていない。今回三年ぶりの顔会わせとなったが、やはりアマーリエの豹変ぶりに驚かせてしまった。そこはパーシーやキャロライン同様、ライニールが死んで領主としての自覚が芽生えた云々で納得してもらったが。
アマーリエの思い出の宰相はニコニコした好々爺だったが、それは王女だからこそ向けられていたものだろう。その証拠に、再会してからはバルカン公爵夫人と呼ばれ、ゲームで見知った厳格な宰相らしく一貴族として対応された。
そんな老人からいきなり「君の祖父だよ」なんて言われてケイレブは戸惑っていたが、宰相の目は可愛い孫を見るそれであり、話しかける口調も心なしか優しかった。それはアマーリエの思い出の中にいる優しい小父様と似ているように感じた。まだ距離が感じられたが、一緒に暮らしていけばその内縮まるだろう。多分。
何はともあれ、神対応のお陰でケイレブの件はスピード&スムーズ解決!
「年は離れてるし、彼が成人する頃には私も夫と子供がいる……予定だし! 隣の領だけど、よほどのことが無ければ関わることもなさそうだし、殺されることなんて絶対ない! なんだかんだで長かったあ! ご褒美休憩申請してみようかな~」
実は書類仕事が立て込んでいて、バルカン領要所の街に行ったことがまだ無かったのだ。領主だっていうのにね。巡回も仕事じゃないの?
パーシーがOKしてくれるかどうかわかんないけど、流石に頑張ったご褒美はくれるっしょ。あとで仕事状況とか確認して、許可貰いに行ってみよう!
「よっしゃ! ちょっくらパーシーのとこいくか!」
すぱん、と膝を打って席を立つ。報告書と飲み終わったカップをソーサーごと持って部屋を出た。
本当ならベル鳴らしてメイド呼べば片してくれるんだろうけど、どうせ部屋を出るんだから見掛けたメイドに渡すつもりだ。
しかし、パーシーがいるであろう執務室に行く間にメイドには会うことは叶わず、仕方なくそのまま厨房に向かう。
「失礼……っと、誰も居ないのか」
昼は当に過ぎてはいるが、夜ご飯の支度にはまだ早い時間だ。料理人たちも休憩をしているのだろう。
何処に置いていいか判らなかったが、取りあえず水回りに置いておけば良いか。水道管のないシンクに似た所に近付く。
その際、近くにある筒状のごみ箱らしき入れ物が目に入った。
「……ん? あれ? これって……」
そこの一番上に置いてあったのは二組のティーカップ、だったもの。ソーサーは粉々で、カップも真っ二つに割れている。その模様には見覚えがあった。
何故ならそれは今日、私とマーガレットに出されたものだったからだ。
そこで私は首を傾げる。争ったりはしたがカップは倒れたりしておらず、最後までテーブルの上に鎮座していた筈。
「誰かが片付けるときに落として割っちゃったのかな。勿体ない」
使った感じ高価で新品同様、まだまだ使えるようなものだったので、庶民派な私としては勿体ない精神が先に出る。
あのガチガチに緊張していた若いメイドの顔が思い浮かんで苦笑する。次に茶を淹れてくれるなら美味くなってればいいなと思いながら、使ったカップを置いて、厨房を出た。
その割れた食器のことなんて直ぐに忘れてしまって、それが何意味するのか、その時の私には知る由も無い。
「奥様、どちらに行ってらしたのですか」
執務室に向かう途中、パーシーと出くわす。
「パーシー。丁度良かった。ちょっとお願いがあるのだけれど」
「お願い……? 何でしょう?」
「うん。……ん?」
外出許可を口にしようとしたが、その手に封筒を持っていることに気づく。
「もしかして、それ次の調査報告届いた感じ?」
「あ、い、いえ……こちらは個人的なものです」
「え?」
言いながらさっと手紙を懐に隠される。なんだなんだ、別に余計な詮索はしないんだからそんな慌てて隠さなくてもいいのに……まさかラブレターとか?
「と、ところで、奥様。お願いとはなんですか?」
「ああ、うん。実は……」
いつも誤字脱字報告して頂き感謝です(^人^)!
今回もお読みくださり、ありがとうございました♪




