表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ  作者: ヴァンドール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/12

10話

 冬の陽がやわらかく庭を照らしていた。

 久しく使われていなかった本宅の大きな門が、ゆっくりと開く。


 馬車の中から降り立ったのは、長い領地暮らしから帰られた侯爵様、エドモント様とアラン様の父上だった。

 威厳に満ちた灰色の瞳が、整えられた庭と新しく植えられた白い花々を見渡した。


「ずいぶん、変わったものだ」


 屋敷で、出迎えたのはトーマスさんとメイド長、それにわたくし。

 アラン様は少し離れた位置で控えていた。


「侯爵様、お帰りなさいませ」


「うむ、トーマス。それに、ローズ嬢、メイド長も元気そうだな」


 侯爵様はわたくしを見ると、しばし黙した。

 その視線には、遠くから見守ってきた者の静かな確信があった。


「すべて、聞いたよ」


 その一言で、場の空気がわずかに引き締まる。


「息子が不始末をし、家を混乱に陥れたと。そして私が信用し、全てを任せていた財務顧問が黒幕だったことも聞いた。

 本当に苦労をかけ、済まなかった。

 君が、屋敷と名誉を守ってくれたそうだな」


「恐れながら、わたくしは自分にできる範囲のことをしたまでですわ」


「できる範囲? いいや、君はそれ以上のことをしてくれた」


 侯爵様の声には、静かな敬意が滲んでいた。


「過去の清算で家の資金を立て直した。行方不明だった次男を救い、真実を明るみに出した。

そして、この侯爵家の名誉を守ってくれた」


 わたくしは、わずかに目を伏せた。


「侯爵家において、矜持だけは手放してはならない。それを守った君を、私は誇りに思う」


 その言葉に、屋敷の空気が変わるのが分かった。

 使用人たちの顔にも、わずかに安堵の色がさす。


「それから」


 侯爵様は少し間を置き、アラン様を振り返った。


「お前のことも聞いた。猫などになっていたとは、奇妙な話だが」


「父上、それは後でゆっくりご説明いたします」


「分かっている。しかし、戻ってくれて嬉しい」


 その穏やかな一言に、アラン様の肩がわずかに緩んだ。


「して、ローズ嬢」


「はい」


「私は考えた。君がもはやエドモントとは夫婦ではないことは承知している。だが、もしこの家に残る意志があるのなら、次の主としての伴侶を、私は頼みたい」


 静かな風が吹いた。

 冬薔薇の香りがふわりと揺れる。


 アラン様が一歩、前に出た。


「父上、それは」


「申し出だ。だが強制ではない。ローズ嬢がこの家を出たいなら、それも尊重しよう」


 わたくしは、少しだけ考えてから微笑んだ。


「侯爵様。わたくしは悪女としてこの屋敷に参りましたが、どうやら最後までその名で終わることはできませんでしたわ」


「ほう?」


「なぜなら、猫を人間に戻すなどという奇跡を起こしてしまいましたもの。もはや魔女と呼ばれる方が似合いそうですわね」


 侯爵様は一瞬きょとんとした後、静かに笑った。

 アラン様もまた、肩を震わせて笑いを堪えている。


「いいだろう、では魔女殿、この家の未来を頼んでもよいか?」


「はい、アラン様と、もう一度この家を蘇らせてみせます」


 侯爵様は満足げにうなずくと、深く頭を下げた。


「ローズ嬢。どうか息子を頼む」


 その瞬間、アラン様が一歩進み出て、わたくしの手を取った。


「貴女がいなければ、僕は今も夜の闇で鳴いていたでしょう」


「まあ、大げさですわ。ただの調香実験ですもの。それにアラン様はわたくしでよろしいのですか?」


「そのただの実験で、僕は人生を取り戻しました。それにあの日、僕を見つけてくれたのも貴女だ。だからというわけでは決してないが、僕はローズ嬢、貴女がいい。」


 夕陽がわたくしの頬を赤く染めた。

 冬の風は冷たいのに、何故か胸の奥は不思議と温かかった。


ーーーー


 侯爵夫人は、精神的に病んでしまって、アラン様が戻ったと聞いても無反応だったという。

 侯爵様は一旦、こちらに帰ってきて、エドモント様に、今までの責任を取らせるため、侯爵様が一緒に領地に連れて帰るという。

 そしてこのクイーンズ侯爵家はアラン様がお継ぎになることになった。

 そこには親としての複雑な顔が見てとれた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ