答え合わせ【4】
それをやろうとは思わない。
だが、勇者もどきは恐らくやっている。
それが出来る実力は間違いなくあるはずだ。
でなければ……あれほどのモンスターが今も城から出続ける理由に説明がつかない。
「目的は本人に聞かないとよく分からない」
「ま、まあ、そうだよね……」
「でも、モンスターを生み出してるのは勇者もどき。そうでないと、あの数は説明出来ない。……勇者もどきは体の中に『吹き溜り』を取り込みたい……でも、毒素が怖い……毒素をなんとかしたくて色々試してる間にモンスターが増える……。で、アレ」
指差すのは今もなおモンスターが出てくる暗黒の城。
リズが盛大に顔をしかめる。
つまり勇者もどきは我が身可愛く、しかしクリシドールと同じく『吹き溜り』の無限自然魔力は欲しい。
だから無難に毒素を解する方法を長年探し求めていた。
地上に関与しなくなった時間帯も、『吹き溜り』の魔力を利用して不老となり生きながらえながら研究を続けている。
『観測所』で分かった事の一つが、あの城の勇者もどきのそんな不毛な生活サイクルだ。
「……えっと、ミクルはそれが、出来ちゃった、って事なのね?」
「ヒントはオディプスさんがくれたから……」
「とはいえ、それにちゃんと気付いて実践し、果敢にも挑んで達成したのは少年自身の努力と実力と知力、そして勇気あっての事だろう。あの城に引きこもっている勇者もどきは外に目を向ける事もなく、新しい知識を増やそうともせず、一体なにをしているのかと思えば……まあ、既存の方法をぐるぐる試してモンスターを無限に増やし続けているだけだ。まあ、モンスターを増やす事は世界の浄化に貢献しているとも言えるけれどね……」
「いやいやいやいや! あんな量、相手に出来ないわよ!」
言い返すユエンズ。
至極もっともな意見だろう。
オディプスも「だろうね」と微笑む。
たお、下に降りてくるつもりはないらしく、手すりに手と顎を乗せてお茶を飲んでいる。
「本来ならば数千年単位で浄化するつもりだったはずだ。あのモンスターの発生は数百年規模でそれを短縮出来るが……人類を生かす為に行なっている浄化なのに、あの量が一気に襲ってきては人類が絶滅してしまうよ」
「じゃあ、じゃあ〜、勇者もどきはそこまで考えてないって事ですか〜?」
「さあ? それは本人に聞くしかない。もしかしたら本当にクリシドールに懸想して、彼女を『役目』から救おうとしているのかもしれないしね…………まあ、そう言われても僕は信じないけれど」
ワイズたちも険しい表情になる。
ああ、本当に……まったくだ。
どんな綺麗事を並べられてもやっている事はクリシドールにも世界にも迷惑極まりない。
クリシドールがやっている事はきっと、この世界の人類の時間を止めてしまっている。
しかしそれでも、まずは世界の延命が優先なのだろう。
それが終わった後なら──。
「あのね……おれ……勇者もどきを……倒すよ。倒して……あの城を……クリシドールを、弔う……」
ワイズたちの眼差しが集まる。
これは、もう、オディプスがそう言ったから従うのではない。
ミクル自身の意思で決めた。
長く『魔陣の鍵』の所持者だったから、彼女の『心』の影響を受けた……というわけでもない。
「…………そのあと、どうするの?」
不安げな表情でエリンが問う。
きっと彼女はミクルの答えを本当は『聞きたくない』。
けれど、聞いた。
縋るような表情だった。
それに、微笑む。
「……俺なら、勇者もどきなんかより、ずっと有意義に……浄化を手伝える」
ミクルには、毒素を魔石に変換生成する魔法がある。
自分の体を使って、だが。
「……っ」
「…………」
「…………」
「…………、……そう」
悲痛な表情になって、エリンは俯いた。
「…………やる気がないなら残ってもいい。この観測所は城の代わりに使わせるつもりだから、残していく」
「オディプスさん……」
「君の自由に使いなさい」
「……ありがとう、ございます」
正直城の中がどうなっているか分からない。
生活拠点があるのは助かる。
どう考えても、あの城の中はモンスターだらけ。
勇者もどきがどういう生活を送ってきたのかは分からないが、勇者もどきが使っていた生活スペースを自分が使うというのは如何ともし難い。
そして、「残していく」という言葉に言い知れぬ寂しさもまた感じた。
オディプスは、去る。
『勇者』を名乗る男……勇者もどき。
勇者を名乗るに相応しくない者を、『狩る』。
彼はその為にこの世界に来た。
目的を達成すれば去るのだ。
ずっと一緒にはいられない。
ほんの数ヶ月だというのに……ミクルの中で彼はこんなにも特別な人になっていた。
(その事に……気付けるのも……)
この人は──『師』だ。
だから見上げて、頷いた。
この人のために、この人に学んだ者として、立派に生きよう。
この人は恐らく自己評価が高くはない。
能力に関しては自覚がある。
だが人として、彼は自分を未熟だと言い張った。
否定はしない。
ミクル自身もそれほど自分をたいそうな人間だと思っていないし、彼がそうだというのなら彼の中ではそうなのだろう。
実際「この人は……」と呆れる事もあった。
それでも、それを引っくるめても……彼はミクルの『師』なのだ。
この人が誇れる人間になろう。
改めて心に強くそう刻む。
「明日の朝、乗り込もう。君もそれでいいかな、少年」
「はい」
「ではそれまでは自由にするといい」
「はい」
そう言って、オディプスは本を本棚から引き寄せる。
取りに行く事なく、本の方からオディプスに近付いたのだ。
それを手にして優雅にソファーへと座り直す。
「…………」
オディプスが戦う。
正直、ミクルは腹の中に『吹き溜り』を抱えた今もオディプスに勝てる気はしない。
彼ならばミクルの『吹き溜り』ごと利用して魔法を使うだろう。
未だに『吹き溜り』から毒素をどうにかする術も持たないであろう勇者もどきが、オディプス相手に戦えるとでも思っているのだろうか?
彼がなにを考えているかは、相変わらずよく分からない。
ワイズたちを鍛えた理由は『ミクルの為』。
オディプスが世界から去った後、ミクルが独りにならないように……。
「…………ご飯作ってくるね」
「う、うん……」
幼馴染たちの複雑そうな表情。
彼女たちの答えは、明日の朝聞けばいい。
次代の『魔王』となる少年について行くか、それとも自分の夢を優先するか。
部屋を出てから扉が閉まる。
ミクルは振り返らなかった。
前だけを見据える。
この世界は、おかしい。
成長しない世界。
だが、それも今だけだ。
きっと、ミクルが生きている間に世界は変わる。
変えて見せよう。
クリシドールと共に世界を救い、そして彼女を弔った後…………見届けるのだ。
きっとオディプスや、彼女が生きていた次代より遥か昔のように人は争い始めるのだろう。
その先にクリシドールの生きた時代のような『答え』が待っていたとしても──。
(…………進もう)
信じはしない。
それが、人だ。








