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part.ワイズ


 町に出て、店を見て回る。

 二十分ほどそうしていると、肩を叩かれた。

 振り返ると、そこにはワイズ。

 息を切らせ、頰を赤めて……満面の笑顔を見せた。


「へっへへー! 一番乗り!」

「? 他のみんなは?」

「競争してきたの! 誰が一番先にミクルに追い付けるか! 一番最初にミクルを見付けた人が、ミクルを……あ、なんでもなーい!」

「?」


 最後の方は途中で切られ、よく分からない。

 ただ、ものすごくにまにまと上機嫌。

 恐らく教えてはもらえないだろう。

 首を傾げつつ、教えてもらえないのなら仕方ないか、と諦める。

 女の子たちというのはえてして『秘密』が好きなのだ。

 村にいた頃もよくハブられたが、ワイズたちのこういう『秘密』は大体『女の子の秘密』。

 他の誰かが「秘密だよ」と言いながら教えてくれるので、ワイズ以外から後々垂れ込みがある事だろう。

 なので無理に聞き出す必要はない。

 腕を掴まれ、ご機嫌な彼女が「行こう!」と指差す先は食べ物の屋台。


「そういえばミクル、服も新しいね?」

「オディプスさんが……身長、大きくなったから、って……作ってくれた」

「え……お手製……?」

「うん」


 この時のワイズの想像と実際の光景は当然ながら全く違うのだが、ミクルはそれを察する事はない。

 まるで妖精さんが通過したかのように一時固まるワイズ。

 ゆっくり目を逸らして……。


「わ、わたしも! ミクルの服、選んであげる!」

「え? いや、これ、防具も兼ねてる、から……」


 魔法作り出された糸でで編まれているので、鋼鉄の鎧クラスの防御力を誇る。

 しかし見た目はただの布。

 デザインはオディプスの世界のもの。

 彼曰く「僕の生きていた時代のものだからデザインが古いかもしれないけれど、君の世界だと大丈夫じゃない?」と言っていた。

 デザインはよく分からないが、確かにミクルの世界ではあまり見かけない?


「わたしが選ぶの」

「…………はい」


 笑顔が、近い。

 いや、というか笑顔の圧が半端ない。

 ぐいぐいと引っ張られて服屋に連れ込まれる。


「防具を兼ねているのは分かったけど、着替えはあった方がいいでしょう?」

「う、うん……」

「そうねぇ、ミクルは色白だからこういう色とか似合うんじゃない?」

「…………」

「あ、こっちも可愛くない? これとかこれとか。こっちも着てみて!」

「あ、あうう……」


 デザインも様々。

 ただ共通して……露出がない。

 ダボっと大きめだが、一切肌を見せないようなものばかり。


「……なんかミクル、本当にたくましくなったね……」

「そう?」

「うん、背、伸びたし……腕もがっしりしてるし……」

「っ」


 ワイズの手がミクルの腕をさする。

 手を繋いだり、掴まれたりはこれまで何度もあった。

 でも、さすられるのは……。

 なぜかとても、胸がドキドキとした。


「すいませーん! これくださーい!」

「ありがとうございます」

「!?」


 ドギマギしている間に、ワイズは五着もミクルの服を買った。

 オディプスに習った空間魔法で荷物の類は持たなくていいのだが、それほど服が必要だとも思えない。

 せっかく魔物の素材などを売って貯めたお金をそんなにあっさりと、と心配するが、ワイズは「お金は使う為にあるの!」と言うので言い返せなくなる。


「……そういえば、オディプスさん、不思議がってた……」

「うん? なにが?」


 服屋を出て、食べ物の屋台が立ち並ぶ区画に来てミクルがぽそりと言う。

 オディプスはこの世界の在り方を、最初から変だ、と言っていた。

 町同士が離れているかと言って、人類……いや、権力者となるとその欲望は果てしない。

 もっと、もっとと支配の手を広げたがり、町同士で争いを繰り返す事で最終的に『国』が生まれる。

 そして国が出来れば今度は『国』同士が争い合い、潰し合う。


『魔法は、武器になる』


 そして剣や槍、弓などよりよほど多くを殺す。

 それが出来る。

 オディプスが広範囲魔法をミクルに教える事を渋っている理由はそこだろう。

 もちろん、オディプスはミクルがそんな事に魔法を使うとは思っていない。

 だが、それでも……。


(……オディプスさんの世界は魔法が戦争に使われた……って言ってた……)


『通貨』とは、そういう経緯を経て生まれるものだという。

 しかしこの世界はそういうものがないのにも関わらず『通貨』が存在する。

 これは少し変だね、と微笑んでいたが言われてみれば確かに変だ。

 オディプスの言う『歴史が書かれた本』もなく、あるのはいくつかの御伽噺と『疫病の魔王クリシドール』にまつわる物語。

 そして人民は主にその『疫病の魔王』を恐れて『禁忌の紫』を嫌悪する。


 ──この世界はおかしい。


(でも、戦争の話を聞くと……この世界は平和で素晴らしい)


 オディプスの語る戦争は悲惨だ。

 命がモノのように扱われ、消えていく。

 そんな世界になるくらいならこのままでいい。

 そして、魔法が戦争の道具として人を大量に殺すのなら……ミクルもそんな魔法は知らなくていいと思った。


「ミクル?」

「ん……なんでもない。……? それは……」

「お、可愛い彼女連れてるなぁ、坊主! もしかして、ゴロツキどもを追い出してくれた旅人ってお前さんたちかい?」

「っ!」

「や、ヤダー、おじさんたらー! まだ彼女じゃないんですよ、わたし!」

「あれ、そうなのか? じゃあ頑張れよ、坊主!」

「うぅ……」


 ただし並んでいる商品について聞こうと思っただけなのに。

 なにやらすっかりいじられている。


「ふふふ、で、えーと、これは、なんていう食べ物なんですか?」

「これはグレースプっていうんだ。小麦粉と水を混ぜた生地に、焼いた肉とこの辺りで取れるプスの実のソースをかけて食べる。食ってみな、めちゃくちゃ美味いぜ」

「頂きます!」


 なぜかワイズはとてもご機嫌だ。

 紙で包まれたグレースプという食べ物。

 座って食べるのではなく、立ったまま食べるらしい。

 ほかほかと湯気が昇る。

 充満するいい匂いの中で、目の前に突き出されたものは別格。

 ごくん、と口の中に増えた生唾を飲み込む。


「はい、ミクル」

「あ、りがとう」


 微笑んだワイズ。

 改めて、美少女だ。

 手渡されたほかほかの料理。

 思いの外大きなそれを両手で持って、歩きながら口を開く。

 はむ、と口に入れるとソースの甘酸っぱい香りがツン、と鼻を抜けていく。

 下の上に広がる想像と違う甘みの強いソースが表面だけしっかりと焼けた分厚い肉に絡まり、噛み切ろうとする度に下の上を刺激してゆく。

 肉は硬め。

 だが、中までほかほかでとても美味しい。


「美味しいね!」

「うん」


 他にも焼肉串や、野菜が挟まった肉サンド……ワイズは肉が大好きだが、ミクルは食が細いのであっという間に満腹になる。

 本当なら座ってまったり野菜スープでも飲みたいところなのだが。

 ワイズに手を引かれ、串に刺さった焼き果実を片手に連れて行かれたのは町の外れ。

 すっかり暗くなった空に溢れそうなほどの星。

 ほんの少し坂になっており、楕円形の柵に囲われているそこは展望所のようだった。

 その柵の一番奥に来て、ワイズは叫ぶ。


「あーん、残念! ここから見る景色は最高だって聞いてたのになー」

「そうなの?」

「うん、ここからあの湖が見えるんだって。星が出てるし、もしかしたらって思ったんだけど」

「…………」


 全く見えないわけではないが、光量が足りないので森しか見えない。

 そういえば、あの湖底へ行くための建物はどうなったのだろう?

 オディプスの事なので、用事が済んだら消えるように仕込んでありそうだが。

『探索』で調べると、やはりあの建物は感知出来ない。

 ミクル達が立ち去った後、分解されて魔力に戻ったのだろう。


「すごいな……」

「ん?」

「……ううん……」


 自分にそこまでの事が出来るだろうか。

 そう考えて手のひらを眺めるが、せいぜい建物を作るくらいだろう。

 あそこまで複雑な指示を、的確に組み込むのは無理だ。

 まして『吹き溜り』を作り出し、それから輩出される魔力を人工的に生み出した魔物へと流し込む。

 あれを全て同時に組み込むなんて、やはり彼はもはや神の領域。

『魔王クリシドール』でさえ到達し得なかった高みにいる。


「……、……ねえ、ミクルはこの旅が終わったら村に帰るの?」

「? どうして?」

「あ、えーと、あのね、実はわたし……このまま冒険者になろうと思ったの! なんか、旅してて、向いてるなーって思っちゃって!」

「…………」


 目を細めて彼女を見た。

 確かにワイズは向いているだろう。

 自由で、なににも縛られない……戦いのセンスも腕もある。

 朝、ゴロツキ達に取り囲まれたのは経験不足からだ。

 どこかの町の冒険者ギルドに登録して、良い仲間に恵まれればあっという間にAランクになれるだろう。


「うん……合ってると思う……応援、する」

「……ミクルは?」

「…………」


 目を背けた。

 ミクルはこの旅が終わった後の事を……ぼんやりとだがすべき事、しなければならない事を、理解し始めていたからだ。

 オディプスは魔石を集めて()()()()()()()()

 使い過ぎればどうなるのかは、今のミクルにもなんとなく分かるのだ。

 彼がいなくなった後の世界。


「村には、帰る?」

「え? あ、うん……帰ると思う、たまに」

「…………。そっか……なら、良かった」


 沈黙が流れる。

 ほんのりと暖かな風。


(……この世界は……おかしい。でも、平和だ。……おれも、この世界はこのままでいいと、思う……)


 首から下げた『魔陣の鍵』を取り出す。

 それをワイズが覗き込み、鍵が指し示す方向を見上げた。


「空? ……って、もしかして……最後の鍵って……」

「うん、あの城の中……」

「っ……! いよいよなんだね。エリンの中の『勇者の声』とかいうやつが言ってた、魔王との対決!」

「……」


 そんな事を言っていたのか、とミクルはやる気満々のワイズを眺める。

 エリンの事は話すつもりはないが、自称勇者の声とやらの事は話しておいた方がいいだろう。


「ねえ、ミクル」

「?」

「ミクルが嫌でなければ、ミクルも、わたしと一緒に冒険者にならない? わたしがミクルを一生守ってあげるよ!」

「…………」


 相変わらずワイズの中ではミクルは『守るべき存在』のようだ。

 少しは強くなったと思ったのだが……。


「……? え?」

「……、……さ、さーて! そろそろ宿に帰ろうか! 明日はいよいよ空のお城に突入だもんね! しっかり休まなきゃ! ね!」

「あ、え、あ……」


 去っていくワイズを、慌てて追う。


(ど、ど、ど、ど、ど、どう、どういう……!?)


 追うけれど、追いつけない。

 なぜかどんどんワイズが歩を早め、最後は駆けて行ってしまった。

 結局立ち止まって頭をかく。

 冷静に思い返しても、あれは──。


「え、えぇ……」



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