試練【2】
「魔力の使い方って、強化魔法の事じゃないの?」
首を傾げるワイズとリズの姉妹。
それで合っているのだが、それだけでは足りない。
「強化魔法だけじゃない……治癒魔法や回復魔法も教える。ただし、俺が……オディプスさんに教わったやつ。……まず魔力の使い方の、クセ、見る」
「クセ?」
そうしてまずは階段のど真ん中で魔法の基礎、魔力文字。
基礎的な魔力の使い方は、四人とも問題なく使えたようだ。
次は魔法陣。
魔法陣と詠唱により集められる魔力。
集めたら凝縮。
そして、使う。
(オディプスさんの世界は『収集』『凝縮』の過程があるから、強い魔法、使える……)
それがこの世界との差。
この世界の魔法は、その辺にある魔力を軽く寄せ集めて発動させる。
だから魔法は弱いのだ。
四人に覚えてもらうのは、その『収集』『凝縮』……そして『固定』。
オディプスに教わった強化魔法を覚えただけで四人は格段に強くなる。
(身体強化系の魔法はそもそもそれほど魔力を必要としない。これまで四人が使っていた魔法に術式を組み込む事で、格段に効果が上がる。あのスモークゴーレム……多分物理攻撃は効かない……。でも、魔法効果を付属させた魔法剣や魔法矢なら届く……。俺が魔法で倒すのは簡単だけど……)
最下層のあのスモークゴーレムと戦うのは、ミクル一人では無理。
戦い方を考え、作戦を練り、挑め。
そういう『指示』だ。
「えっと、こう?」
「お姉ちゃん、こうじゃないの?」
「エリン、には、治癒魔法や、防御力とか、結界、とか……新しく教えるから……覚えて、欲しい……」
「わ、分かった。教えて、ミクル」
「魔法を使う時にこのやり方をするの、結構大変じゃない? 時間ロスというか……」
「ユエンズは、弓矢……チャージ系が、いいと、思う。えっとだから……」
ユエンズの魔法は作った方が早そうだ。
(……相手は煙。エリンの得意な光属性で霧散を防いで、おれが固定化して……いや、それよりもユエンズの弓矢に気体を液体から固体にする効果を付加させた方が……? その後ワイズとリズに直接攻撃して倒す……? んん?)
魔法の練習をする彼女たちを見上げながら、あれやこれやと考える。
それらは一時間ほど続いた。
***
「よーし! いっちょやってみましょう!」
ワイズが拳を作って叫ぶ。
広場まで降りるが、やはりハリボテ。
この階層のスモークゴーレムは一向に動く気配はない。
「? ねぇ、ミクル〜? あの棒なんだろう〜?」
「棒……?」
リズが指さしたのはスモークゴーレムの頭の上。
なるほど、棒だ。
赤いラインの棒が横たわっている。
580、と数字が横に書いてある棒。
「……分からない……」
「何かのカウントかしら? まさかあの数字が0になると自爆するとかじゃないわよね……?」
「そんな事になったら、おれが結界を作って、おみんなを守るよ……」
「「「「!」」」」
ぽわ。
とみんなの顔がほんのりと赤く染まる。
なにが起きても、フォローする自信はあるが……。
(なら、下準備はしておこう。探索、鑑定、地面固定……)
戦闘でそこが抜けないように。
抜けたら全員が浮遊で落下死しないように……。
様々な危険を予見して、その予防をしておく。
ああ、ミクル単身なら考える必要もない事ばかり。
思わず口許が緩みそうになる。
とても勉強になる、と。
「行くよ! 我が身を軽く、我が身を強く、我が身を戦乙女へ! 『ルイシェーラ・ワルキューレ』!」
「えっと、わたしも! わ、我が身を軽く、我が身を強く、我が身を戦乙女へ! 『ルイシェーラ・ワルキューレ』!」
ワイズとリズが全身強化を行う。
「女性が使うと割増で効果が増す仕様」の身体強化魔法……。
オディプスが親指を立てて「負けず嫌いの姪の為に作った強化魔法なんだけど、ちょっと増し増ししすぎたんだよね!」とテヘペロしていたのだが若干「本当に大丈夫かな」と心配になる。
いや、心配していた。
実際使われると、変な汗が出てくる。
「お、おぉ……!」
「わあ! すごーい! すごいよお姉ちゃん!」
二人の体には白銀の鎧。
武器は白い光を纏い、彼女らの全身は強い魔力に覆われている。
ワイズが自身ありげに笑う。
「行くよ! リズ!」
「うん! 体が軽くて、なんでも出来そう!」
タッ、と駆け始める二人。
ユエンズとエリンも頷き合い、同じ魔法を自身にかける。
「「我が身を軽く、我が身を強く、我が身を戦乙女へ! 『ルイシェーラ・ワルキューレ』!」」
重なる声。
二人も同じように白銀の鎧がその身を纏う。
「本当にすごい……力が溢れてくるみたい……!」
「う、うん……これがあの魔王みたいな奴の世界の強化魔法……」
(魔王みたいな奴……)
否定はしないが、一応ミクルには魔法の師匠。
あまり悪口に聞こえる言葉は聞きたくない。
たが、飛び出していったワイズたちの声に顔をそちらへ向ける。
「煙なのに、攻撃が……!」
「通ったー!」
歓喜の声に、ユエンズが「本当!?」と驚いた。
煙のゴーレムには切れ目が出来ている。
しかし、すぐにそれは塞がってしまった。
塞がったが、スモークゴーレムの頭の上の赤い棒が少し短くなっている。
「数字、550になってる……」
「本当だ……あれなんだろう?」
「分からないけど……」
オディプスが用意したのなら、なにか意味があるはずだ。
観察する。
考えろ。
そう己に言い聞かせ、周囲をもう一度調べ直す。
「!」
ワイズとリズが攻撃し、また棒が短くなる。
その分、最下層の魔力が増加していくのを感じられた。
(いや、違う……! 攻撃していなくても最下層のゴーレムは、魔力が少しずつ増してる……あの棒は、関係ない……? じゃあ、あの棒は、なに?)
すごいスピードで駆けるワイズ。
動かない敵にリズが飛び上がり、短剣を両手で掴み振り下ろし、スモークゴーレムを上から真っ二つにする。
ゴーレムの棒がグググ……と『0』になった。
頭の上の棒が『0』になると、スモークゴーレムは霧散する。
「やった!」
「勝った〜! ……って言っても、全然動かなかったけどね……」
「そうだね〜」
さすがに全く動かないハリボテは張り合いがなく、物足りなかったのだろう。
唇を尖らせる姉妹に歩み寄ろうとした際、扉が開く音がして足を止めた。
下へと続く階段。
五人は、顔を見合わせる。
下へと降り中層中央にいるスモークゴーレムを見下ろす。
中層のスモークゴーレムもまた、頭に棒があった。
「あの棒はスモークゴーレムを倒せる基準が何かみたいよね……赤い部分がなくなると倒れる、のかな?」
首を傾げるワイズ。
ほとんど独り言のような確認の仕方だ。
だが、概ねそれで間違ってはいないだろう。
ミクルもそれに、同意である。
なにより、下層のスモークゴーレムの魔力はやはり強まり続けていた。
棒は関係ないのだろう。
(それにしても、まだ強くなるのか……どうしよう、おれだけでも難しいのに……)
下層のスモークゴーレムは強くなり続けている。
少しずつだが確実に、魔力の高まりを感じていた。
これ以上強くさせては、本当に勝ち目などなくなるだろう。
(とは言え、ワイズたちに魔力の使い方を、覚えてもらいたい……。下層の奴と戦うのに、きっと、ワイズたちの力も、必要……)
彼女たちを鍛える目的もあって、あんないかにも練習用な敵を用意したはずだ……あの人は。
そして、彼女たちを鍛える事でミクルにも新たな教育を施している。
人に教えるという事。
人と協力するという事。
作戦を立てて、協力し合い、敵と立ち向かう……。
(あんまり、考えたくない。でも……きっと鍵を集めるという事は……そういう事……なん、だと、思う……)
何度も浮かぶ考えを振り払いながら、しかし、それでも向き合わなければならない時が来る。
その時、ミクルは彼女たちと一緒にいたい。
その為にこの試練を乗り越えて、鍵を手に入れなければ。
「次のスモークゴーレムは、多分、動く……襲って、来る」
「なんで分かるの?」
「さっきと違って……中身も、魔力が通ってる、から」
質問しておきながら、ユエンズはミクルの答えにとても嫌そうな顔をした。
先程はハリボテ。
だが次は違う。
間違いなく攻撃してくる。
「おれは、下層の、敵と戦う、魔力……回復したい……」
「わたしたちだけで、あれを倒せって事ね?」
「…………」
こくん、と頷く。
頼めるだろうか?
出来るだろうか?
不安はあるが、そんな言い方をすれば彼女ら……主にワイズとリズの姉妹は悪い笑顔になる。
(あ……早まった……か、も……)
もう、遅い。
「やるわ! もちろんやるわよ! 任せなさい!」
「ふふふふふふふ……後ろから寝首書いてあげるよ……ふふふふふふふふふ」
「ワ、ワイズもリズも調子乗るものではないのだわ! ちゃんと作戦を立てて挑むべきよ! ね、エリン!」
「そ、そうだね。少なくとも、ある程度溜め技は必要じゃん? 今まで通りリズが引っ掻き回す隙にワイズが攻撃して削って、ユエンズの弓矢でトドメを刺す……。リズとワイズが怪我をしたらアタシが治す。まあ、それでも構わないけど、せっかく新しい技とか魔法を、ミクルに教わったわけだし……試してみるんなら、相応の作戦は必要だと思……」
うんうん、とミクルとユエンズがエリンの言葉に深々頷く。
しかしふと、目を向けた先にその言葉を誰より聞くべきな二人はすでに階段を駆け下りていた。
「おおーい!?」
「あ、あの子達! もー! いいわ、ミクル、私たちがあの子達をフォローするから、ミクルは魔力回復を優先して! エリン、貴女は一番後ろ! 前に出てはダメよ!」
「う、うん、分かった」
「っ……」
「大丈夫、ワイズもリズも、ユエンズも……アタシが結界とか防御壁で守るよ。せっかく教わったんだしね」
「エリン……」
頼もしい。
うん、と頷いて、ミクルは己の中の体内魔力の回復に専念する事にした。
でなければ最下層の敵とは戦えない。
全く、あの人はいささかスパルタがすぎやしないだろうか?








