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試練【1】


「ミクル? 大丈夫? やっぱり具合悪いの?」


 ユエンズが覗き込んできて、あっと声を上げる。

 想像し、考えるのはいいが今、目の前にいる彼女たちの事を蔑ろにするのは良くない。

 そういうのは一人の時にやるべきだろう。


「大丈夫。少し………………いや、かなり、嫌な予感がしただけ」

「…………」


 本音である。


「なんにしても、ミクルが『魔陣の鍵』を持ってて、道も出来ているのなら行くしかないよね!」


 胸を張ってワイズが言うと、ユエンズも「まあ、そうよね」と同意する。

 リズも「久しぶりに五人揃ったね!」とはしゃぐ。

 エリンはいつもの通り。


(ああ、確かに五人揃うの、久しぶり)


 ミクルもほんわりと笑みが溢れた。

 気が緩む。

 そんなミクルの手首をワイズが掴んだ。


「出発出発! 今から行けば夜には帰ってこれるよね!」

「ま、待ちなさいワイズ! まずは宿で荷物を回収してからよ!」

「あ、そうだった」

「んもー、お姉ちゃん……」


 いつもの四人だ。

 その輪の中に、戻ってきた。


(……落ち着く……)



 ***



 彼女たちが泊まるつもりだった宿屋から荷物を回収し、宿屋の店主に平謝りされた後、いよいよ湖にやってきた。

 町から森を抜けるととても大きく、澄んだ水の湖が広がっており……しかし、そこには明らかな人工物が佇んでいる。

 観測所とは様相がだいぶ違うが、まるで神聖な建物のよう。

 柱がたくさんあり、天井も平ら。

 湖に映るその建物は真っ白で、周辺の景色と相まって神秘的ですらあった。


「な、にあれ……」

「見て見てお姉ちゃん! あんなところに建物がある! きっとあそこに『魔陣の鍵』があるんだよ!」

「まあ、あからさまにそうっぽいのだわ」

「けどさ、どーやってあそこまで行くの? 確か道は出来てる、とか言ってなかった? ミクル」


 四人の幼馴染がミクルを振り返る。

 そう、道はオディプスが作った。

 ただしオディプスが作ったのは湖底への道である。

 その『道』へ至るまでの『道』は自分で作れ、という事のようだ。

 ミクル一人ならば浮遊でひとっ飛び。

 しかし四人の幼馴染たちを同時に浮遊させるのは──。


「! あ、そうか。これなら……」

「ミクル?」


 手を前へ。

 指先に自然魔力を集める。

 それで、描く。


「清廉な水、氷点下の美、可憐なる花を咲かせ、我が眼を魅了せよ。アイスカーペット!」


 ──オディプスは言っていた。

 この世界には、オディプスの世界のような『属性』がない。

 ないならば、作ればいい。


「「「「!」」」」


 バキバキバキと大きな音を鳴らしながら、湖の水が凍っていく。

 だが渡れるように平らに。

 しかし転ばないよう、表面はある程度は粗く。

 五人の人間が渡っても問題ないよに深く、硬く。


『氷の属性は水属性魔法を応用すればさほど難しいわけではない。さほどね』


 などと言っていたが……。


(どこ、がっ!)


 温度の調整、凍らせる範囲、硬度、水の温度の他にも周囲の気温を調べた上で行わねばならなかった。

 そう、いつもならオディプスが外から『足して』くれただろう、要素。

 不慣れな事もあり、集めた自然魔力は瞬く間に底をつく。

 見通しが甘かった。

 体内魔力で補填し、ギリギリ完成。


「くっ!」

「ミクル!? どうしたの⁉︎」

「え、なに!? 大丈夫!?」


 ワイズとリズに心配されてしまった。

 だが、倒れるところまではいかない。

 踏みとどまって、首を横に振った。


「少し、計算ミスった、だけ」

「け、計算? 魔法って計算なんかするの?」

「……まあ、それなり、に……」


 しかし、『氷道』は完成した。

 見通しが甘かったのは反省すべきところ。

 オディプスは今回一切手を貸してくれない。

 覚えているものならともかく、覚えている魔法を掛け合わせ、別な魔法として使用するのであれば想像力の足りなさはなかなかに致命的。

 今回は体内魔力が潤沢だったおかげで助かったが……。


「先に渡ろう……すぐに溶けるものじゃないけど……」

「え、あ、う、うん」

「なにこれ、氷? 魔法ってこんな事出来るんだ? ミクルすごくなーい? ねえ、お姉ちゃん!」

「うん! すごいね!」


 平和な姉妹の会話に、思わずふっ、と微笑む。

 恐る恐る氷の道に足を下ろすユエンズ。

 どこか怯えた姿に、ミクルが先頭を切って歩き始める。

 前方に誰もいない状態で、自身の腹に一つの魔法陣を敷いた。

 自然魔力を体内魔力に取り込み回復するための魔法陣である。

 体内魔力は放って置いても自然に回復するものだが、体内魔力はあくまでも保険。

 本来ならば使わないのが一番だ。


『君の体内魔力容量は凡人。まあ、極々普通』

『ふ、普通……』

『そう。ちなみに僕の容量は人外レベルらしいよ。こればかりは体質だ。でも、この魔法で魔力を毎日パンパンにしてご覧。もしかしたら容量が増えるかもしれないよ』

『……も、もしかしたら?』

『もしかしたら!』


 ……そんなやりとりを思い出して、肩を落とす。

 つまり誰も試した事はないし、当然成功するかも分からない……と。


(まあ、いいけど。自分の体で試せるのなら、やって損はない、と、思う……。許容量を超えられるよう、常に魔力を体の中に押し込み続ける……。でも、増えてる実感は、ないんだよな……)



 どちらかというと凝縮が起きている気がする。

 体内魔力の凝縮は、体に悪い。

 魔力そのものは無害だが、凝縮が続くと『魔石』になってしまうかもしれないのだ。

 それは、モンスターと同じになるという事。

 オディプスは「もしかしたらクリシドールもこの方法を試したのかもね。そして、魔女と呼ばれる程の力を手に入れたのかも。……まあ憶測だがね」と言っていた。

 人間の体に魔石が生成される。

 それはそれで興味深いが、取り出すにはどうしたらいいのだろう?


(あ……『解剖』すればいいんだ……)


 実に簡単な答えだ。

 思わずぽん、と手を叩いてしまった。

 おかげで四人からは「?」と表情を揃えられてしまう。


「……こ、こほん……」


 ごまかすようにわざとらしい咳込みをして、建物の天井を見上げた。

 最低限の柱、高い天井、そして、あるのは巨大な螺旋階段。

 まるで巨大な穴。


「すごい……これがミクルが言ってた『道』なんだね?」

「………………」

「なんでものすごく渋い顔してんの?」


 エリンに小突かれる。

 仕方がない。

 ここを降りれば間違いなく……いや、考えるのはやめよう。


「行こう……」

「う? うん?」


 階段を降り始める。

 降り始めて即、ミクルが懸念していた『モノ』の存在に全員が慄いた。


「うっ、そ……あ、あれって……!」


 震えた声を出したのはユエンズ。

 階段の下はホールになっており、先へ進む階段は扉で閉ざされている。

 そして、その扉の扉を守護する者(ゲートキーパー)はエヤミモンスターだ。

 煙を吐き出し、煙の体でふわふわと中央に浮かぶそれは──。


「煙のゴーレム? な、なんなのあれ」

「スモークゴーレム。風属性のモンスター。物理攻撃は一切効かない。魔法で強化した魔法剣も」

「ええっ!?」


 つまり、四人には絶対倒せない敵だ。

 しかしオディプスのオーダーは『彼女たちを強くする事』。


(ワイズたちに戦ってもらう……いや、違うな……)


 きっとそれだけではない。

 唇を尖らせたリズが「じゃあミクルがやっつけてくれるの?」となぜか拗ねたように言う。

 おそらくあの人は四人が『ミクルが倒してくれる』と期待するとでも思ったのか。

 それとも、四人のこの不満そうな顔も予測済みなのか……。


「…………いや、みんなで、倒そう」

「! ミクル! うんうん! だよね!」

「なにか方法があるの!?」

「! そ、そうよね! せっかく久しぶりに五人揃ったんだもの! みんなでやっつけるのだわ!」

「ま、まぁ、アタシは回復しか出来ないけど……」

「…………」


 エリンの一言にハッとする。


『彼女たちには強くなってもらわないと』


 その言葉。

 他の意味。

 考えればどんどん理解出来る。


(ああ、そういう事だったのか……)


 分かりづらい。

 しかし、ミクルもそれには大賛成。


「魔力の使い方を教える」

「え?」

「魔力の使い方?」

「うん、四人に……俺がオディプスさんに教わった魔法の基礎、教える。そして、その魔法の練習台……」


 ミクルが指さしたのはスモークゴーレム。

 よくよく考えれば、非常に恐ろしい相手であるものの、同時に無害でもある。

 おそらくあのスモークゴーレムは、無害。


「多分、あれ、襲って、こない。でも、次の階層のスモークゴーレムは、襲って、来る……と、思う」

「次の階層!?」

「えぇ〜っ、次の階層にもあんなのがいるのぉ〜!?」

「いる。この階層で『練習』して、次の階層で実践練習……最後の階層は……」


『探索』の魔法で建物内を調べると、螺旋階段を下るとここのような広場があと二つ……この場所と合わせて三階分存在する。

 その三つ、どの中央にも同じ反応。

 しかし、明らかに下へ行くにつれ巨大で強い魔力の濃度を感じる。

 オディプスお手製のエヤミモンスター……一階のアレはまるでハリボテ。

 魔力は表面に薄く滑らせるように巡っているのみ。

 一定の魔力攻撃を与えなければ勝てない。

 とはいえ、ミクルがやれば容易い一階のスモークゴーレムと違い、三階のスモークゴーレムは……。


(あれは……強い。俺が見た、どのモンスターよりも……強い……一人では、多分、勝てない)


 そこまで計算されて造られている。

 ここからでも『魔法耐性』『即死耐性』『分散』『拡散』『超速再生』などの能力が窺い見て取れた。

 こうして下層にいるスモークゴーレムの能力が分かるようにしているのには、『警告』の意味が強い。


『五人協力せよ。さもなくば──』


 と。



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