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三本目の鍵【後編】


 背中だけでも、今の付加魔法にミクルが自分で気付くかどうかを試していたはずだ。

 魔法は成長出来る。

 魔法を成長させるのは魔法を使う者のみ。

 それには魔法を使う者自身が考えて、成長を促さねばならない。

 ならば自分の師をより深く慎重に観察して、真似るのが一番手っ取り早いだろう。

 だが、オディプスは決して全ての手の内をミクルに教えてはくれない。

 それを意地悪いとも思うが、ミクルへの信頼でもあると、勝手に思っている。


「! オディプスさん……」

「ん。感知している」


 声を掛けると即座に二人はその場で止まった。

 森の中心部。

 そこにあるのは、比較的小さな井戸。

 その横には、朽ちた建物。

 木で出来た小屋、のようなものだろう。


「……お伽話の、通り……」

「そうだね」


 ごく、と喉が鳴る。

 別に魔女の話を信じていたなかったわけではない。

 しかし、お伽話の通りに『賢者の家』があるとは思わなかった。

 お伽話ではその小屋の地下に続く階段を降りると賢者がいる。

 賢者は勇者に試練と鍵を与えると書いてあった。


「試練……ある……?」

「どうだろうね? この世界に僕を楽しませられる試練があるなら話は別だが……」

「…………」


 首を横に振るう。

 ない。ありえない。そんなものはこの世界にない。絶対に、だ。

 断言出来る——。


「オディプスさんの出す課題より……難易度の高い試練は、ないです……」

「言ってくれるじゃないか。ではその賢者殿のお手並み拝見といこう。そこまで言うのだから、君が片付けてくれるのだろう? 少年」

「まあ……ダメだった時は……お願いします」

「ふふん」


 未知数だ。

 本当に『賢者』がいるのかも、試練があるのかも。

 そして試練があったなら、それはどんな試練なのか。

 だが前言通り、ミクルにとってオディプスの課題よりも難易度の高い『試練』があるとは思えない。

 によによと笑う師を背に残して、小屋の中に入る。

 今にも崩れそうなので、ここへ来る前に教わった方法を実践してみる事にした。

 新しく教わったのは、指先ではなく瞳に魔力を溜めて魔法を使う方法。

 鑑定、探索などの魔法はこちらの方が効率が良いそうだ。

 瞳……眼球に沿うように魔法陣を展開させる。


「…………」


 難しい、が、出来なくはない。

 オディプスの見立て通り、そのくらいの実力は整っているようだ。

 難しいが不可能ではないギリギリ。

 ミクルが超えられる高さの壁。


(魔力を眼に収集……凝縮、固定……魔法陣に展開……鑑定、探索、現場把握……完了。現場の空間を固定……。これで小屋の崩壊は、しない……。問題は、維持……。集中……)


 魔法を使い続ける……維持するのは難しい。

 ミクルにとっては攻撃系の魔法より、維持系の魔法が苦手分野。

 オディプスはその辺りも見抜いて、こういう維持系の魔法をよく使わせてくる。

 つまりオディプスはミクルの事をとてもよく見て、理解しているのだ。

 それがミクルからオディプスへの信頼に繋がっている。

 もちろん、前提として『魔法が絡んでいる』からというのも、あるのだろうが。


(これが出来るようになったら、片眼で出来るようにして……もう片方の眼で別な魔法を使えるように、同時使用の練習……。その後、眼での同時使用中に手でも魔法を使えるように練習して……)


 魔法は奥が深い。

 幅は限りなく広く、不可能な事などないようにさえ思える。

 きっと両眼、両手で別な魔法を同時に使えるようになっても、ミクルはまだ、オディプスの足元にも及ばないのだろう。

 その後は両足も追加で、と言われるに違いない。


(……地下……)


 本当は少しだけ彼の才能に恐ろしさを感じている。

 しかし、それ以上にその魔法の奥深さに興味が尽きない。

 小屋の端にある、崩れた本棚。

『魔陣の鍵』はそこを指し示す。


(固定のまま、移動)


 崩れては困る。

 ゆっくりと本棚を浮遊させて、動かす。

 そこにあったのは穴だ。

 階段は、ない。

 おそらく劣化で落ちたのだろう。

 覗き込み、『灯火』の魔法で下の方を照らす。

 道のようなものは健在。


(……祠……?)


『探索』で調査をすると、道の奥には祠のような小さなものを感知した。

 モンスターの類はいない。

 ふむ、と頷いてから、浮遊で地下に降りる。

 浮遊は維持したまま足はつけない。

 地下水が滲み出ていて、地面は川のようになっていた。

 進むと祠があった。

 石で出来た、簡素なもの。


「…………」


 その手前で、腕を組んで止まる。

 魔力量で石が動かせる魔法がかけられていた。


(……まさかこれが試練……?)


 両手に魔力を溜めて、ひょいひょいと脇に重ねていく。

 確かに魔法の衰退したこの世界で、魔力がなければ動かせない石、というのは試練になり得るのかもしれない。

 そもそも魔力を使わなければ動かせない、という事にさえ気付けない可能性もある。

 そう考えればなかなかの試練だっただろう。

 ……ミクルにはなんの試練にもならなかったが。


(でも『建物の空間固定』『鑑定』『探索』『浮遊』と『灯火』と両手に魔力の同時使用はやっぱり試練だったかも……)


 なんとなく、オディプスはここまで予想した上でミクルを一人で行かせたような気がする。

 あくまでも、ミクルの予想だが。


「!」


 石の中から現れた箱の中。

 ついに手に入れた——。


「三つ目……」



 ***



「お帰り。首尾は?」

「…………」


 三つ目の『魔陣の鍵』を掲げて見せる。

 そうすると、オディプスはにこりと微笑んだ。

 美しく、そして氷のような笑み。


「では次だ。残りは任せる」

「はい……」


 中級魔法はまだ中途半端。

 そんな状態で使うのは危険だろう。

 では、どうすべきか。


「一時間以内で終わらせたまえ」

「はい」


 島の半分の『掃除』は五十分程掛かったが、問題なく完了した。

 モンスターは一箇所に集めて始末……魔石を生成する。

 他にも、周囲の魔力を集めて『無属性』——属性無着色の魔石の生成を試してみた。

 しかしムラが多く、モンスターから生成したものより小さかなってしまう。


「理由はなぜだと思う?」


 自然魔力で生成した魔石のムラの多さと、思ったように大きく作れなかった理由の事だ。

 目の前にある小石程度の魔石を拾い上げ、モンスターを収集して倒し、生成した魔石との違いを考える。


「ん……凝縮……」

「正解だ」


 モンスターの体内で生成されている魔石は、吹き溜りからエヤミモンスターが生まれるのと同じように『凝縮』されているのだろう。

 その際に属性が色付けのようになされる。

 無属性の無着色の魔石を大きく作るには、凝縮が足りない。

 そして、凝縮すれば魔石は小さくなる。

 だというのにこの小ささ……。


(属性の付いた魔石の質量が大きくて安定してるのは、属性が補助してるから……。そうか、属性ってただ魔法を使う時にモンスターの弱点になるとかだけではないんだな……)


 勉強になりました。



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