part.ワイズ【後編】
「…………」
「ミクル?」
「オディプスさんに、会えなかったら……死んでた」
「!」
「きっと、モンスターも、倒せない、弱いままの、おれ、だった……だからほんとに……感謝、してる……」
ワイズの中のオディプスは『変態』のようだが、それはきっと方向性が違う。
変態は変態だけど、魔法研究特化型の変態だ。
口下手なミクルにはその辺りを上手く説明出来る気がしない。
なので、ワイズの手を取りさらに下へと進む。
次はガーゴイル——『魔女クリシドール』の作った、最後の門番。
「ミクルはすごく強くなったんだね」
「?」
「だって、わたしじゃ倒せなかったもん。それを一人で倒しちゃうんだから……」
「……対処法を、知ってた、だけ」
いざ最後の門、最下層にたどり着くと、ワイズにそんな事を言われた。
強くなった、とは違う。
自分は知識で補えた。
ただそれだけだ。
「…………わたしも強くなる」
「?」
「もっと強くなる。今より、もっと、もっと」
「……ワイズ?」
「ミクルに負けたくないもん。と、いうわけで!」
剣を引き抜くワイズ。
目の前には巨大な鉄の門。
その前にはこれまでにない広さの空間と、中央にダイヤ型の宙に浮いた石碑。
石碑の最上部には、翼を持つ悪魔の石像——ガーゴイル。
一定距離に近付けば、動き出して襲ってくるだろう。
そうなる前に、魔法で——と、思っていたミクルは剣を抜いて走り出したワイズに驚いた。
「ワイズ!」
「わたしだって!」
そして、次に目を見開いてまた驚く。
剣に輝きが付加された。
白い光を纏い、ワイズが駆ける。
そして、右に一度勢いを付けて構え、ガーゴイルが人の接近に勘付き動き始めた瞬間斜めに切り上げた。
その斬撃は強い光と風を纏い、ガーゴイルに襲い掛かる!
「!」
光と風の属性剣技。
それは通常なら魔法と変わらない。
杖で使う魔法だが、この世界では杖ではなく剣や弓矢、槍に纏わせるのが一般的。
しかし、『光属性』はそれそのものが扱える人間が珍しいと言われる。
『光魔法』の扱い方を学んだミクルも使えない事はないが、不思議と心身に相性があるらしくミクル自身、『光属性の魔法』とはあまり相性が良くない。
集中と大量の魔力を消費するが、使えなくもない、といったところだろうか。
「シャイン・クロス!」
直後、逆向きの光と風の斬撃を被せるように放つワイズ。
だが——。
(ダメだ! 遅い!)
そんな『光魔法』と『風魔法』を掛け合わせて纏わせた斬撃を放つワイズの剣技。
しかし、二撃目の斬撃が遅い。
『土属性』モンスターへ対する技としては効果が高いが、あれでは威力が半減してしまう。
『光魔法』と『風魔法』は相乗効果による効果アップが他の属性よりも格段に高い為、相性がとても良い。
だというのに、あれだけ二撃目が遅いと……。
『GURUUUUUUU!!』
「!」
「っ! 防御壁!」
作り出したのは風の『防御壁』である。
拳を振り上げたガーゴイルに、ワイズの技はさして効果を発揮せずに消えた。
その瞬間、ガーゴイルの拳が振り下ろされる。
直前にミクルが『防御壁』をワイズの前に張った為、衝撃と風圧のみで済んだ。
だが、その衝撃と風圧でワイズは後ろに尻餅をついてしまう。
「くっ! ……ま、まだ!」
「…………ワイズ!」
「わたしだって!」
「っ!」
ワイズの方がミクルよりも強かった。
それは『魔道士』という職業の『弱さ』も関係あるだろう。
しかし、それでも彼女は村で一番剣の扱いが上手く、男が束になっても簡単に切り抜ける程の才能を持っていたのだ。
そんな彼女の——意地。
「…………『全身強化』!」
「!」
「ワイズ! 君の全身、強化した! 今の君ならさっきの、撃てる!」
「ミクル! ……くっ!」
「! 『防御壁』!」
左の拳を振り下ろした次は右の拳を振り下ろしてくるガーゴイル。
それもまたミクルの『防御壁』でワイズが体勢を整える時間を稼ぐ。
ドラゴン種のような口をした悪魔の石像は、右の拳も防がれると両手を頭上で組み、振り下ろす。
「ワイズ!」
あれはまずい。
ミクルの詠唱を省略出来る『防御壁』では防ぎきれない。
そう思ったが、その前にワイズは左へと駆け始めた。
しかし、ガーゴイルは下半身がダイヤ型になっている。
簡単に向きを変えて、その両手を組んだ拳を振り下ろす。
「今のわたしは!」
「!」
「このくらい!」
詠唱、と思ったミクルが見たのは、全身に光を滾らせたワイズの姿。
彼女自身の『身体強化魔法』だ。
この世界の本来の魔法の使い方。
「っ!」
轟音であった。
彼女の剣先がガーゴイルの組んだ拳を受け止める。
いや、それどころか貫いてみせた。
ミクルは目を閉じる間も惜しむ。
それ程に、光り輝く剣を持つ彼女は美しかった。
これ程強かっただろうか?
彼女はこんなに美しかっただろうか?
目にも留まらぬ速さでガーゴイルの腕を斬り裂き、一度しゃがむとジャンプする。
彼女自身とミクルで二重に強化された体は軽々と天井付近まで飛び上がり、舞う。
金の髪が輝く。
「シャイン・クロス!」
白いスカートを翻し、光を纏う剣がバツの形をした光の斬撃を繰り出す。
口を開けたガーゴイルを真正面から四つに切り裂いた。
「…………」
ガーゴイルの断末魔。
門番が倒された時、鉄の扉がゆっくりと開く。
着地したワイズにふらりと近づくと、ワイズはニッと微笑んだ。
「ありがとう! ミクル!」
「ん、い、いや……」
あれはほぼ彼女自身の力だ。
ミクルの補助強化など微々たるもの。
それでもワイズは嬉しそうに笑ってくれる。
顔が熱くなって、思わず片手で隠して顔を背けた。
「んもー、恥ずかしがり屋なところは変わらないんだから〜。……それより……」
「…………」
ワイズが体の向きを変える。
そこにあるのは光を放つ扉の向こう側。
あの先に二つ目の『魔陣の鍵』がある。
「行こう」
「うん……」
矛盾は晴れない。
だが今は……ともかく『魔陣の鍵』を集めて『魔女クリシドール』の遺体を弔う。
ワイズと頷き合い、手を繋いでミクルは輝く門の中へと飛び込んだ。
そこにあったのは草原。
巨大なドーム状の場所は、草木で埋め尽くされ、その中央に台があった。
小箱が回転しながら浮かぶ。
近づいてみると、中にミクルの持つ『魔陣の鍵』と同じデザインの鍵があった。
「……ミクルが持って行って」
「!? でも……」
「ううん、今回はほんとわたしの負けだから。いや、まあ、別に勝負してたわけじゃないけどさ……。……なんか、そんな気分なの」
「ワイズ……」
彼女の方を、向く。
ワイズは少し悔しそうに笑う。
そして、少しだけ考え込んだ後……真っ直ぐにミクルを見た。
「わたし、強くなる。そして次はミクルより早く『魔陣の鍵』を手に入れるよ。……あのへんた……じゃなくて、オディプスって人が言ってたよね……『今の君たちじゃ役不足』って」
「…………」
言っていた、確かに。
しかしあれはどういう意味なのだろう?
なんとなく、ただそう言ったとも思えないのだが。
「なら強くなる。そしてあの城に行けるだけの実力を必ず付けて……ミクルの事、助けに行くから!」
「? え? おれ、別に……」
「んふふ! まあ、そういう事にしておいてよ! ……じゃあね!」
「え!?」
「見て、あそこに階段がある。多分上に戻れると思う! リズたちと合流して、次の鍵を探しに行く! 次は絶対負けないんだからねー!」
「……ワ、ワイズ!」
手を振りながら行ってしまった。
呆気に取られつつ、しかし、彼女らしいとも思う。
掌を見つめる。
温かな感触が、まだ残っていた。
「…………」
その手を握り締め、顔を上げる。
そして小箱に手を伸ばした。
箱が開く。
二つ目の『魔陣の鍵』を手に入れた。
残りの『魔陣の鍵は』——後三つ。








