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二本目の鍵



 御伽噺の中で『ゲティルト山』。

 思っていた通り、それは『オファディゲルト山』の事のようである。

 村に結界を張り、観測所に戻って二日後──ミクルはオディプスと共にその山に向かっていた。

 魔女クリシドールの遺体を弔う、とオディプスは言っていたが、『魔陣の鍵』を集め、その鍵が指し示す方向にその遺体があるというのはにわかには信じがたい。


「……モンスター……」

「ちょうど良い、あれで教えた事を試してみたまえ」

「はい」


 前方に現れたのは猿のようなモンスター。

 素早い動きに翻弄されそうになるが、身体強化の魔法を自身にかけてオディプスに手ほどきを受けた武闘技を仕掛ける。


『我々のような魔法を主にする者は、近接戦闘が苦手だ。君もそうなんじゃないのかい?』


 ギクリ。

 それを言われた時、思わず全身が硬直して冷や汗が流れた。

 その通り過ぎて。

 体を動かすのが元々とても苦手で、当然剣も弓も槍も、村で教わる最低限の自衛すらろくに覚えられず仕方なく『魔道士』になったのがミクルである。

 観測所でオディプスが「体の動かし方だけ覚えておきなさい」と、戦う時の型だけは学んだが……筋肉もないミクルに近接戦闘など絶対に無理。

 しかしそれでも、オディプスの「身体強化すれば楽!」という満面の笑顔を信じる事にした。

全身強化(オートヒートアップ)』という強化魔法をかけた後、木の枝を器用に飛び移り襲い掛かってくる。

 だが、不思議な事にモンスターの動きはやけに遅い。

 太い腕でミクルに殴り掛かるその動きが、スローモーションに見えた。

 難なく避けて、後ろに回り込む。


(えっと、親指は拳の中に、しまう。怪我、してしまうから……)


 脇はしめる。

 そうする事で軌道が安定する……らしい。

 体は地面に真っ直ぐ立つ。

 足は肩幅に開く。

 腰を低く、膝はやや曲げ柔軟な姿勢を取る。

 振り返って、再び襲い来る猿のモンスター。

 猿のモンスターを最初の標的に選んだのは()()()()()()()()()()()()()


(攻撃を避けつつ、強化魔法が続く、限り、逃げ……回る……)


 強化魔法の持続時間も分かるし、重ね掛けの練習にもなる。

 近接戦闘の苦手なミクルは、これで回避も学んだ。

 相手の攻撃の観察。

 攻撃パターンがあるので、それを覚える。

 とはいえ、敵によって攻撃パターンは違うのでこいつだけの攻撃パターンを覚えても仕方ない。

 しかし、経験として覚えたものは残る。

 決して無駄にはならない、というのがオディプスの教えだ。


(慣れてきたら、反撃、してみる……)


 相手が逃げ回るミクルに苛立ち、更に猛攻を重ね、それでも逃げ続ければ疲弊する。

 相手が疲れてきたら、拳で殴り付ける。

 しかしその際は、三つの付加魔法を合わせる事。


筋力上昇(マッスルアップ)俊敏上昇(スピードアップ)負荷軽減(ロードダウン)……)


 にっこり笑顔で「怪我をしないためのものだよ」と言われて、そういうものなのだろうと思っていた。

 ……実際モンスターを殴り飛ばすまでは。


「ぎぃいいいいぃー!」

「!?」


 ぶっ飛んだ。

 木を数本なぎ倒し、五メートルほどモンスターは飛んでいき……そして消えた。

 思いもよらないぶっ飛び具合に固まるミクル。

 ふわりと宙から降り立つオディプスは「初めてにしてはなかなかだけど、加減を間違えたね」と小首を傾げて見せる。

 可愛いつもりか?

 いや、それはいいのだが、自分は言われた通り、教わった通りの魔法を使っただけだ。

 それなのにこの威力。

 口をパクパクさせて、抗議の言葉を探すが上手く出てこない。

 モンスターは、確かに倒せたが……これでは過剰攻撃ではなかろうか?


「あ、あう、あ、こ、攻撃、おれ、こんな……」

「うん。君はだいぶ強化に関して長けてきた。ならばそろそろ逆……加減も覚えた方がいい。僕もよくやりすぎて、叱られてしまったからね」

「……か、か、げん……てか、げん?」

「そう」


 手加減……と、もう一度呟く。

 確かに最近初級の魔法を中級レベルに強化して使うやり方を教わり、出来るようにはなってきていた。

 だが、それだけではダメらしい。


「対人戦になった時、この威力だと相手をただの肉塊にしてしまうよ」

「ひぇ……」


 体がガタガタブルブルと震える。

 自分の手で、人間が跡形もなく消し飛ぶ光景。

 絶対に見たくない。


「もう少しこの辺りで練習しようか。それとも先に鍵を探す?」

「か、ぎ、さがし、て、きます……」

「そうかい? まあ、元々それが目的だしね。手加減の練習は鍵が手に入ってからやろうか?」

「……(コクコク)」


 たまたまモンスターが目に入ったから、近接戦闘の練習をしてみたが……今日の目的はあくまでも二本目の『魔陣の鍵』。

 優先順位を間違えてはいけない。

 無言で縦に頷くと、オディプスは「ふむ」と頷いて微笑む。


「では君が出てくるまでに、ちょうど良さそうなモンスターを集めておこう」

「……、……あり、あ、ありがとう……ござ、います……でも、あの、あんまり、いらない……」

「ふふふ、遠慮する事はない。対人戦で失敗して相手を肉塊にしたくはないだろう?」

「………………」


 それは、いやだ。

 なので肩を落として頷く。

 オディプスとしては他にも調べたい事や試したい事があるらしい。

 彼と別れて山へと飛び上がる。

 モンスターはあの城が空に現れて以来、危険なものが多くなっているので、見つけ次第始末するようにしていた。

 小物は多いが、先程の近接戦闘練習を思い出すと練習相手に程良い。

 しかし、十体を超えた辺りから嫌気が差してくる。


(魔法で戦いたい、普通に……)


 モンスターとはいえ、殴るという行為が好きではない。

 剥き出しの岩肌を浮遊しながら登り、鍵を取り出す。

 指し示す方向は断崖絶壁。

 これを進むのは『魔法』が使えなければ無理だ。

 更に言えば、この『浮遊』や『飛行』の魔法はミクルとオディプス以外使える人間はいないだろう。

 そのぐらい、この世界の魔法はしょぼい。

 いや、ミクルもオディプスと出会う前は魔法自体の危険性を認識していたはずだ。

 だが、魔法は道具。


『剣や包丁と同じ。使い方を間違えなければ、これ程素晴らしいものはない。使い方を間違える人間にならなければいい』


 例えば──魔法で人を殺める。

 例えば──魔法で人を操る。

 例えば──魔法で世界を支配する……。

 もちろんミクルはそんなものに興味はない。

 オディプスから学ぶ魔法の未知なる領域に好奇心が刺激されるだけだ。

 なにより、軟弱なミクルには魔法はとても合っている。

 幼なじみたちを守れるくらい強くなりたい。

 ずっとそう願っていたのだから。


「…………モンスターの反応じゃない……?」


 断崖絶壁を飛行していると、大きな穴を見つけた。

 おそらくあれが『魔陣の鍵』のあるところへの入り口。

 だが、その真上付近にモンスターとは違う反応がある。


「!」


 人間だ。

 人間がこの断崖絶壁の上にある一本の木に引っかかっている。

 しかも、あれは──!


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