91/402

餅入りチーズスープ

こっちの世界でも新年を迎えた異世界キッチン。

スタッフの都合も考慮して各自の都合に合わせて回している。

今は昼時のためアレッシオとリーザはいない。

ホールは由菜とエトの二人で回している。

「この辺りですよね？噂の料理屋は」

「年明けでもやっていると聞いたので、少し寄っていきますか」

「何か暖まれるものがあるといいのですが」

「ああ、ここですね、では入りますか」

彼女の名はメリル、この国で士官をしている。

この季節は仕事も増える事もあり、仕事を引き継いでその帰りにやってきたようだ。

「防犯はしっかりしているんですね」

「中は暖かい…これなら防寒着は必要ないですね」

「見た事のないキカイもたくさんありますね、あと家族連れや子連れが多い」

「いらっしゃいませ！何名様ですか！」

「一人です」

「かしこまりました、おタバコはお吸いになられますか」

「いえ、吸いません」

「かしこまりました、では禁煙席にご案内しますね」

「給仕は若いのだな」

そうして席に案内される。

そこで一通りの説明を受ける。

説明は問題なく理解してくれた様子。

エトは一旦奥に下がり他の注文を受けに行く。

「そういえば水はセルフと言っていましたね、取りに行かねば」

「ここにコップを押し当てて…しかしこの店は凄いものですね」

「あとは氷と手拭き、これだけでも相当の大金が投じられたのが分かりますね」

「さて、注文を決めてしまわないと、料理は様々なものがありますね」

「体が暖まるもの…あまり食べすぎるのもありますから…」

「ん？これはよさそうですね、これにしますか」

「確かこのボタンで」

ボタンを鳴らして店員を呼ぶ。

少しして由菜が出てくる。

「お待たせしました、ご注文はお決まりですか」

「ええ、これとセットドリンクを頼みます」

「かしこまりました、お餅の数は銅貨一枚で一つ追加出来ますがどうされますか」

「そのままでいい」

「かしこまりました、ではオーダーを復唱させていただきます」

「餅入りチーズスープとドリンクバーです！」

「オーダー！餅入りチーズスープとドリンクバーです！」

「喜んで！」

「では少々お待ちください」

「シェフは奥なのだな、まあ当然か」

「さて、飲み物を選びに行くか」

そうして飲み物を選びに行く。

一通り見て選んだのはホットコーヒーだった。

入れるものはミルクのみ。

こっちにもコーヒーはあり砂糖は少し高めなのもあってかミルクのみで飲む人は多い。

「ふぅ、落ち着きますね」

「それにしてもこのコーヒーは美味しいですね、知っているものとは全然違う」

「飲みやすいのもありますが、何より味が違う」

「やはり冷えた体にはホットコーヒーが一番ですよ」

そうしていると餅入りチーズスープが運ばれてくる。

チーズの焼けた香ばしい香りのするスープだ。

「お待たせしました、餅入りチーズスープになります」

「ああ、すみません」

「こちらは伝票です、会計の際にお持ちください、それでは」

「さて、ではいただきますか」

餅入りチーズスープ、チーズを熱で溶かして煮詰めたスープに餅を入れたもの。

チーズは少し焦がすのが美味しさの秘訣だという。

スープとは言うが、チーズの粘り気が少しありフォンデュにも近い。

スープに入っている丸餅がチーズとよく絡み味を引き立てている。

使っているチーズは三種類、ゴーダ、エメンタール、チェダーのチーズ。

それらを鍋で煮詰めて溶かしてスープにしている。

完全な液状ではなく少し粘り気を残すのが美味しさのコツらしい。

そのためなのか注文から提供まで他の料理より少し時間をいただく事になっている。

冬のクリスマスから正月が終わるまでの本当に短期間限定の料理でもある。

ここではフェアのメニュー以外にも、たまにごく短期間のみ出る限定メニューがあるのだ。

「ん、これは美味しいですね、チーズの美味しさももちろんですが、深みがあります」

「この餅というのも少量ですがお腹に溜まりそうですね」

「入っている餅は全部で三つ、それでも満足感があります」

「それにしてもチーズスープというのはまた発想が面白いですね」

「体は温まるし、お腹も満たされる、これは実に素晴らしい料理だ」

「しかしスープでお腹が満たされるというのもなかなかに新鮮な経験ですね」

そうしているうちに餅入りチーズスープを完食する。

飲み物を飲み干し会計を済ませる事に。

「すみません、支払いを頼みます」

「はい、餅入りチーズスープとドリンクバーで銅貨七枚になります」

「ではこれで」

「銀貨一枚いただきます、お釣りの銅貨三枚になります」

「確かに」

「満足していただけマシタか」

「あなたがシェフですか」

「ハイ、シェフ兼オーナーのアヌークといいマス」

「とても美味しかったです、あんな料理ははじめてでした」

「満足していただけたなら何よりデス」

「それよりあの餅というのはなんですか？」

「あれはお米を練って整形したものデスね」

「あれはコメなんですか」

「ハイ、餅米というお米を使って作っていマス」

「なるほど、しかしチーズスープというのも新鮮でした」

「あのスープはヒントを参考に作ったものデスから」

「向上心があるのですね」

「料理は創作みたいなものデスからね」

「なるほど、おっと、では私はそろそろ失礼します、また食べに来ますね」

「制服って事は軍人とかかな」

「だと思いマス」

そうしてメリルは満足そうに帰っていった。

それから彼女は非番の日などはよく食べに来てくれるようになったとか。

冬はスープはとても暖まるのです。