76/402

きのこあんかけラーメン

季節も変わり異世界キッチンでは秋のフェアが始まった。

日本の期間で冬になるまでの限定メニューが新たに出揃う。

秋は美味しい食材も豊富に揃い和洋中だけでなくデザートも美味しい。

そんな秋フェアのメニューも結構出ているようで。

「この辺りですよね、噂の料理屋は」

「友人の話では異国の秋の味覚がいただけるとか」

「職業柄という事もありますが、せっかくですしね」

「おや、ここですか、では早速」

彼の名はアダムス、田舎でキノコ栽培をしている。

王都にキノコを卸しに来た際に以前友人に聞いたこの店の事を思い出した様子。

「二重扉にベル、なるほど」

「中は涼しいですね、まだ暑さが抜けきらないですしちょうどいい」

「見た事のないキカイが多いですね、経営者は異国の人なのか？」

「いらっしゃいませ！何名様ですか！」

「一人ですよ」

「かしこまりました、おタバコはお吸いになられますか」

「いえ、吸いません」

「かしこまりました、では禁煙席にご案内します」

「あの給仕、どこかで見たような…気のせいですかね」

そうして席に案内される。

そこで一通りの説明を受ける。

説明は問題なく理解した様子。

エトは一旦奥に下がり別の注文を受けに行く。

「そういえば水は自分で取りに行くんでしたね、取ってきますか」

「ここにグラスを押し当てて…このキカイは見た事がないですし、やはり異国の？」

「あとは手拭きと氷ですね、それにしても凍らせるキカイまでとは」

「さて、注文を決めてしまいますか」

「ふむ、メニューも様々ですね、一通りのジャンルは抑えて甘味もある」

「おや？これは…ふむ、ではこれにしますか」

「確かこのボタンで」

ボタンを鳴らして店員を呼ぶ。

少しして由菜が出てくる。

「お待たせしました、ご注文はお決まりですか」

「ええ、これとこれ、あとセットドリンクを頼みます」

「かしこまりました、デザートは食後でよろしいですか」

「ええ、構いません」

「かしこまりました、ではオーダーを復唱させていただきます」

「きのこあんかけラーメンとさつまいもアイス、ドリンクバーです！」

「オーダー！きのこあんかけラーメンとさつまいもアイスとドリンクバーです！」

「喜んで！」

「では少々お待ちください」

「料理人は奥なんですね、まあ当然ですか」

「さて、飲み物を選びに行きますか」

そうしてドリンクバーに飲み物を選びに行く。

一通り見て選んだのはキャロットジュースだった。

ここのキャロットジュースは美味しいと知り合いから聞いていた様子。

野菜ジュースというのも珍しいようではある。

「ん、これは美味しいですね、凄く甘い」

「にんじんのジュースと聞きましたが、こんなに甘いものなんですか」

「砂糖を使ってある…にしてはにんじんの味が濃い」

「使ってないとしたら、にんじん単体でこの甘さ…なんでしょうか」

そうしているときのこあんかけラーメンが運ばれてくる。

きのこと野菜がたっぷり乗った中華あんかけラーメンだ。

「お待たせしました、きのこあんかけラーメンになります」

「どうも」

「熱いので気をつけてくださいね」

「分かりました」

「デザートが必要な時はお呼びください、それでは」

「さて、いただきますか」

きのこあんかけラーメン、秋フェアの中華のメニューの一つだ。

たくさんのきのこと野菜に熱々の中華あんをかけたあんかけラーメンである。

使ってあるきのこは椎茸に舞茸、平茸にしめじにきくらげなど。

季節的にはいつでも食べられるきのこだが、秋のものは味が違うらしい。

野菜は青菜ににんじん、金針菜などが乗っている。

金針菜は少しお高い食材なのでこのきのこあんかけラーメンも少し高めになる。

そもそもフェアのメニューは通常のメニューでは使わない食材もよく使う。

そのためどうしても定番メニューよりも少しだけ高くなるのだ。

だが季節の限定メニューとしての使用ならそこまでのコストにはならない。

限定という事もあり、客は結構頼んでくれるので結果的に黒字になるのだという。

「ん、これは美味しいですね、でも熱い」

「きのこが様々乗っていますね、見た事あるきのこもいくつかある」

「でも私の知っているものに比べると味が全然違う…」

「同じきのこだとは、思うのですが明らかに味が美味しい」

「野菜も種類はそこまで多くないものの、この味は全然違う」

「この野菜は…アスパラではないですよね、似ていますが違う」

「きのこも野菜も知っているものとは全然違う美味しさとは…気になってしまいますね」

そうしているうちにきのこあんかけラーメンを完食する。

あとはデザートを頼む事に。

「お待たせしました、デザートですか」

「ええ、頼みます」

「かしこまりました、器はお下げしますね、少々お待ちください」

由菜が器を下げて奥に戻る。

それから少ししてさつまいもアイスが運ばれてくる。

「お待たせしました、さつまいもアイスになります」

「どうも」

「こちらは伝票です、会計の際にお持ちください、それでは」

「さて、いただきますか」

さつまいもアイス、使っているさつまいもは安納芋だ。

アイスとしてはアイスクリームにさつまいもを混ぜ込んだもの。

バニラアイスのような感じのアイスに安納芋を混ぜてある。

安納芋の甘さがとても美味しいアイスクリームだ。

「ん、これは美味しいですね」

「さつまいもと言っていたので、芋を使っているんですよね」

「芋自体はありますが、さつまいもというのは初耳だ、実に美味しい」

そうしているうちにさつまいもアイスも完食する。

飲み物を飲み干し会計を済ませる事に。

「支払いをお願いします」

「はい、きのこあんかけラーメンとさつまいもアイスとドリンクバーですね」

「全部で銀貨一枚と銅貨二枚になります」

「ではこれで」

「ちょうどいただきます」

「満足していただけマシタか」

「あなたがシェフですか」

「ハイ、シェフ兼オーナーのアヌークといいマス」

「とても美味しかったですよ、それにしてもあのきのこは凄いですね」

「きのこは秋の味覚の代表格デスから」

「何か特別な栽培法とかあるんですか」

「それはなんとも言えマセン、あくまでも仕入れる側デスから」

「そうですか、あとキャロットジュースは砂糖は使っていませんよね」

「ハイ、無添加デスよ」

「それなのにあの甘さ…凄いな」

「こちらにも似たようなものがあるとは聞いていマスが、味は違うようデスね」

「そうですね、同じ野菜なんかでも全然違います」

「そこは世界の違いデスか」

「なんにしても勉強にはなりました」

「それは何よりデス」

「では私はそろそろ、また来ますね」

「農家の人とかも来るけど、やっぱり世界は違うんだね」

「そのようデスね」

そうしてアダムスは満足気に帰っていった。

ここで食事をした農家などは品種改良にも取り組むようになっているとか。

美味しいものを提供したいという食を扱う人を駆り立てているようではある。