ヨーグルトケーキ
異世界キッチンは夏場も変わらずに営業する。
こちらの世界でも夏には何かとあるようで、需要は増えそうである。
特にこちらの世界よりも優れる空調システムがある事から涼みに来る客が増える。
そんな今日は思わぬお客がやってきたようで
「おはようございます」
「あ、アレッシオ君、おはよう」
「そちらの人はどちら様?」
何やら入口の前でウロウロしていたという人らしい。
いつものような貴族などの人ではないようだが。
「えっと、とりあえず説明してもらっていいですか」
「あ、うん、えっとリーザレン・シュミット、です、みんなはリーザって呼んでます」
「うん、それで何か用かな?開店前のお店の前にいたなら何かあるんでしょ」
「あの、あたしをここで働かせてください!」
「今って従業員の募集ってしてましたっけ?」
「ホールスタッフなら定数一人でやってたと思うよ」
「だそうです」
「えーっと…」
「おはようございマス、みなサン相変わらず早いデスね」
「アヌーク、相変わらず朝に弱いんだから、オーナーが一番遅いってどうなの」
「見ない顔がいマスね、どちら様デス?」
「えっと、リーザです、ここで働きたくて来ました」
「なるほど、ホールスタッフならやってマスが」
ちなみにアレッシオの給金は日給で銀貨十枚だ。
由菜と美紗子は日本円で日給一万と五千円ほど。
ちなみに銀貨十枚は金貨一枚相当だが、金貨自体が資産のステータス的な一面がある。
そのため平民のアレッシオには金貨ではなくあえて銀貨で支払っている。
あとレジの中身も料理や飲み物の値段からして金貨のストックが少ない。
なので金貨で払うより銀貨で払った方が効率よく処理する事も出来る。
その事もありこの店の給料は日給制なのでアレッシオと由菜などでは少し差がある。
こっちの世界では銀貨十枚、つまり一万円相当は高給取りである。
一方の由菜や美紗子は日本円なので日給で一万と五千円という事になっている。
なお日給で一万と五千円は平均の日給よりも高い。
元々従業員の数は多く雇わずに運営しているので、少しなら高くも払える。
アレッシオの銀貨十枚も由菜達の一万と五千円もそんな事情からの金額設定だ。
「あの、あたしを働かせてもらえませんか」
「一応志望動機を聞いてからデスね、美紗子サン、ヨーグルトケーキでも出してクダサイ」
「あ、うん、少し待ってて」
「それでリーザはどうしてここで働きたいの」
「あたしいつか冒険に出たいの、でもお金の問題があって、それで働いて貯めようって」
「なるほど、でもなんでここに?働き先はもっとあるよね?」
「ここはお給料がいいって聞いたから」
「誰がバラしたんデスかね」
「僕はバラしてませんよ!あ、もしかしてうちの親かも」
「なるほど、それをリーザが聞いたって事かな」
「ヨーグルトケーキだよ、どうぞ」
「あ、ありがとう…」
どうやらアレッシオの親が話しているのを偶然聞いたようだ。
どこで話していたのかが少し気になるところではある。
恐らく井戸端会議的な話を偶然耳にしたのだろうとアヌークは考える。
それでリーザが来たという事なのだろう。
実際アレッシオの稼ぎによってアレッシオの家も生活は楽になったと本人も言っている。
それにたまにお客としてくる税務署の人や姫様ですらここの給金は高いと言っている。
それなら生活が楽になるのも頷ける話だ。
ちなみにこの街、王都の給金が一番高い店でも銀貨四枚程度らしい。
つまりアレッシオに支払っている銀貨十枚は普通に高給取りになるという。
姫様が言うには銀貨十枚は貴族の屋敷の使用人でももらえるか怪しい金額らしい。
さらに貴族の平均的な収入が金貨十枚程度、上流貴族で二十枚程度らしい。
なので平民の給料が銀貨十枚というのはどう考えても高給取りだという。
「このアレッシオっていう子のお給料が銀貨十枚なんだよね」
「そうデスよ、本人は高いと言っていマスが」
「それならあたしにも同じぐらい出せるよね」
「出せるには出せマス、ただきちんと働ける事が前提デスよ」
「大丈夫!…だと思う」
「ならテストをしマス、今日一日研修として働いてもらいマス」
「それに合格したら働かせてくれるの」
「ハイ、仮に不合格でも一日分のお給料は出しマス」
「分かった、なら絶対合格してみせるから」
「開店まではまだありマスね、そのケーキも含めて体力をつけてクダサイ」
「うん!あ、美味しい、このケーキ凄く美味しい」
「それはサービスにしておくのできちんと食べてクダサイね」
「はい!」
とりあえずはリーザを研修として一日様子を見る事にした。
制服とかも余分に用意はしてある。
とりあえずは開店までに準備に入る。
アヌークと美紗子はキッチンの準備、由菜とアレッシオは制服に着替える。
「前から思ってたんだけど、なんで男女が同じ部屋で着替えてるの」
「別に問題ないよね」
「由菜はそういうの気にしない人なの?」
「僕がそうじゃない…」
「とりあえずこれが女性スタッフの制服ね」
「うん…胸の辺りがきつい、あとズボンは足が…」
「リーザって意外としっかりした体格…」
「だとしたらサイズは少し大きめの方がいいか、こっちなら合うと思うよ」
「うん、こっちなら着れそう」
「僕の気持ちはどうなるの」
「アレッシオも年頃の男の子なのかな」
「そりゃまあ…」
そんな話をしつつ制服に着替える。
リーザはどうやら少しサイズ大きめがジャストサイズらしい。
「そろそろ開店しマスよ」
「あ、はーい」
「リーザにきちんと指導してあげてね」
「分かりました」
「絶対に合格してみせるぞ…負けるなあたし!」
そうして今日の営業が始まる。
リーザの合否はその日のうちに言い渡され合格だったという。
それによりホールスタッフが一人増え、募集は当分しない事になった。




