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クラシックショコラ

異世界キッチンもすっかり知られるようになったいつもの日々。

そんな今日も開店に向けて何かと仕込んでいた。

するとアレッシオが出勤してきた際に見知らぬ人を連れている。

その人について訊いてみる事に。


「おはようございます」


「あ、おはよう」


「おや、アレッシオサン、そちらの彼女はどちら様デスカ?」


「ふん」


どうやら何かワケありの様子。


とりあえず開店まで時間もあるので話を聞いてみる事に。


「お嬢サン、何か言ってくれないと分かりまセン」


「…逃げたのよ」


「逃げた?」


「そうよ、だって毎日勉強勉強って、別に勉強が嫌なんじゃないけど」


「つまり?」


「たまには休みもよこしなさいっていうのよ、それを頼んだら駄目ですって」


「なるほど、それとお名前を訊いてもよろしいデスカ」


「クレア、クラリッサって名前だけどみんなはクレアって呼ぶから」


「うん、それでクレアは帰りたくないんだ」


「そうよ、休みをくれるって言わない限り帰らないわ」


「どうしますか?」


「そうデスネ、アレッシオサン、お店の外を少し見てきてもらえマスか」


「あ、はい」


「今頃探してるよ?」


「知らないわよ、勝手に探してればいいわ」


結構な頑固で意固地なクレア、開店まであるし仕込みも終わっているのでどうするか考える。

するとアレッシオが戻ってくる。


「戻りました」


「どうデシタ?」


「メイドと思われる人が人探しをしてました、一応開店準備の札は出してますけど」


「そうデスカ、なら少し面倒を見るしかないデスネ」


「でも開店までやる事とかあるんじゃ」


「ほとんどは終わっているので、問題はないと思いマス」


「…そのメイドってたぶんあたしのメイドのマリアだわ」


「やはりデスカ」


「素直に引き渡す…のもなんか気が引けるよね」


「それよりここはなんなの?キカイがたくさんあったりして変なの」


「ここはファミレスデスヨ」


「ファミレス?なによそれ」


「簡単に言うとレストラン、食事をするところだよ」


「ふーん…」


「もしかしてお腹空いてる?」


「そ、そんな事はないわよッ」


「でも今お腹が」


「朝ご飯は食べたの!」


「スンスン、パンの匂いと卵の匂いがするので確かに食べているようデス」


「アヌークって相変わらず鼻が利くよね」


「…お腹は空いてない、でも何か食べさせてくれるなら食べてもいい」


「仕方ないデスネ、由菜サン、ドリンクバーからカルピスを持ってきてもらえマスか」


「分かった」


「いいの?」


「どうせ最終的に引き渡すと思いマス、それならきちんと請求しマス」


そんな話をしていると由菜がカルピスを持ってくる。

氷もきちんと入っていてキンキンに冷えたカルピスだ。


とりあえず話は大体飲み込めているので少しなだめる事に。

クレアにカルピスを出してみる。


「はい、飲み物」


「…何よこれ」


「カルピスデス、美味しいデスヨ」


「…変なものは入ってないわよね?」


「お店なんデスからそれはないデス」


「ならもらうわ」


「ハイ、グイッと飲んでクダサイ」


「…なにこれ、凄く美味しい…甘くてそれなのに水みたいにスッキリしてる」


「それは何よりだね」


「…トイレ行きたいんだけど」


「由菜サン、頼みマシタ」


「はーい、案内するね」


「覗かないでよ」


「そんな事しないよ」


とりあえず由菜がクレアをトイレに案内する。

ここのトイレは言うまでもなくハイテクなので、客も驚く事が多い。


由菜が使い方をきちんと教えるのも当然ではある。

それから少しして戻ってくる。


「ねえ、ここのトイレなんなの?隣国の技術でもあんなハイテク知らないんだけど」


「それは企業秘密デスヨ」


「それでどうするの?」


「開店ギリギリまでは粘りマス」


「あ、そう、アヌークって昔から世話焼きだもんね」


「僕、少し外を見てきます」


アレッシオがまた外の様子を見に行く。

それから少ししてメイドがまだ探しているとの事だ。


まさか開店前の店の中にいるとは思っていないのか。

頃合いを見るまではクレアを預かる事にした。


「ここ料理が食べられるのよね?」


「ハイ、何か食べマス?」


「甘いもの…甘いものなら食べたい」


「甘いものか、ケーキとかパフェとか?」


「作っていたら時間があれデスネ、ではケーキでも出しマスか」


「ケーキ?そんなの食べ慣れて…」


「何にする?」


「ではクラシックショコラにしマスか」


「それってチョコケーキだよね?」


「こっちだとチョコレートはまだ高級品ですよ」


「話聞いてるの!」


「ドウゾ、クラシックショコラデス」


「…茶色いじゃない、本当に食べられるの?」


「クレアはチョコレートって分かる?」


「馬鹿にしないで、でもチョコレートって凄く高級なお菓子じゃないの」


「そうだね、僕の家だとお給料二月分かな」


「そんな高級なケーキを食べさせるなんて…大金を要求する気?」


「そんなつもりはありマセン、遠慮なく食べていいデスヨ」


「知らないからね」


「どうデスカ」


「…美味しいわね、凄く美味しい」


「それはよかったデス」


クラシックショコラ、意味は格式あるチョコレートのお菓子という意味だ。

とはいえ実際はガトーショコラと変わらないものである。


人や店によってどちらの名前を使うかも基本的には自由になっている。

私はガトーショコラ、僕はクラシックショコラ、こんな感じでいいのだ。


レシピこそ店や個人によって異なるが、意味としては同じチョコレートのお菓子になる。

あの洋菓子店ではガトーショコラ、こっちの洋菓子店ではクラシックショコラ。


これは名前が違うだけで同じものという事でもある。

名前を名乗る際は好きにしていいし、それに対する決まりも特にない。


あくまでもチョコレートのお菓子、これはケーキだがそれがそう呼ばれる。

クラシックショコラもガトーショコラも同じチョコケーキなのだ。


名前が違うだけの同じもの、それがガトーショコラとクラシックショコラである。

格式あるとはつくものの、それは言葉の意味にしか過ぎないのである。


「美味しい、でもチョコレートなんて高級なものを使ったケーキなんていいの?」


「ハイ、ここではチョコレートケーキはリーズナブルなデザートデス」


「…そう、なら信じるわ」


「アレッシオサン、外にうろついているメイドサンを呼んできてクダサイ」


「あ、はい」


「落ち着いた?」


「一応は」


それから少ししてアレッシオがメイドのマリアを連れてくる。

そこで事情も説明する事に。


「お嬢様!探したんですよ!」


「…ごめんなさい」


「すみません、保護してもらった上にお菓子までいただいてしまって」


「別に気にしなくていいデスヨ」


「代金は支払わせていただきます、何を食べたんですか?」


「…クラシックショコラ」


「くら?それはなんですか?」


「チョコレートケーキだね」


「チョコレートケーキ!?そんな高価なものをいただいたのですか!?」


「えっと、これが代金…」


「チョコレートケーキがこんな安いわけありません、粗悪品でも与えましたか?」


「いや、間違いなくこれがこのお店のチョコレートケーキの値段だよ」


「平民のお給料二ヶ月分のチョコレートケーキがこのお値段…からかっていませんよね?」


「いまセン、それに粗悪品でもないデス」


「ではこれで」


「ハイ、どうも」


「それと、奥方様が心配していましたよ、これからは休みを週に二日用意するとも」


「本当!?」


「はい、確かにそう仰っていました」


「ねえ、また食べに来ていい」


「もちろんデスヨ」


「今度はマリアも一緒にね」


「はぁ、かしこまりました、それでは帰りますよ」


「また来るわね」


「なんか台風みたいだったね」


「それよりそろそろ開店デス、アレッシオサン、札をオープンにしてきてクダサイ」


「あ、はい」


こうして開店前の嵐は去っていった。

なおクラシックショコラの値段を話したらしく、相当驚かれたらしい。


世界の物の価値の違いがよく分かる話でもあった。

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