44/402

麻婆カレー

異世界キッチンも順調に売上を伸ばし軌道に乗ってきた。

そんな今日も店は賑わっている。

様々な料理を提供出来る事を売りにしているからこそでもある。

そして今日も噂を聞いた客がやってきたようだ。

「この辺りですよね、噂の料理屋は」

「なんでも安価で美味しいものが食べられるとか」

「この町では噂になっているという事もあるので、調査も兼ねますか」

「おや、ここですね、では入りますか」

彼の名はベック、国の役人で主に学門などの仕事を担当している。

彼も国の同僚から話を聞いたようで。

「二重扉にベル、清潔には気を使っているんですね」

「中は暖かいですね、音楽も流れていてキカイもたくさんある」

「見る限りお金持ちなのでしょうか」

「いらっしゃいませ！何名様ですか！」

「一人ですよ」

「かしこまりました、おタバコはお吸いになられますか」

「いえ、吸いませんが」

「かしこまりました、では禁煙席にご案内しますね」

「給仕ですか、若いのに立派ですね」

そうして席に案内される。

そこで一通りの説明を受ける。

説明は問題なく理解した様子。

由菜は一旦下がり別の注文を受けに行く。

「そういえば水などはセルフと言っていましたね、取りに行きますか」

「ここにグラスを押し当てて…これだけで飲み水が出るとは凄いですね」

「あとは手拭きと氷ですね、使い捨ての手拭きにたくさんの氷、面白いですね」

「さて、注文を決めてしまいますか」

「ふむ、いろいろありますね、コメに麺に肉に魚に野菜に甘味まで」

「これだけあると悩みますね、何にしますか」

「む？これがよさそうですね、これにしますか」

「確かこのベルで…」

ベルを鳴らして店員を呼ぶ。

少ししてアレッシオが出てくる。

「お待たせしました、ご注文はお決まりですか」

「ええ、これとこれ、あと甘味でこれとセットドリンクを」

「えっと、麻婆カレーとグリルポテト、イチゴのタルトとドリンクバーですね」

「デザートは食後でよろしいですか」

「ええ、構いませんよ」

「かしこまりました、ではオーダーを復唱させていただきます」

「麻婆カレーとグリルポテト、食後にイチゴのタルトとドリンクバーです！」

「オーダー！麻婆カレーとグリルポテト、食後にイチゴのタルトとドリンクバーです！」

「喜んで！」

「それでは少々お待ちください」

「料理人は奥なのですね、まあ当然ですか」

「さて、飲み物でも選びに行きますか」

そんなわけでドリンクバーに飲み物を選びに行く。

一通り見てから選んだものはレモネードだった。

ちなみにホットではなくアイスの方である。

レモネードは子供でも飲みやすい味で大人にももちろん人気である。

「ふぅ、これは美味しいですね」

「果実の味でしょうか、酸味がありながらもきちんと美味しい」

「子供でも飲みやすい味ですね、これは」

「こういうのもいいものです、ふぅ」

そうしていると先にグリルポテトが運ばれてくる。

シンプルなポテト料理でケチャップでいただく料理だ。

「お待たせしました、先にグリルポテトです」

「ええ、どうも」

「こちらのケチャップをお好みでお使いください」

「麻婆カレーはもう少々お待ちください、それでは」

「さて、ではいただくとしますか」

グリルポテト、シンプルながらも子供などに人気の料理である。

フライドポテトの盛り合わせとはまた違うポテト料理だ。

「ん、これは美味しいですね、シンプルなのにしっかりと味がする」

「このケチャップというのをつけるとどうなのでょう」

「これは…適度な酸味と甘味がポテトの味をさらに引き立てますね」

「赤い色からしてトマトでしょうか、とても奥が深い味だ」

そうしていると麻婆カレーが運ばれてくる。

カレーと麻婆豆腐をミックスしたスパイスの味と香りが食欲をそそる一品である。

「お待たせしました、麻婆カレーになります」

「ええ、どうも」

「デザートが必要な時はお呼びください、それでは」

「さて、ではいただきますか」

麻婆カレー、ここのものはカレーと麻婆豆腐をミックスした料理だ。

豆腐を入れただけのカレーではなく、両方を混ぜてある。

カレーのスパイスと麻婆豆腐の豆板醤の辛味とコクがベストマッチしたカレーである。

どこかのゲームの世界では有名な料理でもある。

アヌークもそれを参考に両方を混ぜて作ってある。

もちろん使っているスパイスはこの店の独自配合である。

麻婆豆腐も知り合いの業者から仕入れている豆板醤を使っている。

少し辛いという事もあるが、それでもこの店の人気メニューの一つでもある。

カレーと麻婆豆腐は意外と混ぜても美味しいという事でもある。

単にカレーに豆腐を入れただけのそれとは違うのだ。

アヌークが独自に生み出した麻婆カレーがこの店の麻婆カレーなのである。

カレーと麻婆の融合は新たな世界を開いてくれる。

「ん、これは美味しいですね、この白いものはなんでしょうか」

「普通のカリーとは違って辛味に深さがある」

「これはただのカリーではなさそうですね、気になります」

「味からしてカリーに別の料理を混ぜてある？」

「とても深みのある味という事はやはりミックスでしょうか」

「でもこれはカリーの新たな境地ですね、実に興味深い」

「シンプルにして深い味、カリーは好きですがこれはその上をいきますね」

「むぅ、やはり気になる、どうしたものでしょうか」

そんな事を考えつつも麻婆カレーを完食する。

あとはデザートを頼む事に。

「お待たせしました、デザートですか」

「ええ、お願いします」

「かしこまりました、では器はお下げしますね、少々お待ちください」

そうして由菜が器を下げて奥に下がる。

それから少ししてイチゴのタルトが運ばれてくる。

「お待たせしました、イチゴのタルトになります」

「ええ、どうも」

「こちらは伝票です、会計の際にお持ちください、それでは」

「さて、いただきますか」

イチゴのタルト、冬のフェアのメニューでたっぷりのイチゴを使ったデザートだ。

シンプルにして至高の逸品である。

「ん、これは美味しいですね」

「果実の甘さはもちろん砂糖の甘さもとても美味しい」

「シンプルながらとても美味しいです」

「こういう甘味も悪くないものですね」

そうしているうちにイチゴのタルトも完食する。

あとは会計を済ませる事に。

「すみません、支払いをお願いしたいのですが」

「はい、麻婆カレーとグリルポテトとイチゴのタルトとドリンクバーですね」

「全部で銀貨一枚と銅貨三枚になります」

「ではこれで」

「ちょうどいただきます」

「満足していただけマシタか」

「あなたがシェフですか」

「ハイ、オーナー兼シェフのアヌークといいマス」

「とても美味しかったです、あとあのカリーは普通のカリーではないですよね？」

「あれは麻婆豆腐をカレーに混ぜて作ったものデスヨ」

「麻婆豆腐？」

「メニューに合ったと思いマスが、豆腐料理デス」

「ああ、なるほど、それでなんですね」

「ハイ、カレーと麻婆豆腐を混ぜてあるから麻婆カレーデス」

「どうりでカリーにしては深みのある味だと思いました」

「麻婆豆腐もカレーもスパイスが命デス、だからこそなのデス」

「それは興味深い、あの白いものが豆腐なのですね」

「ハイ、そうデスヨ」

「豆腐、東の国で食べられているという…」

「美味しかったのなら何よりデス」

「ええ、では私は仕事に戻りますね、また食べに来ます」

「一応豆腐なんかもあるのデスネ」

「みたいだね、こっちの世界もいろいろあるのかな」

そうしてベックは満足そうに帰っていった。

彼もカレーが好きだからこそなのだろう。

麻婆カレーはシンプルながら奥が深いのだ。