イワシフライ弁当
冬も近づきつつある涼しくなった王都。
そんな中でも宅配やテイクアウトの注文も増えつつある。
店ではなく家で食べたいという人もそれなりにいるという事なのか。
冬になれば温かい汁物のメニューも増えてくる予定ではある。
「今回の届け先はどこかしら」
「2番街のトリスタンさんの家ですね」
「2番街ね、そんなに遠くはないかしら」
「はい、行きますよ」
今回の届け先は2番街。
そんなに遠くはないのでさっさと届けてしまう事に。
「今回の注文は何かしら」
「イワシフライ弁当ですね」
「イワシフライ弁当?」
「はい、イワシという魚のフライのお弁当の事です」
「イワシフライ、魚のフライって結構美味しいわよね、姫は好きよ」
「エトさん、魚も結構好きになりましたよね」
「前は魚は苦手だったのよ、そもそも内陸のこの街だと王族でも魚はあまり食べないし」
「保存の関係でしたっけ、魚は干物とかが多い理由も」
「そうなのよね、お店だと冷凍とかしてるから食べられるんだけど」
「でもエトさんが魚を好きになったのは意外な気はしますね」
「骨を自分で取るのは今も苦手よ、でもお店の魚は骨まで食べられたりするから」
「そういえばそうでしたね、骨まで食べられるというのは凄いですよね」
「ええ、だからお店で食べる魚は好きよ」
「魚の骨といえば取り除くものというイメージが強いですからね」
「だから骨まで食べられる魚って普通に革命だと思うのよね」
「そういう風に人の手で育てられたとかですかね」
「調理法で骨まで柔らかくしてるとかじゃないのかしら」
「そこはなんとも言いにくいですけど、帰ったら聞いてみます?」
「それもそうね、なんで骨まで食べられるのかは知りたいし」
「でも骨のチクチクした感じまではなくせてないっぽくはありますよね」
「要するに骨を噛んで砕ける程度に柔らかくしてるって事なのよね」
「骨が柔らかくなる、どんな仕組みなんでしょうか」
「やっぱり調理法なんじゃないの?それか切り身にする時に何かしてるとか」
「分からないけど、凄いのは嘘じゃないですよね」
「でもイワシって庶民の魚って言われてるらしいのよね」
「美味しいと感じるのに庶民も王族も関係ないのかもしれませんね」
「こっちかしら?」
「二つ目の道を東ですね」
エトも今ではすっかり魚好きになっている。
そんなエトも骨を取り除くのは苦手らしい。
なので骨まで食べられたりする切り身などの魚に限られるという。
それでも内陸のこの街において魚を好きになるのは珍しい話だ。
エトはイワシに限らず、魚は大体好きになっている様子。
マグロやカツオ、秋刀魚やサバやアジなど割とまんべんなく魚を好きになったようだ。
「そういえばイワシフライってイワシを丸ごと一匹使ってるのよね?」
「そうみたいですよ、頭と尾は流石に切り落としているようですが」
「それでも一匹丸ごと使えるのは凄いわね」
「イワシはサイズが小さい魚なので、一匹丸ごと使えるんだとか」
「なるほど、大きい魚なら切り身とかになるけど、小さい魚だからなのね」
「ええ、イワシ自体は庶民の魚と言われる程度には安価な魚の代表格らしいですし」
「そんなに安い魚なのね、イワシって」
「実際庶民の魚なんて言われるからには、庶民でも手に入れやすいという事ですからね」
「庶民でも買える程度には安い、そう言われると納得でもあるわね」
「イワシはフライはもちろん、煮ても焼いても美味しいみたいですし」
「食べ方自体は割と多様なのね、煮魚なんかも姫は好きよ」
「鰯のつみれ汁とかも美味しいですしね」
「魚は焼くのが定番とは思ってたけど、煮たり揚げたりしても美味しいものね」
「料理自体はたくさんあるんでしょうね」
「こっちかしら?」
「この先の道を北東ですよ」
そのまま2番街に入っていく。
トリスタンさんの家はすぐそこだ。
「ここかな」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせしました」
「えっと、先に銅貨一枚と青銅貨一枚をいただきます」
「これでお願いします」
「ちょうどいただきます、ではこちらがイワシフライ弁当になります」
「ありがとうございます」
「容器は行政区分に従って可燃ごみでお願いしますね」
「分かりました」
「ではまたのご利用をお待ちしています、それでは」
「さて、いただきますか」
イワシフライ弁当、イワシのフライがおかずになっている弁当だ。
イワシフライのイワシは頭と尾は切り落としてはあるものの、丸ごと一匹を使っている。
そこにライスと漬物がつくのが弁当だ。
弁当はおかずの種類自体は少ないので、宅配やテイクアウトのメニューでは比較的安価だ。
人によっては弁当に単品のおかずを追加注文する人もいる。
魚のおかずも充実しているのが宅配やテイクアウトのメニューでもある。
「うん、これは美味しいな、肉厚で外はサクサクの魚の揚げ物か」
「頭と尾は切り落としてはあるものの、一匹丸ごとみたいだな」
「ソースをかけるとまた美味しくなる、スパイシーな感じがまたいいな」
「その塩気の強さがライスといっしょに食べるとどんどん進んでいく」
「魚の揚げ物一つでこれだけ食べられるとはな」
「肉厚な魚のフライとライスの組み合わせは強いな」
その頃のエト達は帰り際に休憩していた。
温かい麦茶が体に染みる。
「ふぅ、麦茶は本当に美味しいわよね」
「ええ、温かい麦茶が体に染みていきますよ」
「麦茶は温かくても冷たくても美味しいからいいわよね」
「ええ、寒い日には暖まりますよ」
飲み物を飲んだらそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻ったわよ」
「お帰り、はい、おしぼり」
「ありがとうございます」
「外はすっかり涼しくなったみたいデスね」
「ええ、もう冬も近づきつつあるわね」
「なら冬服は今のうちから頼んでおいた方がいいかな」
「はい、冬になった時に用意出来るならそれがいいかと」
「なら冬服のオーダーだけは早めにしておきマスかね」
そうして季節は冬が近づいてくる。
冬のフェアメニューはお一人様鍋や温かい汁物なども多くなる。
寒い日は温かいものに限るのだ。




