ピリ辛豚カルビ丼
春はもうすぐそこまで来て少しずつ暖かくなってきた季節の変わり目。
とはいえまだ寒い日が来る事はあるので防寒着はまだ残してある。
そして季節が変わりその頭から春のフェアメニューも始まる。
春のフェアメニューは春の味覚や少し贅沢なメニューを中心にする模様。
「今回の届け先はどこかしら」
「7番街のミレッタさんの家ですね」
「7番街か、ならそんなに遠くないね」
「はい、では行きましょう」
今回の届け先は7番街。
隣の区画なのでさっさと届けてしまう事に。
「それで今回の注文って何かしら」
「ピリ辛豚カルビ丼ですね」
「ピリ辛豚カルビ丼、カルビって牛肉の事じゃないの?」
「肉の部位の名前は牛と豚では基本的に同じみたいですよ」
「ふーん、そんなものなのね」
「ええ、なので豚肉でもカルビとかロースとか言うのは通じるみたいです」
「あとピリ辛って言うからには辛い味付けがしてあるのよね?」
「そうですよ、尤もよほどの子供でもなければ美味しいと感じる程度の辛さみたいです」
「姫は辛いものとネバネバが苦手なのよね、辛いものの美味しさだけは分からないわよ」
「そもそも辛いものは味覚ではなく痛覚で感じると聞きますよ」
「つまり舌が痺れるみたいなのは痛みって事なの?」
「そうだと思います、実際激辛を食べると痛いって感じたりするそうなので」
「ただ旨辛とかピリ辛っていうのは食べやすい程度のマイルドな辛さなのよね?」
「そうみたいですね、辛いものにはちみつを混ぜているみたいなものもあるそうです」
「辛いのをマイルドにするために甘いものを混ぜてるみたいな話なのね」
「辛いと言っても激辛から甘辛まであるので、好みの辛さで食べればいいだけですし」
「確かに甘口カレーとかあるし、カレーの隠し味にはちみつを入れるとか言ってたわね」
「激辛はそれこそ舌が痛くなるぐらい辛くて、旨辛なんかは美味しいと感じられる辛さですし」
「確かに姫は辛いものは苦手だけど、中辛ぐらいならイケるようになったわよ」
「カレーの美味しさも辛口が好きな人もいれば、苦手な人もいますからね」
「今はピリ辛や旨辛ぐらいなら美味しいって感じるわよ」
「それは成長して味覚が変わってきたという事かもしれませんね」
「こっちかしら」
「ここの先を右ですね」
エトも好みは割と子供っぽいものの、好き嫌いはそこまであるわけでもない。
王族という立場上苦手な食べ物を出される事は珍しくないからなのだろう。
苦手ではあるが食べられる程度の好みなので、その辺はしっかりしている。
辛い料理も苦手ではあるものの、ピリ辛や旨辛ぐらいなら今は好きな味なのだ。
辛さのレベルは人によって好みに差があるものの代名詞でもある。
中辛レベルの辛さが一番多くの人に好まれるのかもしれない。
「それにしてもピリ辛っていう事は、辛さは中辛カレーよりは辛くない程度なのかしら」
「カレーの辛さとはまた違うと思いますけど、コチュジャンというもので味付けしてるとか」
「コチュジャンとか豆板醤とか、辛い味付けをする調味料もいろいろね」
「コチュジャンは豆板醤に比べると辛さが控えめで、甘辛な辛味噌みたいですね」
「つまり豆板醤の方が辛さは強いのね」
「豆板醤は空豆という豆から作るんだそうですよ」
「豆板醤って豆から作るものなの?その割に原型がないから初耳だわ」
「コチュジャンはお米なんかから作られるそうですから」
「辛いのは共通だけど、コチュジャンの方が辛さは控えめなのね」
「あと豆板醤はスープに溶かしたりすると辛味が抑えられつつ美味しくいただけるそうですね」
「へぇ、そういう食べ方が美味しく食べるコツなのね」
「コチュジャンは炒め物などに使うといいそうで、豆板醤は汁物などに向いているとか」
「その辺は辛さの度合いが関係してるのかしら」
「たぶんそうだと思います、私もそこまで詳しくはないですけど」
「こっちかしら」
「この先の角を曲がったところの黄色い屋根の家ですね」
そのまま7番街に入っていく。
ミレッタさんの家はすぐそこだ。
「ここかしら」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせ」
「えっと、先に銅貨一枚と青銅貨一枚をいただきます」
「これでお願い」
「ちょうどいただきます、ではこちらがご注文のピリ辛豚カルビ丼になります」
「ありがとうね」
「容器は行政区分に従って可燃ごみでお願いします」
「分かったわ」
「ではまたのご利用をお待ちしています、それでは」
「さて、いただきましょ」
ピリ辛豚カルビ丼、豚カルビの焼肉にコチュジャンで味をつけたカルビ丼だ。
豚カルビは結構たくさん使っているので肉もたっぷりいただける。
コチュジャンも豚の脂とよく絡み、それがライスに染みたのがまた美味しい。
ピリ辛という事もあり、辛さは比較的マイルドな辛さである。
よほど辛いものが苦手でもなければ美味しくいただける程度の辛さである。
そこにネギも乗っているので、食べごたえは結構ある。
「うん、これは美味しいわね、豚の肉をライスに乗せたものって事なのね」
「肉には辛い味付けがしてあるけど、辛さはそこまで大したものではないわ」
「辛いんだけど、その中に甘さを感じるからそういう味付けなのかしら」
「あと輪切りにされてる野菜も乗ってるけど、これはこれで美味しいわね」
「このピリ辛っていうのは辛いけど、食べやすい辛さっていう感じなのがいいわね」
「ライスに肉の脂とソースが絡んでいるのもまた美味しさを引き立てているものね」
その頃のエト達は帰り際に休憩していた。
温かい麦茶が体に染みる。
「麦茶が美味しいわね」
「温かい麦茶は体に染みますね」
「まだ完全には暖かくなっていないものね」
「もう少ししたら暖かくなりますよ」
飲み物を飲んだらそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻ったわよ」
「お帰り、はい、温かいおしぼり」
「ありがとうございます」
「外は少しは暖かくなりマシタか」
「ええ、まだ冷えるけど、暖かくはなってきたわよ」
「なら防寒着はまだ残しておくとして、寒さについてはもう少し様子見かな」
「ええ、気温の変化は突然来ますからね」
「なら春本番までは防寒着は残しておきマスね」
春は近づいているもののまだ寒い日はたまにやってくる。
とはいえ気候は確実に暖かくなってきている。
春本番はもう少し先になりそうだ。




