Re:親子丼
すっかり涼しくなり温かい料理が売れるようになった季節。
冬のフェアメニューへの切り替わりは来月の頭からになる。
秋のフェアメニューももう少しで終わるため、駆け込みで来る客もいる。
季節が変わるのは早いものである。
「今回の届け先ってどこかな」
「10番街のトミーさんの家ですね」
「10番街か、ならそんなに遠くはないね」
「はい、行きましょう」
今回の届け先は10番街。
そんなに遠くはないのでさっさと届けてしまう事に。
「それで今回の注文って何かな」
「親子丼ですね」
「親子丼って卵と肉のあれだよね」
「はい、鶏肉と卵を使った丼ですね」
「親子丼か、美味しいよね」
「でも材料で出汁を確保するのがまず難しいですよね」
「出汁って料理の味を整えるみたいなやつだっけ」
「そんな感じらしいですね、出汁があるだけで味が全然違うとか」
「出汁ってそんなに味に影響するんだね」
「出汁を知ってから料理の味が全然変わったとは言っていましたし」
「そんなに変わるものなんだ、出汁って凄いね」
「でも親子丼は肉と卵が主役ではありますが、玉ねぎの存在が大きいんですよね」
「玉ねぎっていろんな料理に使われてるよね」
「ええ、玉ねぎと一緒に煮込むと甘みが出るとは言ってましたね」
「つまり玉ねぎを使う事で料理に甘みが加わるのか」
「玉ねぎって生だと辛いんですけど、似たり炒めたりすると甘くなるんですよね」
「つまり火を通すと甘くなるみたいな話かな」
「だと思いますよ、玉ねぎが使ってある料理は多いですから」
「牛丼とかにも玉ねぎは使われてるもんね」
「ええ、料理にとって玉ねぎとは縁の下の力持ちなのかもしれませんね」
「名脇役って感じがするよね、玉ねぎって」
「玉ねぎがあるから美味しくなる料理は多いですよね」
「玉ねぎは猫にとっては猛毒らしいって聞くけど」
「そもそも人間の毒への耐性が強すぎるという事なのかもですね」
「人間はそれだけ毒への耐性があるのか」
「そうらしいとは聞きますよ」
「こっちかな」
「この先の角ですね」
親子丼の主役は言うまでもなく卵と肉である。
だがそれよりも大切なのは出汁の存在だとも言える。
アレッシオも料理はするようになったものの出汁の概念についてはよく分かっていない。
とはいえ出汁を用意するのはこっちの世界では難しい。
東の国の人が経営する店などに行けば粉末の出汁などは手に入る。
とはいえ安いものではないのが難点とも言えるか。
「それにしても親子丼というか鶏肉もすっかり浸透したよね」
「安くて美味しい肉っていうイメージはつきましたしね」
「骨の処理の方法なんかも伝わってるしね」
「ええ、まあお店の鶏肉に比べたらまだそこまででもないですけど」
「でもお店の鶏肉ってなんであんなに美味しいんだろう」
「食肉用として育てている鶏肉を使っているからだとは聞いていますね」
「つまり牛や豚みたいに食肉用の家畜として育てられた鶏なんだね」
「みたいですよ、ブロイラーという種類だそうです」
「ブロイラー、食肉用の牛や豚と同じって事なんだね」
「鶏肉はそこまで浸透してなかった肉ではありますし」
「鶏肉もそういうのが生まれてくるのかな」
「今後はそうなるかもしれませんね」
「鶏肉の美味しさを知ったって事だしね」
「そういう事ですね、美味しい鶏肉もそのうち食べられるようになるかもしれません」
「こっちかな」
「二つ目の角ですよ」
そのまま10番街に入っていく。
トミーさんの家はすぐそこだ。
「ここだね」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせしました」
「えっと、先に銅貨一枚をいただきます」
「これでお願いします」
「ちょうどいただきます、ではこちらがご注文の親子丼になります」
「ありがとうございます」
「容器は行政区分に従って可燃ごみでお願いします」
「分かりました」
「ではまたの利用をお待ちしています、それでは」
「さて、いただきますか」
親子丼、鶏肉と卵を煮込んで乗せた丼だ。
だが親子丼の名脇役は玉ねぎでもある。
出汁を使うというのは日本の料理においては欠かせないものでもある。
親子丼もそんな出汁の存在が大きい料理だ。
親子丼の汁が染み込んだライスもまた美味しいのがいい。
丼ものは汁が染み込んだ米もまた美味しいのだ。
「うん、これは美味しいですね、鶏の肉と卵ですか」
「卵はふわふわで甘く、鶏肉は柔らかくもちもちだ」
「それの汁が染み込んだライスもまた美味しい」
「米と肉と卵、シンプルにして王道ですね」
「この美味しさはまさにシンプルにして頂点といった感じです」
「卵も肉も実に美味しい、値段にしては美味しいですね」
その頃のアレッシオ達は帰り際に休憩していた。
温かい麦茶が体に染みる。
「麦茶美味しいね」
「もう温かい麦茶の季節ですからね」
「体が中から温まる、冬はこれだよね」
「ですね、温かいです」
飲み物を飲んだらそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻りました」
「お帰り、はい、おしぼり」
「ありがとうございます」
「外はもう涼しくなってマスか」
「ええ、すっかり涼しくなっていますよ」
「ならもう少ししたら冬服かな」
「それがいいかもしれません」
「冬服なんかも手配しておきマスか」
冬はもう目の前まで来ている。
冬服なども今のうちから手配しておく事にするとする。
もう冬はすぐそこなのだ。




