鶏肉飯
夏の暑さも少しずつ落ち着き始める季節。
異世界の夏は日本の夏に比べれば全然涼しい様子ではある。
とはいえこれから涼しくなるので制服なども切り替わっていく事になる。
まずは秋のフェアメニューを売る事からだ。
「今回の届け先ってどこかしら」
「10番街のノートンさんの家ですね」
「10番街ね、ならさっさと届けるわよ」
「ええ、行きましょう」
今回の届け先は10番外。
そこまで遠くないのでさっさと届ける事に。
「それで今回の注文ってなんなの」
「鶏肉飯ですね」
「鶏肉飯?何よそれ」
「鶏肉を乗せた丼料理に近いものですね」
「ふーん、でもそういうのってどこの言葉なのかしら」
「恐らく東の国の言葉だと思いますよ」
「東の国の言葉ね、そういう異国の言語も王族として学ぶべきなのかしら」
「外交で行くなどがあるなら学んでおいてもいいと思いますよ」
「まあいいわ、そういう異国の料理に触れられるのもいいものだしね」
「お店で働いているといろんな料理に触れられますしね」
「ええ、それはいいわよね」
「エトさんは肉とかチーズが好きですよね」
「でもそういうのと一緒になってる野菜は結構好きよ」
「言いますね、でも分かる気がします」
「そのままだと大して美味しくない野菜も、味付けしてあれば美味しいもの」
「エトさんはこってりとかが好きなんでしょうか」
「かもしれないわね」
「チーズ料理も多様ですし、肉だけでもかなりいろいろありますからね」
「ああいうチーズの使い方とかは姫にとっても勉強よ」
「異国に行けばまた違う食べ方があるという事になりますしね」
「そうね、だから食文化も立派な勉強になるもの」
「食文化の豊かさで外交をまとめ上げている国もあると聞きますから」
「美味しい食事はそれだけで外交における武器になるって事なのね」
「みたいですよ、食べ物は立派なカードだと」
「食は立派な外交カード、それも覚えておきべきかしらね」
「それがいいと思いますよ」
「こっちかしら」
「ここの先の角ですね」
食は立派な外交カードである。
また異国に行けば同じ食材でも異なる食べ方があるもの。
エトも好みはあるものの外交の場では苦手なものも食べている。
とはいえ外交の場に行く事が少ないからこそ働いているのだが。
上に兄がいて、第一王女ではあるが子供としては四番目の子になる。
なので国の仕事における優先順位は低めなのだ。
「でも鶏肉飯とか麻婆豆腐とか、ワンタンとか東の国の料理なのよね」
「ええ、そうなのだとは聞いてます」
「東の国って独特な文化があるって聞いてるけど、そういうのはよく知らないのよね」
「お店では使う人は少ないですけど、お箸を使う食文化はあるみたいですね」
「お箸ってあの細い棒みたいなやつよね、あれで食べられるって凄いと思うわよ」
「でも東の国では一般的なものらしいですよ」
「使おうとした事はあるけど、上手くは使えなかったもの」
「私もあまり得意ではないですし、お箸を使える人は器用だなとは感じますよね」
「東の国では当然のように使われてる食器っていうのも国の違いを感じさせるわ」
「でも東の国の料理ってお箸で食べるように作られてるものは多いと思いますね」
「お箸で掴みやすい形状って事よね」
「そういう事ですね」
「料理の形状もまた食文化なのかしらね」
「東の国の食事はお箸で掴みやすい形状のものは多いですから」
「こっちかしら」
「ここの先を曲がったところですね」
そのまま10番街に入っていく。
ノートンさんの家はすぐそこだ。
「ここみたいね」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「今行く!」
「待たせたな」
「はい、えっと先に銅貨一枚と青銅貨二枚をいただきます」
「これで頼む」
「ちょうどいただきます、ではこちらがご注文の鶏肉飯になります」
「サンキュ」
「容器は行政区分に従って可燃ごみでお願いします」
「分かった」
「ではまたのご利用をお待ちしています、それでは」
「さて、食うか」
鶏肉飯、鶏肉とキムチ、青ネギと半熟卵を載せた丼に近い台湾料理だ。
日本の米に合うようにアレンジされているので本場の味とは少し違う。
鶏肉にはさっぱりとしたごま油ネギソースをかけていただく。
キムチも辛いものの、辛すぎない程度のマイルドなものを使っている。
半熟卵を崩せば卵の黄身がライスに染みて美味しさを増してくれる。
混ぜて食べるわけではないが、卵やソースが美味しい米料理だ。
「うん、こいつは美味いな、肉や野菜がライスとよく合う」
「肉にかけるソースもいい香りがするし、肉とよく合ってるな」
「この赤い漬物は辛いんだけど、不思議と食いやすくていいな」
「ピリッした辛さとか、いい香りのするソースとかどれもライスとよく合ってる」
「こういうライスと一緒に食べる事が前提の飯もまたいいもんだ」
「ライスにはこういう塩気のあるもんがよく合うって事だな」
その頃のエト達は帰り際に休憩していた。
冷たい麦茶が体に染みる。
「はぁ、美味しいわね」
「冷たい麦茶が体に染みますね」
「まだ暑さは続くしこういうのはいいものよね」
「冷たいお茶の美味しさですね」
飲み物を飲んだらそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻ったわよ」
「お帰り、はい、冷たいおしぼり」
「ありがとうございます」
「外はまだ暑いのデスよね」
「ええ、まあこれから涼しくなっていくわよ」
「制服の切り替えとかはもう少し様子を見るべきかな」
「それがいいかと思いますよ」
「では秋の切り替えはもう少し待ちマスか」
秋のフェアメニューも始まり秋の味覚が並び始める季節。
宅配にも汁物以外は大体は対応させている。
汁物の宅配はリスクも大きいので難しいとの事らしい。




