278/402

閑話・かき氷のアレンジ

すっかり夏本番となり冷たい料理や辛い料理がよく売れる季節。

また夏には実は必ず置いているとあるメニューがある。

それをどうやって食べるのか知っている人だけに分かるものである。

そんな食べ方を知っている人だけが頼むメニューとは。

「また来てしまった、この季節はここでしか食べられないものがあるからな」

「冷たい料理というのも新鮮だが、デザート類もいいものが揃っている」

「そして楽しむという事も出来るのがいい」

「さて、行くぞ」

彼の名はパンサー、国で高級菓子店を経営する経営者だ。

同業者から聞いてすっかりここのデザートにハマったという。

「この扉のシステムは面白いものだな」

「中は涼しい、夏は空調が効いていていいな」

「いらっしゃいませ！何名様ですか！」

「一人だ」

「かしこまりました、おタバコはお吸いになられますか」

「いや、吸わない」

「かしこまりました、では禁煙席にご案内しますね」

「若者がしっかり働いているのはいいものだな」

そうして席に案内される。

説明は理解しているのでスムーズに進む。

簡単に説明を受けそのまま次へ。

タブレットの使い方も理解している様子。

「タブレットの使い方は分かりますね」

「ああ、問題ない」

「分かりました、では何かあればお呼びください」

「さて、先に水だな」

そうしてリーザは一旦下がり別の料理を運びに行く。

パンサーは先に水を取りに行く事に。

「ここの水は無料で飲み放題というのが凄いな」

「あとは氷と手拭き、氷もこれだけ用意出来て使い放題とは」

「さて、注文だな」

「甘いもの、もいいのだがこの季節はあれに限る」

「これとこれとこれとこれで確定だな」

「このタブレットというのは便利なものだ」

そうしてパンサーはドリンクバーに飲み物を取りに行く。

迷わずに手を伸ばしたのはメロンソーダだった。

独特な色をしたその飲み物にすっかり魅了されている様子。

またもう一つコーラも持って行っているようだ。

「このメロンソーダというのは不思議な飲み物だな、だが美味しい」

「こんな色をした飲み物を見るのははじめてだったが、すっかり虜だ」

「炭酸水なのだが、甘くて不思議な味がする、これがメロンというものの味か」

「メロンは果物という事でいいのだろうか」

そうしていると素氷(すごおり)が運ばれてくる。

何もシロップのかかっていないかき氷である。

「お待たせしました、素氷になります」

「すまない」

「デザートと食後酒が必要な時はお呼びください、それでは」

「さて、いただくか」

素氷、何もシロップがかかっていないかき氷の事である。

夏限定で置いてあるこの格安メニュー。

これの食べ方は知る人ぞ知るという感じのメニューなのだ。

その食べ方はドリンクバーから好きなコールドドリンクを選んでくる。

そしてそれを氷が溶けない程度に素氷にかけてシロップ代わりにするのだ。

まさにアヌークが勧めるアレンジの一つでもあるのがこの素氷である。

パンサーはコーラをかけて食べるのがお気に入りの様子。

ドリンクバーでコーラも別に持ってきていたのはそのためだ。

素氷、ドリンクバーの飲み物を好きにシロップにして食べるアレンジメニュー。

人によって様々な味が生まれる知る人ぞ知る自由な味のかき氷だ。

「うむ、やはりこの味はいいな、コーラ味のかき氷、実にいい」

「最初はなんの冗談かと思ったものだが、こうして食べるためのメニューだからな」

「人によって好みの味で食べるためのかき氷、うむ」

「私はコーラ味が好みだが、人によって好みが変わるのも面白いからな」

「溶けない程度に冷たい飲み物をかけてシロップにするかき氷、面白いものだ」

「客に味付けの権利を委ねる食べ物というのは斬新なものだな」

「他の客も分かっていてこれを頼んでいる客がいるようだ」

「うむ、やはり自由な味付けというのは面白いものだ」

そうしているうちにコーラ味の素氷を完食する。

続いてデザートと食後酒を頼む事に。

「お待たせしました、デザートですか」

「ああ、頼む」

「かしこまりました、では器はお下げしますね、少々お待ちください」

それから少ししてピーチゼリーとグラッパが運ばれてくる。

フェアメニューのデザートと食後酒だ。

「お待たせしました、ピーチゼリーとグラッパになります」

「すまない」

「こちらは伝票です、会計の際にお持ちください、それでは」

「さて、いただくか」

ピーチゼリー、夏のフェアメニューの一つのデザートだ。

グラッパは食後酒のぶどうの焼酎だ。

「このピーチゼリーというのは美味しいな、桃という果物のゼリーらしいが」

「食べやすくて食後には最適なデザートだ」

「このグラッパというのは食後酒という事もあり、食後に飲むのが一番美味しいものだ」

そうしているうちにピーチゼリーを完食する。

飲み物とグラッパを飲み干し会計を済ませる事に。

「支払いを頼む」

「はい、素氷とピーチゼリーとグラッパとドリンクバーですね」

「全部で銀貨一枚になります」

「これで頼む」

「ちょうどいただきます」

「満足していただけていマスか」

「これはシェフの方」

「かき氷がお好きなようデスね」

「ああ、定番のシロップもいいが、アレンジして食べるのもまたいいからな」

「素氷は去年から試験的に始めたものなのデスが、意外と好評みたいデスね」

「試験的に始めたものが好評で今年も置いているのか」

「ハイ、ここのコンセプトはアレンジの自由でもありマスから」

「つまり既存の味付けでもよければ好みの味で食べてもいいという事なのだな」

「そういう事デス、ここは客が好きに味付け出来るというのはコンセプトの一つデスから」

「そういうレストランは変わっているな、他の店では考えられん」

「デスがそれで好きな味を見つけているお客も結構いマスよ」

「素氷もそうしたアレンジを目的としたメニューなのだな」

「ハイ、人によって様々な味で食べていただけるのが素氷デスよ」

「やはり面白いな、さて、ではそろそろ行く、また食べに来るぞ」

「甘い匂いがするのでお菓子屋みたいデスね」

「素氷なんてよく考えるよね、アヌーク」

そうしてパンサーは満足そうに帰っていった。

この店のコンセプトの一つがアレンジの自由でもある。

ドリンクバーと組み合わせたアレンジかき氷を売り出したアヌークも相当である。