27/402

ケイジャンチキンプレート

異世界キッチンが開店してからしばらく。

アレッシオも店での働きに慣れてきたようだ。

そして客足も順調に伸びている。

そんな今日も噂を聞いたお客がやってきたようで。

「この辺りですか、噂の料理屋というのは」

「噂では美味しいものが安く食べられるそうな」

「そんな都合のいい話があるものなのですかね」

「おや、ここですね、では入ってみるとしましょう」

彼の名はロス、砂漠の国でスパイスを扱う商売をしている。

この国に商談で訪れた際に話を聞いてやってきたようだが。

「二重扉にベル、清潔には気を使っているようですね」

「中は涼しいですね、それに音楽が流れていてキカイもたくさんある」

「いらっしゃいませ！何名様ですか！」

「む？ああ、一人ですよ」

「かしこまりました、おタバコはお吸いになられますか」

「パイプの事ですか？いえ、吸いませんが」

「かしこまりました、それでは禁煙席にご案内しますね」

「給仕の方ですか、元気があって結構ですね」

そうして席に案内される。

そこで一通りの説明を受ける。

説明は理解してもらえたようで、心配はなさそうだ。

説明を終えた由菜は奥へと下がっていく。

「そういえば水は自分で取りに行くシステムでしたか、取りに行かないと」

「ここにグラスを押し当てて…これだけで飲み水が出るとはどういう仕組みなのか」

「氷ももらいますか、それにしても氷もこんなに用意出来るとは…」

「さて、注文を決めてしまいますか」

「ふむ、いろいろありますね、コメに麺、肉に野菜に魚、甘味まで」

「せっかくですからスパイスを使ったものが食べたいですね」

「だとしたらやはりカリー…ではありきたりですね」

「なら店の人に聞いておすすめを聞いてみますか」

「甘味はこれでいいですかね、ではこのベルで呼ぶのでしたね」

ベルを鳴らして店員を呼ぶ。

少しして奥からアレッシオが出てくる。

「お待たせしました、ご注文はお決まりですか」

「さっきとは違う人ですか、まあいいですが」

「カリー以外でスパイスを使ったものはありますか？」

「カリー以外でスパイスを使ったものですか？えっと…少々お待ちください」

一旦奥に戻りアヌークに話を聞いてきたようだ。

改めて注文を聞く。

「お待たせしました、ではケイジャンチキンプレートでよろしいですか？」

「ケイジャンチキンプレート？それがスパイスを使ったものなのですか？」

「はい、スパイスで味付けした鶏肉を焼いたものです」

「分かりました、ではそれをお願いします、あと甘味でこれとセットドリンクを」

「えっと、ゆずゼリーとドリンクバーですね、ゆずゼリーは食後でよろしいですか？」

「ええ、構いませんよ」

「かしこまりました、ではオーダーを復唱させていただきます」

「ケイジャンチキンプレートとゆずゼリー、ドリンクバーです！」

「オーダー！ケイジャンチキンプレートと食後にゆずゼリー、ドリンクバーです！」

「喜んで！」

「では少々お待ちください」

「料理人は奥か、まあ当然ですか」

「さて、では何か飲み物を選びに行きますか」

そうしてドリンクバーに飲み物を選びに行く。

一通り見た上で選んだのはアイスミルクティーだった。

元々紅茶が好きなようで、それを選んだようだ。

それに氷も入れて席に戻る。

「これは美味しいですね、紅茶にミルクがしっかり馴染んでいる」

「それに適度に甘さもあって飲みやすいです」

「紅茶を冷たくして飲むという発想も面白いものですね」

「冷たい紅茶、これはいいアイディアです」

それから少ししてアレッシオが料理を運んでくる。

それはケイジャンスパイスの刺激的な香りが食欲をそそるプレート。

鉄板の上で音を立てているその鶏肉はとても美味しそうな香りを放つ。

スパイスの香りと鳥の脂が実に食欲に訴えてくる。

「お待たせしました、ケイジャンチキンプレートです」

「これが…確かにスパイスの香りですね」

「鉄板は熱いので気をつけてくださいね」

「分かりました、流石に熱そうですからね」

「デザートが必要な時はお呼びください、それでは」

「さて、ではいただくとしますか」

ケイジャンチキンプレート、それはケイジャンスパイスを使って焼いたチキンステーキだ。

刺激的なその香りが食欲にダイレクトで訴えてくる。

ちなみにケイジャンとはフランス系カナダ人の移民とその子孫を差す言葉である。

ケイジャン料理はアメリカのルイジアナ州の郷土料理の事を言う。

元々はガンボスープという料理を作るために作ったものがケイジャンスパイスだ。

それを様々な料理に使うようになったのが今である。

様々なスパイスを配合して刺激的な味にしたものがケイジャンスパイスである。

肉や魚にも合うので、この店でも他にもケイジャンスパイスを使った料理がある。

代表的なものとしてはやはりジャンバラヤは外せないだろう。

他にも野菜炒めやスープに使っても美味しくなるのがケイジャンスパイスだ。

タイプで言うならチリパウダーに近いものと言えるだろう。

ケイジャンチキンもまたそんなケイジャンスパイスの料理では定番なのである。

「これは…スパイスの刺激がダイレクトに来ますね」

「タイプとしてはレッドパウダーに近いもののようですね」

「私の知る限りではこのようなスパイスははじめてです」

「それにしてもこの刺激はやはりレッドパウダーに近いと見て間違いない」

「配合はこの店独自のようですが、これはなんというのか、とても美味しい」

「鶏肉にしっかりとスパイスが染みていて実に美味しいですね」

「付け合せの野菜も美味しいですし、これは止まりませんね」

「これについては研究の余地がありそうです、少し挑戦してみるとしますか」

「それにしても、実に美味しい、こんなスパイスがあったとは」

そうしているうちにケイジャンチキンをあっという間に完食してしまう。

あとはデザートを頼むためにベルで店員を呼ぶ。

「お待たせしました、デザートですか」

「はい、お願いします」

「かしこまりました、ではお皿はお下げしますね、少々お待ちください」

そうして皿を下げて由菜は奥に戻る。

それから少ししてゆずゼリーを運んでくる。

「お待たせしました、ゆずゼリーになります」

「ありがとう」

「こちらは伝票です、会計の時にお持ちください、それでは」

「ではいただくとしますか」

ゆずゼリーはゆずの果汁と果肉を使ったクラッシュゼリーだ。

ゆず独特の甘さと酸味がとても美味しい一品である。

子供でも食べやすい味になっているし安い。

食後でもペロリと食べられるデザートである。

「これは美味しいですね、果実の甘さと酸味がしっかりしている」

「それに食べやすくなっていて、食後でも食べられる」

「甘味はやはり別腹という事ですね」

そうしてゆずゼリーも完食する。

あとは飲み物を飲み干し会計を済ませる事に。

「すみません、支払いをお願いします」

「はい、えっとケイジャンチキンプレートとゆずゼリー、ドリンクバーですね」

「全部で銅貨９枚になります」

「ではこれで」

「銀貨一枚いただきます、お釣りの銅貨一枚になります」

「ええ、確かに」

「美味しかったデスカ」

「あなたがここのシェフですか」

「ハイ、オーナー兼シェフのアヌークデス」

「実に美味しかったですよ、まさかあんなスパイスがあるとは」

「気に入ったのなら何よりデス」

「あれはこの店独自の配合ですよね」

「そうデスヨ、私が独自に配合したものデス」

「やはりですか、ですが勉強になりました」

「スパイスにはうるさいのデスカ？」

「一応スパイスを扱う商売をしているもので」

「そうデシタか、ならよかったデス」

「また仕事で来た時には寄らせていただきますね」

「それは楽しみにしてマス」

「では私は仕事に戻ります、それでは」

「その道の人にも好評なんだね」

「学ぶ事に遅いというのはありマセンから」

そんなロスは国に帰ってからケイジャンスパイスの研究を始めたそうな。

試作品が世に出回るのはもう少し先の話。

何事も勉強ですね。