お好み焼き~豚玉~
こっちの世界も季節的には夏の手前になりつつある。
とはいえまだ春であり、梅雨のようなものもないのは救いか。
雨や雪が降る日は季節によっては当然ある。
ただ店のある国は山に遮られ雨雲や雪雲が発達しにくいとエトが言っている。
「今回の届け先ってどこかな」
「今回は9番街のモリーさんの家ですね」
「9番街か、ならそこまで遠くないね」
「早くに終わらせてしまいますか」
今回の届け先は9番街。
そこまで遠くないのですぐに終わらせられそうだ。
「それで今回の注文って何かな」
「豚玉のお好み焼きですね」
「お好み焼きって確かピザみたいなやつだよね?」
「ええ、まあ正しくは鉄板焼きの一種だそうですよ」
「鉄板って名前の通り鉄の板で焼く料理だよね」
「ええ、それで主に粉もんと呼ばれる料理なんだそうです」
「粉もん?」
「小麦粉から作る料理をそう呼ぶそうですよ」
「へぇ、それで粉もんか」
「はい、たこ焼きとか肉まん、うどんや焼きそばに餃子なんかも粉もんなんだそうです」
「それらも小麦粉から作られてるもんね」
「まあ要するに小麦粉から作られる料理全般を指す言葉ですね」
「でもお好み焼きってなんでお好み焼きって名前なの?」
「お店では豚玉や海鮮などで出していますが、元々は名前の通りお好みだったそうですよ」
「つまり好きな具を使って焼いて作ってたって事だよね」
「ええ、その中でもポピュラーなのが豚玉や海鮮、広島風などだとか」
「広島風っていうのはその土地の名前の事だよね?」
「はい、それは主に中華麺を使って作るんだとか」
「まさにお好みか」
「ええ、お店では主に関西風のお好み焼きを出しているみたいですね」
「関西っていうのも地域の名前だよね」
「そう言ってましたね」
「お好み焼きは割と簡単に作れるから僕も助かってるよ、家でたまに作るから」
「小麦粉や卵や豚肉は割と簡単に手に入りますからね」
「あとキャベツとかもね」
「鉄板焼きではありますがフライパンでも作れるというのは地味に強いですよね」
「だから家でもお好み焼きは作りやすくていいよ」
「アレッシオさんもそういうのが好きなんですね」
「うちの下の子達にも人気だからね」
「子供にも食べやすいというのはいいですね」
「こっちだね」
「ここの先のその先ですよ」
お好み焼きはこっちの世界でも割と簡単に作れる料理だ。
なのでアレッシオはたまに家でも作るという。
小麦粉も卵も豚肉もキャベツなどの野菜も割と簡単に手に入る。
ただ紅生姜や天かす、桜えびなどは珍しいので使わないという。
シンブルに生地と肉と野菜で作るが、それでも美味しいとのこと。
まあ店のものに比べれば味気なくはあるが、それも些細な事だと。
「お好み焼きって簡単に作れて子供にも食べやすいから助かるよ」
「お好み焼きは元々は子供のおやつとして食べられていたらしいですよ」
「子供のおやつだったの?」
「それが料理として進化していって今のお好み焼きになったんだとか」
「料理の歴史ってやつだね」
「まあお好み焼きは和風のピザのようなものという認識でいいとも言ってましたね」
「でもピザに比べると調理法とかはまた違うよね」
「そこはルーツがピザにあるというのも一説なんだとか」
「そういえばお店ではだし汁も使ってるけど、だしって取れるのかな」
「アヌークさんが言うにはだしは軟水だとよく出るそうなので、水質は大切なんでしょうね」
「水質…そういうのはよく分からないや」
「まあ少々味気なくはなりますが、アレッシオさんが家で作れているなら問題ないかと」
「それは確かに」
「料理によって軟水がいいものもあれば硬水がいいものもあるそうなので」
「水質がそこまで影響するんだね」
「煮込み系は硬水の方がいいそうで、だしを使う料理は軟水の方がいいとか」
「こっちだね」
「急がなくても大丈夫ですよ」
そのまま9番街に入っていく。
モリーさんのいえはすぐそこだ。
「ここかな」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせしました」
「えっと、まず先に銅貨一枚と青銅貨二枚をいただきます」
「これで」
「ちょうどいただきます、ではこちらが豚玉のお好み焼きになります」
「確かに」
「容器は行政区分に従って可燃ごみでお願いします」
「分かりました」
「ではまたのご利用をお待ちしています、それでは」
「さて、いただきますか」
豚玉のお好み焼き、お好み焼きの定番にして鉄板のメニュー。
店では鉄板焼きで提供しているが、宅配では焼いてから提供される。
豚肉の美味しさはもちろん生地もふわふわに仕上がっている。
お好み焼き自体は何種類かある。
ソースや青のり、鰹節もまた美味しさの理由だ。
子供にも人気の料理の一つでもある。
「ふむ、これは美味しいですね、ふわふわで甘辛なソースがよく染みている」
「肉もしっかりとしていて、野菜もソースと絡んでまた美味しい」
「それに加えてこの紙のようなもの?も美味しさのアクセントなんでしょうか」
「細かくて緑色のものは青のりと言うんでしたか」
「このソースはどうやって作っているのでしょうか」
「具を混ぜた生地を焼いてソースで味付け、シンプルながらこれはいい」
その頃のアレッシオ達は帰り際に休憩していた。
冷たい麦茶が美味しくなる季節だ。
「ふぅ」
「麦茶というのは癒やされますね」
「不思議な飲み物だよね」
「夏になればもっと美味しくなるんですよね」
飲み物を飲んだらそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻りました」
「お帰り、はい、おしぼり」
「ありがとうございます」
「そとはすっかり暖かいみたいデスね」
「はい、もう薄着で問題ないですよ」
「なら夏服の準備とかもしないとね」
「変わる時は伝えてくださいね」
「ハイ、夏服に帰るのはまたもう少しデスね」
もう薄着でも足りる程度には暖かくなった様子。
夏服の制服に変えるのはまだ少し先だ。
夏になればまた新たなフェアメニューも始まる。




