ふわとろオムライス
こっちの世界もすっかり春になり防寒着はもう必要なくなった様子。
そしてフェアメニューも汁物以外は宅配とテイクアウトに対応している。
それによりフェアメニューをテイクアウトや宅配で頼まれる事も多い。
宅配のカタログやチラシは傭兵斡旋所や新聞屋の協力あってこそだ。
「今回の届け先ってどこかしら」
「11番街のスタンレーさんの家ですね」
「ならそこまで遠くないわね、早く届けちゃいましょ」
「急がなくても間に合いますよ」
今回の届け先は11番街。
そこまで遠くないのですぐに届けられそうだ。
「そういえば今回の注文ってなんなの」
「ふわとろオムライスですね」
「…オムライスの他にオムシチューとかオムそばもなかった?」
「あれはかけるものが違うからソースで値段を差別化してるみたいです」
「つまりオムライスって?」
「シンプルなケチャップをかけたものですね」
「ならオムシチューは?」
「ベースとなるオムライスにシチューをかけたオムライスより少し贅沢なやつです」
「変なところで差別化するわねぇ」
「まあオムそばは焼きそばですけど、オムライスとオムシチューはベースは同じですし」
「そういえばメニューはオムライスがベースとして載ってたわね」
「はい、そこにソースの選択があってオムシチューはオムライスに青銅貨一枚追加ですよ」
「確かオムライスは銅貨一枚と青銅貨一枚よね?」
「ええ、そこにオムシチューに変更する際は青銅貨一枚ですね」
「ケチャップに比べるとソースの値段って事なのね」
「ええ、あとオムそばはオムライスやオムシチューとはまた別の料理ですし」
「なんかソースが変わるだけで味が変わるのは人の好みもあるからなのかしら」
「オムライス自体はケチャップが定番ですが、シチューをかけるのもあるそうですから」
「ふーん、そういうのって料理を考える人にしか分からない感覚なのかしら」
「かもしれませんね」
「そもそもオムライスは誕生した時はケチャップが定番で、そこから進化していったとか」
「それが俗に言うオムシチューとかで、派生したものがオムそばみたいなものなのかしら」
「料理はそういうものだとは言っていましたね、料理人のアイディアが発展させた世界だと」
「料理を考える人って発想が本当に柔軟よねぇ、まさに探求者だわ」
「食文化というのはそういうものなんでしょうね」
「そういえばお父様も外交において食文化は大切だって言ってたわね」
「美味しい食事で外交を優位にする、みたいな話ですか」
「こっちね、行くわよ」
「急がなくても大丈夫ですよ」
エトが言うようにオムシチューはオムライスの正統進化、オムそばは派生である。
そうした正統進化や派生した料理も最初に考案した人間がいる。
またエトの父親の国王が言っていたという外交における料理の大切さ。
アヌークもそれを言っていて、食というのは立派な外交におけるカードなのだ。
その食文化で不利と言われていた外交を覆した国も存在する。
食は立派な武器であり、その武器は時にとてつもない強さになるのだから。
「でもお父様が食は外交の立派なカードって言ってたのも今は分かるわ」
「アヌークさんが言うには食の力で外交の力関係を覆した話もあるとか」
「食文化とか美味しい食べ物って実は凄い強い武器なのね」
「まさに相手の胃袋を掴むという事なのでしょうね」
「胃袋を掴む、美味しい食事で相手を従わせるみたいな意味よね」
「その人やお店の料理が恋しくなるみたいな意味もありますね」
「その味が忘れられないっていうのが表現としては一番近いのかしら」
「かもしれません、美味しい料理はそれだけ記憶に焼き付くんだと思います」
「その美味しい記憶が胃袋を掴むっていう表現なのね」
「まさしく食事で相手を魅了するという事ですからね」
「食の力を完全に侮っていたわね」
「美味しい料理が持つ力ですよね、美味しいという事はとても大切なんですよ」
「こっちね、急ぐわよ」
「急がなくても大丈夫ですよ」
そのまま11番街に入っていく。
スタンレーさんの家はすぐそこだ。
「ここかな」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせしました」
「えっと、先に銅貨一枚と青銅貨一枚をいただきます」
「これでお願いします」
「ちょうどいただきます、ではこちらがご注文のふわとろオムライスになります」
「どうも」
「容器は行政区分に従って可燃ごみでお願いします」
「分かりました」
「ではまたのご利用をお待ちしています、それでは」
「さて、いただこうかな」
ふわとろオムライス、ふわふわでとろとろの卵で包んだオムライスだ。
オムライスはケチャップだが、追加料金でオムシチューにも変更出来る。
オムライスは卵は当然として米にもこだわりがある。
そのこだわりの米をチキンライスにして卵で包んでいる。
卵はふわとろでチキンライスも甘みのある味に仕上がっている。
ケチャップもまた信頼を置くところから仕入れているのだから。
「うん、これは美味しいな、卵がふわふわしててとろっとしてる」
「卵に包まれたライスはトマトで味付けをしているのか」
「ライスは鶏肉と、いくつかの野菜を加えて炒めてあるのかな」
「卵と一緒に食べるとまた美味しいものだね」
「あと卵にかかってるのもトマトソースかな?」
「トマトの味と卵の味がしっかりしててこれはいいね」
その頃のエト達は帰り際に休憩していた。
冷たい麦茶が体を癒やす。
「はぁ、麦茶って美味しいわね」
「温かいのも美味しいてすけど、麦茶はやはり冷たい方が美味しいですね」
「体に染み渡るってこういう事よね」
「全くですよ」
飲み物を飲んだらそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻ったわよ」
「お帰り、はい、おしぼり」
「ありがとうございます」
「もう防寒着は完全にお役御免デスね」
「そうね、冷える日はあっても防寒着が必要な寒さはもう来ないわ」
「なら次の冬まで防寒着は片付けてよさそうだね」
「ええ、それで問題ないと思います」
「では防寒着は片付けるとしマスね」
冷える日はたまにあるが寒い日はもう来る様子はない。
次の冬まで防寒着はお役御免となった。
そして春が本格的になる。




