鶏五目弁当
すっかり春の陽気になり、寒さはすっかりなくなった様子。
そんな中春のフェアメニューも順調に売れている。
春の味覚から少し変わり種なメニューまで揃えるのがフェアメニューだ。
また春になったからなのか、外で食べるためのテイクアウトや宅配が増えている。
「今回の届け先ってどこかな」
「3番街のジーニーさんの家ですね」
「3番街だね、そこまで遠くないかな」
「ええ、行きますよ」
今回の届け先は3番街。
そこまで遠くないのですぐに行ける距離だ。
「今回の注文って何かな」
「鶏五目弁当ですね」
「鶏五目ってあれだよね、炊き込みご飯っていう」
「ええ、野菜と鶏肉を混ぜ込んで炊いたライスですね」
「それでお弁当だからおかずもついてるのか」
「ええ、おかずはいくつかから選べて今回は青椒肉絲ですね」
「確か炊き込みご飯って和食なんじゃ」
「おかずは別に和のおかず限定という事でもないみたいですよ」
「そういう所はアヌークらしい考え方だなぁ」
「リーザさんは炊き込みご飯とかは好きなんですか?」
「まあ嫌いじゃないかな、ただごぼうは流石に最初は驚いたけど」
「ごぼうって見ただけなら完全に木の根ですからね」
「野菜の仲間だって聞いた時は驚いたよ」
「食べてみたら思っているよりは美味しかったですしね」
「あたしは野菜はそこまで好きでもないけど、野菜の美味しさぐらいは分かるつもりだよ」
「離島出身なので野菜自体はよく食べていたみたいな話ですか」
「うん、だから都会の野菜ってやっぱり輸送の関係で品質は落ちるって感じるし」
「採れたてに比べたら当然、という事なんでしょうか」
「魚なんかもそうだけど現地で食べるものと都会で食べるものじゃ輸送が入るからね」
「港町で食べる魚は都会の魚より安くて美味しいとかですか?」
「これはアヌークも言ってたけど、港町の魚は都会の高級魚料理より安くて美味しいんだって」
「やはり産地直送みたいな食べ物は鮮度や質がそれだけいいという事なんでしょうね」
「うん、アヌークが言うには都会の値段は輸送費や保存のコストも含めてなんだって」
「そういうところを省略する事が出来るのは産地で食べられるからこそですか」
「あたしの島の名産のトマトもこの街だと島の倍ぐらいの値段がするもん」
「そういうところが輸送費や保存のコストであり、産地直送の魅力という事ですね」
「こっちが3番街か、急ごう」
「焦らなくても間に合いますよ」
ごぼうに驚くというのはこっちの世界でもあるようだ。
ごぼうが木の根にしか見えないというのはそれをはじめて見たからなのだ。
店で出している料理の食材にはこっちにはないものもあるようなので当然なのかもしれない。
ごぼうはそんなこっちの世界にはない食材なのだろう。
ただそうした食材も食べても問題ないのはすでにこれまでの時間が証明している。
なお都会でここまでの鮮度のものが食べられるのは多くの客が驚く話ではあるが。
「都会は基本的に内陸にあるから物は集まるけど質はどうしても落ちるのかな」
「野菜でも魚でもそうですけど、品質を保ったまま輸送する手段がまだ珍しいんですよ」
「だとしたらお店の冷蔵庫とかは先端技術なんだね」
「都会の高級食材が産地ではその半額以下で食べられるとかあるらしいですし」
「産地直送はそれだけ美味しいっていう事になるのかなぁ」
「少なくとも産地直送は鮮度が全然違うとはアヌークさんは言っていましたね」
「野菜も魚も鮮度の違いは大きいって事なんだなぁ」
「港町で食べる魚の美味しさは都会のそれとはまた違うのだとか」
「輸送する技術がどんなに発達しても都会で産地と同じ味は食べられないって事なんだね」
「みたいですね」
「技術が進歩してもそういうところは完全に解決はしないんだね」
「それでも輸送において品質をある程度保つ事は出来るとは言っていましたけどね」
「こっちかな?行こう」
「もうすぐそこですね」
そのまま3番街に入っていく。
ジーニーさんの家はすぐそこだ。
「ここみたいだね」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせしました」
「はい、では先に代金として銅貨一枚と青銅貨一枚をいただきます」
「これで」
「ちょうどいただきます、ではこちらがご注文の鶏五目弁当になります」
「ありがとう」
「容器は行政区分に従って可燃ごみでお願いします」
「分かったわ」
「ではまたのご利用をお待ちしています、それでは」
「さて、いただこうかしら」
鶏五目弁当、鶏五目ご飯に好きなおかずを選べる宅配や持ち帰り用の弁当だ。
宅配やテイクアウトのみで販売している弁当類も店にはある。
そうしたものは店で食べている時間がない人にも割と好評だったりする。
鶏五目ご飯に加え和洋中の好きなおかずを自分で選択するシステムだ。
またご飯大盛りなどにも対応していたりする。
弁当類はあくまでも持ち帰りと宅配専用のメニューなのだ。
「うん、これは美味しいわね、野菜と肉を混ぜてあるライスなのね」
「おかずの青椒肉絲というのは野菜と肉の炒めものなのね」
「鶏五目ご飯っていうのは五目っていうぐらいだし五種類なのかしら」
「でも入っている野菜も不思議な野菜ね、木の根みたいなのも野菜なのよね」
「美味しいからいいとしても、こういうのは知らない人には誤解されそう」
「世界には知らない野菜があるという事なのかしらね」
その頃のリーザ達は帰り際に休憩していた。
冷たい麦茶が体に染み渡る。
「はぁ、麦茶が染みるぅ」
「冷たい麦茶は体に効きますね」
「麦茶って大麦っていう麦から作ってるらしいけど」
「大麦という麦があるという事ですよね」
飲み物を飲んだらそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻ったよ」
「お帰り、はい、おしぼり」
「ありがとうございます」
「外はすっかり春模様のようデスね」
「うん、寒さはもうないしね」
「なら防寒着はそろそろ片付けていいかな」
「そうですね、冷えたとしても寒いまではいきませんし」
「なら防寒着も片付けてよさそうデスね」
冷える日はあっても寒くはなくなった様子。
それにより防寒具はそろそろお役御免になる。
そしてまた暖かくなり暑くなる。




