ラタトゥイユカレー
春のフェアメニューに切り替わり季節的には春に突入した。
春は美味しい春野菜がたくさん出回る季節。
それもあり野菜を使ったフェアメニューが様々に並ぶ。
もちろん野菜以外にも旬の食材を揃えてはいる。
「今回の届け先ってどこかな」
「8番街のシェリーさんの家ですね」
「8番街か、なら遠くはないね」
「はい、行きますよ」
今回の届け先は8番街。
そこまで遠くないのでそう急がずともいい距離だ。
「今回の注文ってなんだっけ」
「ラタトゥイユカレーですね」
「ラタトゥイユって確か野菜の煮込み料理の事だっけ?」
「はい、野菜のトマト煮込みみたいな感じの料理ですね」
「それをカレーにしたのか、アヌークさんっていろいろやるなぁ」
「アヌークさんが言うには夏野菜で作るそうですが、旬でなくとも割と美味しいとか」
「そうなんだ、ラタトゥイユに使う野菜って夏野菜なのに夏じゃなくてもいいんだね」
「あくまでも使う野菜の旬が夏というだけで収穫は通年で出来るそうですから」
「それで春にラタトゥイユカレーか、なんでもありなんだなぁ」
「ラタトゥイユはトマトの他ににんにくやオリーブオイルも使うそうですし」
「要するにスパイシーな感じって事かな」
「それに加えて香草もいくつか使うそうですから、香りが強いとは言ってましたね」
「でも旬って事は一番美味しい季節が夏なんだよね?」
「みたいですね、夏野菜の煮込み料理がラタトゥイユだそうですから」
「でも夏野菜なのに一年中収穫出来るのは季節に関係なく育つからなんだよね」
「ええ、収穫自体は通年で出来ますが一番美味しい季節が夏というだけです」
「ラタトゥイユって結構香りが強い料理なんだよね」
「にんにくや香草などの香りが強いものを使っていますからね」
「料理は匂いで美味しいって感じられるのも大切なんだっけ」
「ええ、料理において見た目と香りは美味しさを判断するには重要だとか」
「やっぱり第一印象って事なんだね」
「第一印象が悪いと美味しくても食べてもらえませんからね」
「こっちかな、行こう」
「急がずとも間に合いますよ」
ラタトゥイユは夏野菜の煮込み料理ではある。
とはいえ夏野菜とは言っても収穫は通年で出来るものだ。
あくまでも美味しい季節というのが夏野菜や春野菜と呼ばれる所以である。
美味しい季節があるが、食べる事は季節とは関係ない。
この季節に収穫されたものが美味しい的な話でしかないのだ。
ラタトゥイユカレーもそんな理由で春に出してきたのかもしれない。
「夏野菜ではあるけど春でも収穫は普通に出来るんだよね」
「ええ、夏野菜や春野菜というのはその旬を表す言葉でしかないですから」
「でも野菜かぁ、うちの下の子達は野菜が苦手な子も多いんだよね」
「野菜は子供が苦手な食べ物の代名詞ですからね」
「実際うちの下の子もなかなか食べてくれなくて苦労してるんだよね」
「野菜を食べさせるには野菜は美味しいと思わせるしかないですよ」
「それか美味しい野菜料理を作るとかね」
「アヌークさんが言うには野菜は生だと基本的に美味しくない事が多いとか」
「だとしたらやっぱり火を通した野菜料理になるのかな」
「大人と子供では味覚が異なるそうで、子供は苦味のあるものを嫌う事が多いとか」
「苦味か、ピーマンやにんじんを嫌う理由が分かった気がする」
「苦味を感じないように工夫すれば意外と食べてくれるとは言っていましたよ」
「なるほど、苦味を感じない調理法か」
「工夫次第という事ではありますよね、デザートにしてしまうのもありだそうですし」
「デザート…そういう手もあるのか」
「にんじんゼリーやにんじんのパウンドケーキなど何かとあるらしいので」
「この先かな、行こう」
「ええ、もう近くですよ」
そのまま8番街に入っていく。
シェリーさんの家はすぐそこだ。
「ここかな」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせしたわね」
「はい、では先に代金として銅貨一枚と青銅貨一枚をいただきます」
「これでお願い」
「ちょうどいただきます、ではこちらがご注文のラタトゥイユカレーになります」
「ありがとうね」
「容器は行政区分に従って可燃ごみでお願いします」
「分かったわ」
「ではまたのご利用をお待ちしています、それでは」
「さて、いただこうかしら」
ラタトゥイユカレー、ラタトゥイユをそのままカレーにアレンジした料理。
夏野菜を使っているのはもちろん、味もそのままラタトゥイユだ。
それでありながらカレーのようなとろみが付いているのも特徴。
要するにトマトカレーの派生料理といった感じでもある。
ただしベースはあくまでもラタトゥイユだ。
なので香りも当然結構強かったりする。
「ん、これはずいぶんと香りが強いのね」
「でも香りに負けないぐらい美味しいわ」
「野菜もたくさん入ってて、トマトベースの料理なのね」
「ライスとの相性もいいし、付け合せの福神漬けっていうのも美味しいわ」
「これだけ野菜をたっぷり使った料理なんて凄いわね」
「ゴロゴロな大きいサイズに切った野菜もトマトの味が染みていて美味しいものね」
その頃のアレッシオ達は帰り際に休憩していた。
冷たい麦茶が体に染み渡る。
「暖かくなったからなのか麦茶も冷たくなったね」
「でも夏に比べると冷たさは弱いですね」
「春に美味しい感じの冷たさかな」
「そのようですね」
飲み物を飲んだらそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻りました」
「お帰り、はい、おしぼり」
「どうもありがとうございます」
「外はもう暖かくなり始めている感じデスか」
「はい、まだ完全ではないですけど結構暖かいです」
「防寒着はまだ寒い日があるかもしれないし、もう少し置いておくね」
「分かりました」
「春もすぐそこに来ているようデスね」
そうして外は徐々に春の陽気に変わっていく。
完全に暖かくなるのはもう少し先ではある。
とはいえ季節は確実に変わり始めているのだ。




