オードブル
今年最後の営業となった異世界キッチン。
スタッフには早めに帰っていいと言ってあるので、各自早めに帰っていく。
営業時間も年末年始なのでいつもより早く閉店する。
そのついでに今年最後という事もあり、お土産を渡したようで。
「ただいま」
「お、兄ちゃん!お帰り!」
「今日は早かったんだね」
「うん、あとお土産もらってきたよ」
年の瀬という事もありアレッシオの家も両親共に休みである。
お土産はアヌークが各自のリクエストを渡している。
「お土産のオードブルだよ、みんなで食べよう」
「兄ちゃん、結構よくお土産もらってくるけど、今回のは豪華だね」
「美味しそう、早く食べたい!」
「うん、それじゃ持っていくから」
そのまま持ち帰ったオードブルを家の居間に持っていく。
取り分ける皿も用意して、他の兄弟や両親も呼んでそれをいただく事に。
「それにしてもお前、すっかり稼いでくるようになったな」
「少しは楽をさせてあげたいからね」
「銀貨10枚なんて我が家の一番の稼ぎ頭よね、そんなにもらえるなんて凄いお店なのね」
「最初は驚いたんだけど、向こうが言い出した以上それで払うって言ったから」
「そんな儲けてる店なのか?」
「お客は結構入ってるから、たぶん相応に儲けてると思う」
「ふーん、でもお兄ちゃんのお土産は美味しいから楽しみだよ」
「とりあえず食べようか、好きなものを取っていいけど早いもの勝ちかな」
「なら好きなものは早く食わないとな」
「それじゃいただきましょう」
そうして各自オードブルの料理を皿に取り分けて食べていく。
和洋中様々な料理を一つにしたオードブルはこういう時にはいいものだ。
両親も兄も下の弟と妹達も美味しそうに食べている。
子供が好きそうな料理をメインにしてくれたのはアヌークなりの配慮なのかもしれない。
美味しそうに食べてくれるのはやはりいいものであるという事なのか。
子供でも好きなものが多いのはこういう料理の強みとも言える。
「ふぅ、それにしてもすっかり稼ぐようになってきたんだな」
「お土産まで持って帰ってきてくれるなんて気前のいいお店なのね」
「うん、ただ早くに食べないといけないものとかだから日持ちはしないけどね」
「それでも持って帰ってきてくれるおかげで下の子達も楽しみになったんだぞ」
「兄さんは仕事で家にはあまりいないもんね」
「兄ちゃんのお土産をみんな楽しみにしてるんだ、もちろん毎日じゃないけどさ」
「にーにのお土産は争奪戦だよね」
「そうよ、まあもっともらってこいとも言えないからあれだけど」
「そこは流石にね、でもお土産をくれる辺りはいいお店だよ」
「兄ちゃん、どうやってそんなお店を見つけたんだよ」
「えーっと、向こうから働かないかって言われたんだけど」
「あら、意外と見込みのあるお店なのかしら」
「それは分からないけど」
下の子も美味しいものをもらってきてくれるという事が楽しみになっている様子。
兄や両親もそうしたものをもらってきてくれる事で少しは楽になったとも言う。
下の妹達、特に小さい子なんかはすっかり羨望の眼差しで見るようになった。
銀貨10枚という稼ぎはそれだけ大きいという事だ。
「兄さん、銀貨10枚とか何をどうしたらそんな給料もらえるの」
「お店の人が相場をよく分かってなかったっぽいけど」
「外国から来た人なの?」
「みたいだよ」
「それで銀貨10枚か、かなり恰幅がいいんだろうな」
「料理を作るのが好きな人っていう感じだけどね」
「お兄ちゃん、お店で働き始めてから料理を作るようにもなったもんね」
「あのアレッシオが料理を始めるなんて想像もしてなかったわよ」
「まああれでも割と簡単な料理なんだけどね」
「あんな美味しいのに簡単な料理なの?」
店で働き始めてからはたまに家で料理も作るようになったアレッシオ。
そんな料理も家の人には好評だったりする。
残り物で作れたりするのは地味に便利なのだろう。
冷蔵庫にあるものを適当に使って作れてしまうのはそんな料理人のスキルである。
「にーにがご飯作るようになってからお母さんも楽が出来てるよね」
「簡単に作ってるけど、普通に美味しいもんな」
「残り物で作れるものを教わってるだけだから」
「でもおかげで食材をきっちり消費出来るようになったのよ、凄いわ」
「兄さん、本当に器用になっていくわよね」
「お前、すっかり人気者だな、父さんは鼻が高いったらないな」
「お父さんまで…」
「まあいいんじゃないか、家族に銀貨10枚稼いでくる奴がいるのは大きいぞ」
「兄さんまで…」
「なんにせよ新年の年越しなんだから、食べたら早く寝るのよ」
「はーい、明日はお休みだもんね」
「明日は午前中だけ出勤するけど、あとは時間はあるよ」
「新年早々働くのか、まあ午前中だけならいいかな」
「ついでに午後はスタッフの一人と一緒に少し出かけるんだけど、一緒に来る?」
「いいの?なら行く!」
「兄さんの仕事仲間ね、一応挨拶しておくわ」
「なら午後に街の広場に集合ね」
「はーい」
「どんな人なのかしら」
「少し遅くまで起きてても構わんが、眠くなったらさっさと寝るんだぞ」
そんなアレッシオの家の年の瀬はお土産のオードブルと共に過ぎていく。
来年も異世界キッチンでしっかりと働いて稼いでもらう事に。
大家族でも割と上手くやれているようではある。




