焼きラーメン
こっちの世界も冬が近づいてきている様子。
それもあってなのか、温かい料理がよく出るようになった。
とはいえまだ冬本番には早い時期でもある。
冬本番になれば店の中も暖房で暖かくなるのだから。
「今回の届け先ってどこなの」
「今回の届け先は19番街のタイタスさんの家ですね」
「19番街ね、少し遠くよね」
「はい、なので早く向かいましょう」
今回の届け先は19番街。
少し遠いので自転車も速くなる。
「今回の注文って何かしら」
「焼きラーメンですね」
「焼きラーメンって焼きそばとかと何が違うの?」
「そうですね、焼きそばは蒸し中華麺ですが焼きラーメンはラーメンの麺だそうです」
「よく分からないわね、まあ具なんかは焼きそばとは違うっぽいけど」
「そうですね、タレなんかもラーメンスープの味ですし」
「具もチャーシューとかメンマ、ナルトが乗ってるものね」
「まあ油そばなんかもありますから、それの亜種だと思えばいいのでは」
「そうね、そういう事にしておくわ」
「でもエトさん、ラーメンとか好きですよね」
「好きね、麺料理は好きよ」
「スパゲッティなんかもナポリタンやミートソースが好きみたいですし」
「子供っぽいとは言われるけど、好きなものは好きなのよ」
「エトさん、そもそもまだそんな歳でもないじゃないですか」
「でももう17になりそうよ、王族として見ると普通に大人なのよ」
「王族は教育とかも厳しそうですよね」
「まあ確かに勉強は厳しいわね、家庭教師もついてるし」
「そういうところは王族なんですね」
「今は働いてるけど、それでも帰ってから勉強もしてるのよ」
「王族は人の上に立つ立場だからそれだけの教養が求められるという事ですね」
「でも姫は王様になるのはまずないから、ある程度は自由なのよね」
「あるとしたら政略結婚ぐらいでしょうか」
「かもね、でも働いている以上そういう話も出しにくくなってるとは思うわよ」
「そういうところはしたたかですよね、エトさん」
「まあ継承権は男優先だし、姫は政争の道具としての価値の方が高いもの」
「政略結婚は外国や国内の貴族王族への釘を刺す意味もありますからね」
「それより飛ばすわよ」
「ですね、急ぎましょう」
エトも味覚は割と年相応なところがある。
とはいえ王族である以上その味覚は普通に肥えていたりもする。
だからこそ好きになるものは年相応でありながら意外と素直だったりする。
偏食家というほどでもないが、庶民的なものの方が好みになる。
それは美味しいという感覚に対して素直なのかもしれない。
高級なものが必ずしも美味しいという事ではないという事なのだろう。
「味覚は子供っぽいとは言われるけど、好きなものは好きなんだからいいわよね」
「エトさんの場合欲求に対して割と素直なのでは」
「うーん、でも高級なものは散々食べ慣れてるからなのかもしれないわね」
「王族としていいものは普段から食べてるから、好みは庶民的なものになったとか?」
「美味しいといいものっていうのは必ずしもイコールじゃないのよ」
「だとしたら味付けの話になってくるのかもしれませんね」
「お父様が高いものがいいものとは限らないが、いいものは相応に高いって言ってたわ」
「そういうところはいいものに囲まれている人の言葉って感じですね」
「だから姫は高い料理が必ずしも美味しいとは限らないって学んだのよ」
「確かにあのお店の料理を食べればそれは感じますよね」
「もう少しね、飛ばすわよ」
「はい、急ぎましょう」
そのまま19番街に入っていく。
タイタスさんの家はすぐそこだ。
「ここね」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせしました」
「先に代金として銅貨一枚と青銅貨一枚いただきます」
「これで」
「ちょうどいただきます、こちらがご注文の焼きラーメンになります」
「はい、確かに」
「容器は行政区分に従った上で可燃ごみでお願いします」
「分かりました」
「ではまたのご利用をお待ちしています、それでは」
「さて、いただきますか」
焼きラーメン、焼きそばやまぜそばの亜種といった感じの料理。
ラーメンの麺を焼きそばのように焼き、ラーメンスープの味のタレでいただく。
家庭で言うなら袋麺のラーメンを汁なしで食べるような感じのもの。
もちろんそれとは違うが、分かりやすく言うと汁なしラーメンとも言える。
タイプ的には汁なし担々麺のようなものである。
焼いているか茹でているかの違いみたいな感じではある。
「ん、これは美味しいですね、麺が結構歯ごたえがある」
「具も肉にこれは…野菜?こっちの渦巻のものは食感は魚っぽいですね」
「ですがこの料理にはそれが実に合う」
「確かメニューにはメンマとナルト…と書いてありましたが、何から作られているのか」
「麺にスープもよく絡みますし、それでありながら焼いてある食感がまたいい」
「焼いた麺と少量のスープによるバランスがいいですね」
その頃のエト達は帰り際に休憩していた。
涼しくなっても麦茶は変わらずに美味しいのだ。
「温かい麦茶もそれはそれで美味しいわね」
「冬には体も温まりますしね」
「冬本番はもう少し先だから、こういうのはもっと流行ってもいいかも」
「大麦が手に入るならこっちでも作れそうですけどね」
飲み物を飲んだらそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻ったわよ」
「お帰り、はい、おしぼり」
「ありがとうございます」
「冬はもうすぐデスかね」
「そうね、来月の頭には冷え始めると思うわよ」
「なら上着はそれぐらいに出せるように調節かな」
「分かりました、ではそれでお願いします」
「こっちの冬は向こうに比べると少しはマシっぽいデスしね」
この国は内陸の国なので寒さとしてはそこまで強くはならない。
ただそれでも冬は相応には寒くはなるという。
強い寒さにはならないが、気温一桁は普通な程度の寒さらしい。




