カルビ焼きそば
秋のフェアメニューも順調に売れている異世界キッチン。
宅配やテイクアウトも結構出ていて知名度は今ではかなり上がった。
口コミによる宣伝はそれだけ遠くまで届いているのだろう。
口伝の力はそれだけ強いという事でもある。
「今回の届け先ってどこかな」
「15番街のトーラスさんの家ですね」
「15番街か、少し遠いかな」
「自転車があるのですぐですよ、行きましょう」
今回の届け先は15番街。
この街は広いのもあるが、大通りや裏通り以外の路地は結構入り組んでいるのだ。
「そういえば今回の注文ってなに」
「カルビ焼きそばですね」
「カルビ焼きそばって肉焼きそばの事だよね」
「はい、カルビを使ってある塩焼きそばです」
「カルビって肉の種類なんだっけ?」
「正しくは肉の部位の名前みたいです、動物のどの部分の肉かを指しているとか」
「つまり牛なら牛で体の部分によって肉の名前が変わってくるのか」
「ええ、だから希少な部位の肉もあるそうですよ」
「それってつまり取れる肉の量が少ないって事か」
「みたいです、部位によって向いている料理があったりとかもあるみたいですね」
「つまりこの肉は焼くのに向くとかこっちの肉は茹でるのに向くとかあるんだ」
「まあ焼き肉は基本的にどの部位でも食べるらしいですが」
「体のどの部分から取れたかで肉の名前が変わるのは少し面倒だなぁ」
「ただ部位によって脂の量などが変わるので、そういう違いから選んだりとかもありますね」
「だから太りにくい部位の肉みたいな感じなんだね」
「ええ、鶏肉なんかは分かりやすくて胸肉はダイエット食に向くみたいな話ですね」
「なるほど、そういうのは興味深いな」
「ただ部位によって値段は変わってきたりするみたいですね」
「目的に応じて食べる肉の部位を選ぶみたいな感じなんだね」
「そんな感じみたいですよ」
「肉によって向いてる料理があったりとか肉って意外と奥が深いんだね」
「肉にも様々という事ですよね」
「料理も勉強だなぁ」
「こっちですよ」
こっちの世界では肉の部位を細かく名前で呼ぶとかはない。
ただ体のどこの肉みたいな分類はあるようではある。
あくまでもカルビやロース、イチボなどのような呼び方がないだけだ。
肉そのものは割と様々な部位が食べられているようである。
ただ鶏肉は最近までは不人気な一方豚は庶民の味方みたいな肉だったとアレッシオは言う。
牛肉は基本的に貴族や王族御用達みたいな肉だったとか。
「でも肉ってそんなにいろんな部分が食べられるものだったんだね」
「希少な部位の肉もあればたくさん取れてそれだけ食べられる肉もあるという事ですよ」
「そういう希少な部位の肉は流石にお店でもそんなに見ないよね」
「そういうのはどうしても値段が高くなってしまいますしね」
「まあそうなんだろうけどね」
「実際希少な部位の肉をお店で出そうとすると銀貨一枚以上にはなるそうです」
「確かにフェアメニューでも高い肉料理ってあまり聞かない部位だもんね」
「だから同じ牛肉でも部位によって値段は結構変わるんですよね」
「肉の勉強には値段から見るのもいいかもね」
「肉に限らずいいものや希少なものは相応に高くなるという事ですね」
「価値はそのまま値段になるって事だね」
「この先です、行きますよ」
そのまま15番街に入っていく。
トーラスさんの家はすぐそこだ。
「ここだね」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせしました」
「はい、先に代金として銅貨一枚と青銅貨二枚いただきます」
「これでお願いします」
「ちょうどいただきます、こちらがご注文のカルビ焼きそばになります」
「ええ、確かに」
「容器は行政区分に従った上で可燃ごみでお願いしますね」
「分かりました」
「ではまたのご利用をお待ちしています、それでは」
「さて、いただくとしますか」
カルビ焼きそば、カルビを一緒に炒めた塩焼きそばだ。
肉は結構入っていて食べごたえもある。
そこにレモンの酸味が加わりその味を引き立てる。
塩焼きそばにレモン汁はアヌークもおすすめする食べ方だ。
塩焼きそばの塩ダレで一緒に炒められたカルビにも塩の味がよく絡む。
焼きそばの塩ダレもアヌークが独自に作ったものである。
「ふむ、これはなかなかに美味しいですね、塩味がまたいい」
「麺もしっかりとしていて、塩味とよく合っている」
「肉も結構入っていて、麺と一緒に食べるとまた美味しさが増す」
「野菜も結構入っているのもまたいいですね、野菜にも甘さがあるのか」
「甘い野菜と塩味のソースの肉、どの食材にもよくマッチしている」
「肉も野菜も麺もどれも美味しくていいものですね」
その頃のアレッシオ達は帰り際に休憩していた。
涼しくなっても麦茶は変わらずに美味しいのだ。
「ふぅ、温かい麦茶もいいね」
「最近は冷え始めてきましたしね」
「冬も近づいてるって事か」
「寒くなったらまた美味しいものも増えますよ」
飲み物を飲んだらそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻りました」
「お帰り、はい、おしぼり」
「ありがとうございます」
「外もすっかり涼しくなっているみたいデスね」
「はい、でもまだ寒いほどじゃないですよ」
「寒くなったら上着も出すからね」
「ここは雪は珍しい土地なので、寒さが凌げれば足りますしね」
「分かりマシタ、ではそれで調整しマス」
この街は内陸なので雪雲などは山を越える事はあまりない。
それもあり雨もそんなに降らない土地だという。
内陸というのは山が壁になるのだから。




