仙草ゼリー

異世界キッチンが開店してからしばらくが経ち、客足も伸び始めた。

そんな中季節限定のメニューなども始めた模様。

客足は食事時には増えるもののそれ以外は少なめだ。

だが仕事の関係上正午頃にやってくる客もある程度はいるようで。

「この辺りかな？噂の食事処というのは」

「何かさっぱりしたものも食べられるとは聞いているんだけど」

「朝に食べ過ぎちゃったからまだお腹空かないんだよね」

「あ、ここかな？入ってみよう」

彼の名はアレン、国の政治家で書記長をしているエリートだ。

そんな彼は空腹ではないようで、デザートでも食べに来たようだが。

「二重扉にベル、衛生的にはいい作りだね」

「中は涼しいな、今は暑いから快適だ、それに音楽も流れてて機械も豊富にある」

「これはどういう仕組みなんだろうか、隣国の技術にしては進んでいる気もする」

「それについても少し気になるね」

「いらっしゃいませ！何名様ですか！」

「えっと、一人だけど」

「かしこまりました、おタバコはお吸いになりますか」

「パイプかな？いや、吸わないけど」

「かしこまりました、では禁煙席にご案内します」

「給仕かな、いい子だね」

そうして席に通される。

そこで一通りの説明を受ける。

政治家という事もあり機械の扱いなども特に問題ないようだ。

説明を終え由菜は奥に下がっていく。

「そういえば自分で取りに行くのか、取りに行かないと」

「ここにグラスを押し当てて…これだけで飲み水が出るなんて凄いな」

「あと氷ももらおうかな、こんなにたくさんの氷を用意出来るなんてどういう仕組みなのか」

「さて、何を食べるか決めないとね」

「甘いもの…というかそういうものが食べたいんだった」

「メニューを見る限りではなんでもあるな、コメに野菜、肉に魚に麺に甘味…」

「そうそう、目的は甘味だ、でもせっかくだから少し変わったものを選びたいね」

「どれも美味しそうだけど、そうだな…ん？これは…うん、これにしようか」

「確かこのベルで呼ぶんだったね」

そうしてベルを鳴らして由菜を呼ぶ。

少しして由菜が奥から出てくる。

「お待たせしました！ご注文はお決まりですか！」

「ああ、これを二つ頼む、あとセットドリンクというのも」

「仙草ゼリーを二つとドリンクバーですね」

「センソウ？物騒な名前なんだね」

「いえ、仙草というのはウォーではなく仙人、要するに賢者の草という意味ですよ」

「へぇ、そんな草があるのか、でもそれがこの値段でいいのかな」

「デザートですからね、それにゼリーならこの価格で問題ないです」

「なら問題ないね」

「はい、ではオーダーを復唱させていただきますね」

「仙草ゼリーを二つとドリンクバーです！」

「オーダー！仙草ゼリーを二つとドリンクバーです！」

「喜んで！」

「それでは少々お待ちくださいね」

「料理人は奥にいるのか、さて、飲み物を取りに行こうか」

そんなわけでドリンクバーに飲み物を取りに行く。

ちなみにアレンは甘党であり、特にプリンやゼリーのようなものが好みだ。

この世界ではそういうものは少しお高いのだが、そこはお金持ちである。

そんなアレンが選んだのはレモンスカッシュだった。

「炭酸水みたいだね、果実の酸っぱい匂いがする」

「でも甘い匂いもするね、炭酸水は意外と庶民的な飲み物だけど僕は好きなんだ」

「うん、美味しいね、果実の酸っぱさと甘さがいい感じだ」

「炭酸水はたまに飲みたくなるから困るんだよね」

そうしているうちに由菜が仙草ゼリーを運んでくる。

それは見た目は黒い寒天だが、それが仙草ゼリーだ。

「お待たせしました！仙草ゼリーを二つです！」

「これが仙草ゼリーなのか、黒いな」

「これは煮込んだものを使って作っていますから」

「なるほど、でも甘い匂いがして美味しそうだ」

「ではこちらは伝票です、支払いの時にお持ちください」

「分かった、ありがとう」

「では失礼します」

「あ、すまない、失礼だけど持ち帰りも頼んでいいかな」

「持ち帰りですか？構いませんよ」

「すまないね、えっと、これを三つ持ち帰りで頼む」

「かしこまりました、ベイクドチーズケーキを三つ持ち帰りですね」

「ではそちらはお帰りの際にお渡しします、追加の伝票を今お持ちしますので」

「すまないね」

そうして由菜が持ち帰りのベイクドチーズケーキの伝票を持ってくる。

その上で改めて仙草ゼリーを食す事に。

「これが仙草ゼリー、うん甘くて美味しいね」

「見た目は黒いのにとても甘い、不思議な味だ」

「でもさっぱりしてて簡単に入るね」

「それに体の中から涼しくなる感じだ、これは今の季節にはいいな」

仙草ゼリーとは中国が原産の仙草というそのままの名前の草を使って作るゼリーだ。

煮詰めて作ると黒くなり干したものを使うと緑になる。

仙草ゼリーは清涼感があり夏に食べる事もよくあるらしい。

食べ方は国によって多少は異なるようだ。

台湾では甘いシロップやアイスなんかと一緒に食べたりする。

ところてんのようにして食べたりもするそうだ。

また仙草を使った清涼飲料水もあるようで、それは仙草蜜などと呼ばれている。

なお台湾には仙草と鶏肉を煮込んだ仙草鶏なんて料理もあったりする。

仙草は涼が取れる事から夏には最適な食べ物なのだ。

そんな仙草ゼリーは夏にピッタリの清涼デザートである。

「うん、美味しい、これはさっぱりしてて涼が取れるいいものだ」

「でも名前が大層なものだな、賢者の草とは」

「それは名前だけで高価そうなのに、この値段だ」

「どんなからくりなんだろうか」

「それとも名前の割に安いという事なのかな」

「うーん、世の中は分からない事も多いな」

「でも美味しいならいいかな」

「実に美味しいこのゼリーを味合わないとね」

そうしているうちに二つの仙草ゼリーを綺麗に平らげてしまう。

レモンスカッシュで喉も潤して支払いにいく事に。

「すまない、支払いを頼みたいんだが」

「はい、えっと、仙草ゼリー二つと持ち帰りのベイクドチーズケーキ三つ、ドリンクバーですね」

「全部で銀貨一枚と銅貨六枚になります」

「ではこれで頼む」

「銀貨二枚いただきます、お釣りの銅貨四枚になります」

「ありがとう」

「満足していただけマシタカ」

「あなたがシェフですか」

「ハイ、シェフ兼オーナーのアヌークといいマス」

「とても美味しかったですよ、ここはいいお店ですね」

「食材のこだわりとかもありマスカラ」

「なるほど、どうりで美味しいわけですね」

「ハイ、いろんなお客様に満足していただけるように心がけていマス」

「それであんなにメニューを用意しているんですね」

「ハイ、作れるものは全部メニューに採用していマス」

「あのメニューを全て作れるというのですか」

「一応プロデスカラ」

「それは凄いな、貴族の雇っている料理人でもそれは無理だ」

「料理とは国の数だけなのデスヨ」

「ほう、言いますね」

「それはそうと持ち帰りのベイクドチーズケーキデス」

「すまないね」

「あまり日持ちしないので早めに食べてクダサイね」

「分かった、ではそうさせてもらうよ」

「それとリピートも期待していマスね」

「ああ、また来るよ」

「ついでに知り合いなんかにも宣伝してくれると助かりマス」

「ははっ、ならしておくよ、それじゃ私は仕事に戻るよ、美味しかったよ」

「それなりにいい身分みたいだね」

「そういう人も来てくるのはいい事デスヨ」

「そうだね、美味しいってそういう事だもん」

こうしてアレンは仙草ゼリーに満足した様子。

ちなみに仙草ゼリーは夏の限定メニューである。

涼が取れる仙草ゼリーは夏には最適なのですよ。