煉獄のたまご
夏のフェアメニューも順調に売れている異世界キッチン。
それと同時にはじめたかき氷も想定以上に売れている。
また夜の時間にちょい飲みで入る客も最近は増えている。
そんなちょい飲みでも結構な利益になるらしいとアヌークは言う。
「さて、今日も楽しみな仕事終わりの一人飲みですね」
「あの店を教えていただいた友人には感謝せねば」
「一人で気楽に飲める店というのは実にありがたい」
「ではいざ行きますか」
彼の名はオルトラン、国の政治に携わる政治家だ。
友人に誘われて来店してから気に入ったようで、たまに一人飲みに来ている様子。
「この扉のシステムは国でも採用したいものですね」
「夜はやはり仕事終わりの客などが多い、この雰囲気がいいんです」
「いらっしゃいませ!何名様ですか!」
「一人ですよ」
「かしこまりました、おタバコはお吸いになられますか」
「吸いませんよ」
「かしこまりました、では禁煙席にご案内しますね」
そうして席に案内される。
説明は過去に受けているので話は早い。
説明は簡潔かつ省略して受ける。
タブレットの使い方も覚えているようだ。
「では使い方などは大体は分かっていますね」
「はい、問題ありませんよ」
「かしこまりました、では何かあればお呼びくださいね」
「さて、先に水を取りに行きますか」
そうして由菜は一旦下がり別の料理を運びに行く。
オルトランは先に水を取りに行く事に。
「それにしてもここは飲み水も美味しいというのは素晴らしいですね」
「氷と手拭き、しかし使い捨てというのは衛生的にはいいのかもしれない」
「さて、注文ですね、お酒と肴、さて、何にしますか」
「お酒はボトルの葡萄酒、あとは…肴はこれとこれ、む?これは新しいメニューですか」
「煉獄のたまご…また大層な名前ですね、これも頼んでみますか、確定っと」
「料理の名前が風変わりなものがあるのは面白いですね」
そうしていると先にワインが運ばれてくる。
オルトランはワインは白が好みのようである。
「お待たせしました、先に白ワインのボトルになります」
「ありがとうございます」
「おつまみはもう少々お待ちください、それでは」
「さて、では飲むとしますか」
そうして先にワインを飲み始める。
オルトランは辛口の白ワインが気に入ったようで、酒はこれに限るとか。
「ふぅ、やはり葡萄酒は白が一番ですね」
「辛口というのは強いお酒の事を言うと聞きますが、これぐらいが一番です」
「ふぅ、落ち着く味ですね」
そうしているとおつまみが運ばれてくる。
今回頼んだおつまみは三点ほど。
「お待たせしました、フライドポテトとほうれん草のソテーと煉獄のたまごになります」
「ありがとうございます」
「こちらは伝票です、会計の際にお持ちください、それでは」
「さて、ではいただきますか」
そうしておつまみにも手を付けつつワインを飲む。
この一人飲みがオルトランの最近の楽しみになっているのである。
「このフライドポテトは安くて美味しいからいいですね、量もありますし」
「芋をシンプルに油で揚げたものがこうも美味しいのは素晴らしい」
「ほうれん草のソテーもバターの味が染みていて実に美味しい」
「酒の肴は安いのが実に素晴らしい限りですよ」
「そしてこれが例の煉獄のたまごですか」
「見た感じはトマトソースと茹でた玉子みたいですね」
「とりあえず食べてみますか」
煉獄のたまご、イタリアに実際に存在する家庭料理だ。
名前は物騒な感じもするが煉獄という言葉はカトリック由来らしい。
天国と地獄の間にある魂を炎で浄化する場所を煉獄と言うとのこと。
トマトソースをそんな煉獄の炎に見立てているのがこの煉獄のたまごだ。
家庭料理という事もありシンプルなのがまたいい。
玉子は半熟卵なのでそれを割ってトマトソースと混ぜるのがまた美味しい。
パンも付いていてそれでディップして食べるのがこの料理だ。
パンにトマトソースと玉子が染み込みとてもいい味になる。
大人も子供も好きな味がこの料理のキャッチコピーだ。
実際メニューに追加してから子連れ客によく頼まれるらしい。
「ん、これは確かに美味しいですね、卵がとろりとしていて実に美味しい」
「トマトソースもまろやかでとても食べやすい」
「パンをソースにつけて食べるみたいですが、そうして食べるとパンが美味しいですね」
「それにしても半熟卵というのは卵が新鮮だから食べられる食べ方ですね」
「ここは生卵も食べるらしいですが、勇気が出ませんよ」
「生卵というのは卵が新鮮でなくては食べられないのが確定ですよ」
「国の衛生管理局が入らないのは生卵で食中毒が出てないからでしょうし」
「生でも半熟でも完全に火の通っていない卵、美味しいんですけどね、半熟は」
そうしているうちに肴を完食し酒も綺麗に飲み干す。
そのまま会計を済ませる事に。
「支払いをお願いします」
「はい、白ワインのボトルとフライドポテトとほうれん草のソテーと煉獄のたまごですね」
「全部で銀貨二枚になります」
「これで」
「ちょうどいただきます」
「最近はよく来てくれていマスね」
「これはオーナー、ええ、すっかり気に入りまして」
「お酒もボトルで頼んでくれるので上客デスね」
「酒の肴も美味しいので酒が進むというものですよ」
「それは何よりデス」
「そういえばここで提供している生卵は本当に食べられるものなんですね」
「生卵は本当に綺麗に殺菌しないと食べられないものなのデスよ」
「つまりそれだけ綺麗にしている卵を使っているんですね」
「ハイ、生卵を食べられる文化の国の卵を仕入れていマスから」
「ならいいんですが」
「仮にも飲食店デスから、衛生面は徹底していマスよ」
「おっと、では今日はそろそろ、また食べに来ますね」
「夜のお客は上客だよね」
「客層も昼間とは変わりマスからね」
そうしてオルトランは満足そうに帰っていった。
酒を目当てに来る客は上客である。
ちょい飲みから肴もしっかり頼んでくれてこそだ。




