牛乳寒天
春のフェアメニューも順調に売れている異世界キッチン。
宅配とテイクアウトも順調に売れていて、それにより売上はさらに伸びている。
そんな中イクスラが開店前にアヌークに少し相談があるとのこと。
どうやら料理の事らしいのだが。
「アヌーク様、少しよろしいでしょうか」
「ハイ、なんでショウ」
「実は少しご相談がありまして」
「相談?力になれるのならお聞きしマスよ」
イクスラがアヌークに相談したい事。
それは近いうちに複数の国による会談があるので、それに出せるものについてらしい。
「近々国同士の会談がありまして、そこで出せる食べ物で何かいいものはないかと」
「会談デスか、変な料理を出すわけにもいかないデスよね」
「はい、ここだと珍しい料理も多いので何かいいものはないかと思いまして」
「ふむ、そういえばこちらの世界にはゼリーなんかはありマシタよね?」
「ゼリーですか?ありますが、まさかゼリーを出すというのですか?」
「いえ、つまりこちらには寒天かゼラチンが存在しているという事になりマスよね」
「ゼリーを固めるのに使う草の事で合っていますか?」
「それデスね、別にゼリーを出すとは言っていマセンよ」
「おはよう、あれ?何か相談?」
「ああ、美紗子サン、おはようございマス」
「何か相談でもしてた?」
「今度の会談で出せそうな料理について相談していました」
そこに美紗子が出勤してくる。
イクスラの相談は会談で出せそうな料理。
あまりお腹に溜まらないようなものの方がこの場合はいいとアヌークは考える。
そこで寒天を使ったものを閃いたようだが。
「とりあえず牛乳寒天でも作ってみるのがいいと思いマスよ」
「牛乳寒天?牛のミルクの事ですよね?」
「会談で牛乳寒天ってそれでいいのかな」
「こちらはゼリーなんかは一般的なら牛乳寒天は珍しいのではと思いマシテ」
「確かにミルクは飲むものですし、そこまで日持ちもしないので…」
「でも杏仁豆腐とかが割と珍しがられるから、それはそれでありなのかな」
「果物なんかは普通に手に入りマスよね?」
「はい、それは特に問題なく」
「なら牛乳寒天は珍しいと思いマスよ」
「確かにプリンなんかも割と珍しいみたいな反応をするお客は多いよね」
「そうですね、ミルクを使ったデザートはなくはないですが珍しいと思います」
「牛乳寒天はたぶん珍しいと思うので、出してみる価値はあると思いマス」
「だとしたら鮮度のいいミルクが必要ですね、それは当日に用意しますか」
「冷蔵庫に賄い用に作ったものがあるので、試食してみマス?」
「そうですね、ならいただいてみます」
「今出してくるね」
牛乳寒天、名前の通り牛乳を寒天で固めたゼリーのような食感のそれ。
黄桃などの果物を細かくして混ぜ込むとそれがまた美味しい。
ゼリーのようではあるが牛乳を固めたものなので、また違う味わいがある。
要するに牛乳ゼリーみたいな感じなのだが、あくまでも牛乳寒天と呼ぶ。
割と安価に作れて風邪の時などにも食べやすいものでもある。
こちらの世界ではゼリーなどはあるが牛乳を使ったデザートは珍しいとの事のようだ。
「はい、これでいいんだよね」
「これが牛乳寒天ですか」
「ハイ、とりあえず食べてみてクダサイ」
「…ふむ、確かに牛乳とは思えない感じの味はしますね」
「ちょっと、イクスラだけ何食べてるのよ」
「あ、エト」
「すみません、姫様、実はかくかくしかじかなので」
「なるほどねぇ、会談で出せそうな料理で牛乳寒天を試食してたってわけね」
「こちらだと牛乳を使ったデザートは珍しいのデスか?」
「うーん、焼き菓子なんかに使うのは普通だけど、ミルクプリンとかは珍しいわよ」
「生洋菓子みたいなものが珍しいのかな」
こちらの世界では冷蔵庫などはあるが、生菓子のようなものは珍しい。
それは保存の問題から、食中毒による揉め事などもあるからだ。
それもあり家庭で作る事はあっても店ではあまり売らないのだと。
ただプリンなどはこっちでは外国の食べ物らしい。
「こっちだとプリンとかは外国の食べ物で、この国にはあまり入ってこないわよ」
「そうなんだ、そういうものなんだね」
「ふむ、とりあえずこれなら作れそうなのでこれを作って出してみるとします」
「分かりマシタ」
「でも牛乳寒天なんてここでは珍しくもないのにね」
「牛乳を使った生菓子みたいなものは珍しいですからね」
「こっちにもお菓子の事情ってあるんだね」
「お腹壊してお店と揉め事になったりしても困るもの」
「食中毒というものはまだ一般的ではないのデスね」
「流石に腐った食べ物を食べればそれのせいではと医者も疑いますが」
「アレッシオが言うには家で作ったりはするみたいだけど」
「なんにせよ牛乳寒天なら珍しさはあると思います」
「各国の王様達も珍しいと思うでしょうしね」
そんな感じで牛乳寒天が会談で出される事になった。
エトからの事後報告では思っている以上に好評だったとのこと。
ゼリーなどはあるがプリンなどはまだ外国のお菓子なのだというのも不思議ではあった。




