明太子スパゲティ
春のフェアに切り替わる日が近づく異世界キッチン。
それもあり冬のフェアメニューの注文が増えている様子。
宅配もフェアメニューの注文が多く出つつも定番メニューもきちんと売れている。
フェアメニューは期間限定だからいいのである。
「今回の届け先ってどこなのよ」
「21番街のドーンさんの家ですね」
「21番街って結構遠いわね」
「王都全体をカバーしてるだけはありますよ、行きましょう」
今回の届け先は21番街。
店からは少し遠いものの、それも商売である。
「それで今回の注文ってなんなの」
「明太子スパゲティですね」
「明太子って確か魚の卵よね」
「みたいですね、たらこを辛く味付けしたものが明太子ですよ」
「魚の卵を食べようなんてアヌークの国の人って不思議なのね」
「そこは他にも興味深い食べ物は多いですからなんとも」
「でも食べてみると美味しいものも多いし、意外と美食の国なのかしら」
「変わった料理が多いというのは事実ですけどね」
「魚は嫌いじゃないんだけど、骨を取ってあるものじゃないとね」
「そこは魚の難しさだと思いますよ」
「魚は美味しいと思うけど、食べるのが面倒なのよね」
「ただたらこというのはそれこそ魚の卵としてはポピュラーらしいですよ」
「たらこって名前の通りたらっていう魚の卵なのよね」
「はい、それをおにぎりの具にしたりもするらしいですね」
「まあ美味しいからいいんだけど、まさかって感じの食べ物でもあるわよね」
「なんにしても内陸のこの国で魚が食べられるのは素晴らしいわよ」
「どこから仕入れているのかは分かりませんけどね」
「お父様も昔食べた魚の美味しさが忘れられないって言ってたわね」
「国王様って魚が好きなんですか?」
「もちろん王様になる前の話だけどね」
「なるほど」
「そろそろよね、行くわよ」
「はい、早く終わらせちゃいましょう」
ここは内陸の国なので魚は干物などしか食べられない。
基本的に生の魚を食べるのは難しい土地でもある。
それもあり食べられる魚は基本的に加工されたものがメインになる。
だからこそ海の方に言った時に魚を食べるとその味が忘れられない人もいる。
エトが言うには国王も昔食べた魚の美味しさが忘れられないという。
それだけこの国では魚は貴重なのだ。
「それにしても宅配も便利なサービスよねぇ」
「家まで届けるというのは一応そういうサービスはあるんですけどね」
「でもそういうのって基本的に出来合いのものでしょ」
「レストランが宅配をするというのはまずないですからね」
「お弁当屋なんかも珍しい商売だものね」
「出来たものを売るとなると売れなかったら廃棄しなきゃいけないし」
「だからお弁当屋なんかも注文を受けてから作るのが多いものね」
「ええ、基本的にそういうお店は注文を受けてから作るらしいです」
「食べ物を無駄にするっていうのもあるものね」
「お弁当屋というのは難しいものですね」
「この先ね、行くわよ」
「早く届けてしまいますか」
そのまま21番街に入っていく。
広い王都で遠くまで届けるのも宅配である。
「ここね」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせしました」
「はい、では先に代金として青銅貨四枚いただきます」
「これでお願いします」
「銅貨一枚ですね、お釣りの青銅貨一枚になります」
「はい、確かに」
「こちらがご注文の明太子スパゲティになります」
「はい、確かに」
「容器は行政区分に従った上での可燃ごみでお願いします」
「分かりました」
「では失礼します」
「またのご利用をお待ちしています」
「さて、いただきますか」
明太子スパゲティ、シンプルで定番のスパゲティだ。
定番メニューでも値段も比較的リーズナブルなものになる。
ただそれでも使っている明太子はそれなりにいいものでもある。
それを可能な限りの値段で提供するのもサービスである。
アヌークもそうした値段設定は可能な限りの設定をしている。
高くなりすぎず安くなりすぎずの間が難しいらしい。
「ふむ、これはなかなか美味しいですね、少し辛いのがまたいい」
「明太子というのは海の幸のようですが、ここは内陸ですね」
「どこから仕入れているかは気になりますが、美味しいならいいですか」
「麺もいい感じにぷりぷりしていて美味しいですしね」
「リーズナブルで持ってきてくれるというのは素晴らしいサービスです」
「明太子、これはなかなかいいものですね」
その頃のエト達は帰りの途中で休憩していた。
最近は暖かくなりつつあるので、防寒も必要ない時もある。
「ふぅ、落ち着くわね」
「そうですね、最近は暖かくなってきてますし」
「もうすぐ春なのね」
「ですね、また季節が巡るという事です」
休憩を終えたらそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻ったわよ」
「お帰り、はい、おしぼり」
「どうもありがとうございます」
「宅配も順調に売れているようデスね」
「やっぱりレストランが届けてくれるというのは大きいのかしらね」
「それもこっちではいいサービスになってるのかもね」
「宅配はきちんと認知されているみたいですね」
「また注文が入ったら頼みマスね」
お店の味が家でも食べられる。
こっちの世界ではレストランの宅配は珍しいのだとか。
それは敷居の低いお店でもあるという事である。




