鴨南蛮
アヌーク達の世界では年が明け新年になった。
その一方でこっちの世界でも新年を迎えていた様子。
曜日や日数などは当然違うし時間の流れも違う。
今回は店ではなく元日に休みをもらっているエト達の新年の様子。
「イクスラ、出来た」
「はい、出来ましたよ」
「すまないわね、それじゃ運びましょ」
「かしこまりました」
元日は国の行事などもありエトとイクスラは休みをもらっている。
年末年始はそれもあり少しの人数で回し営業時間も短縮している。
「お父様!」
「エトルセシアか、どうしたのかな」
「年越しそばを作ったから一緒に食べて欲しくて」
「年越しそば?」
「お蕎麦っていう麺料理よ、食べ方はいろいろあるけど年が明けてから食べるものらしいの」
「ほう?それは興味深いな、異国の文化というものかな」
「ええ、説はいろいろあってどれが正しいとかはよく分かってないものらしいんだけど」
「つまり起源となるものが複数ある食べ物という事だな、とりあえず食べてみるとするよ」
「こちらが鴨南蛮になります」
「鴨南蛮?」
「鴨という鳥から取ったスープを使ったお蕎麦になります」
「鴨…確か農家などがそれを飼育していると聞いたな」
「とりあえず食べてもらっていいかしら」
「ああ、構わないよ、ではいただくとしよう」
鴨南蛮、カレー南蛮などと同じように南蛮蕎麦の事である。
南蛮とはネギの事を指すと言われるが真偽の程は定かではない。
健康のためにネギをよく食べていた事から何番の名がついたとの説がある。
南蛮とはそれすなわち南蛮人の事でもある。
南蛮人が健康のためにネギをよく食べていた事から南蛮とはネギになったと言われる。
ただしこれはあくまでも一説であり真偽の程は定かではない。
なのでカレー南蛮や鴨南蛮とはネギが入っているから南蛮と名がつく。
ネギが入っていなければただのカレーそばであり鴨そばである。
正しい説は不明だが、ネギが入っているものを南蛮と呼ぶのが定着している。
南蛮とはネギの事、一般的に伝わっている説はそれである。
「ふむ、これは美味しいな、甘めのスープで食べるのか」
「年越しそばにはいろいろ言われているのよね、イクスラ」
「はい、そばの麺は細く長いので寿命を延ばし家運を伸ばすという説があります」
「ほう?まさに縁起物という事なのだな」
「他にもそばは切れやすいので、一年の苦労や厄災を断ち切りさっぱりと新年を迎えるとも」
「あくまでも一説なのだろう?それは」
「はい、俗に言う願掛けというものですね」
「だがそれだけの願いを込めていたというのはそれが今にも伝わる理由だろうな」
「他にも金運を呼ぶとも言われていますね、他には運を呼ぶとも言われるそうです」
「なるほど、しかしこのそばという麺は不思議なものなのだな」
「そうですね、それだけ昔の人は苦労していたのかもしれません」
「だが本当でなかったとしても、本当になったら儲けものだな」
「はい、お父様にも姫の働いている店の料理を食べて欲しかったので」
「お前には苦労をかけているからな、これぐらいの事でも嬉しく思うよ」
「お父様…」
「王位を継がせる事は出来ないだろう、だが外交官としての素質はあると思っている」
「外交官ですか?」
「ああ、もちろんすぐになってくれとは言わない、お前が望むのならの話だ」
「分かりました、その話はいずれまた」
「そうだ、これはまだ残っていたりするかな」
「はい、分けていただいた食材はまだ残っていますが」
「なら執事やメイド達にも振る舞ってやるといい」
「いいのですか?」
「構わんさ、こんな美味しいものを私一人で独り占めするのはもったいないからな」
「かしこまりました、では兵士達の分も含め全員分ご用意いたします」
「うむ、そうしてやってくれ」
「そんなに分けてもらってたのね、もっと少ないかと思ってたわよ」
「こういう事は抜からないものですよ」
「あと妻と息子達にも出してやるといい、それだけ確保したのなら足りるだろう?」
「かしこまりました、調理は他のメイドや執事にも手伝わせて手早く済ませます」
「そばに込められた願い、苦労や厄災を断ち切る、寿命を延ばし家運を伸ばす、か」
「姫様らしいかもしれませんね」
「そうだな、働く事を始めてからはとても楽しそうだ」
「姫は別にここにいるのが嫌とかそういうつもりはないですからね」
「分かっている、イクスラ、エトルセシアをこれからも任せるぞ」
「はい、仰せのままに」
新年の行事などもある中でのエトなりの気遣いなのかもしれない。
とはいえ国王もエトには向いている役職があるとも見ているようだ。
普段は忙しいからこそのしばしの休みを嬉しく思う。
エトも国を想い家族を大切にしているのは確かなのである。




