ブッシュドノエル
アヌーク達の世界ではクリスマスのシーズンだ。
とはいえ異世界キッチンは変わらずに営業している。
年末年始の予定もスタッフと調整して、その上で回していく。
ちなみにこの季節だけの短期間限定でクリスマス関係のメニューも出している。
「もうすっかり冬だね」
「宅配も防寒具を貸してくれるようになりましたし」
「今回の届け先は20番街のアメリアさんの家だっけ」
「はい、少し遠いので足早に行きましょう」
今回の届け先は20番街のアメリアという女性の家。
20番街は貴族も割と住んでいる地域だ。
「そういえば今回頼まれたのってケーキだっけ」
「はい、ブッシュドノエルというケーキですね」
「確かアヌークさん達の国のクリスマスっていう行事のケーキだよね」
「みたいですね、ある宗教の教祖様の生誕祭らしいですよ」
「それを祝う日って事なんだね」
「でも基本的にはそこはそこまで関係ないとも言っていましたね」
「そうなの?」
「あくまでも静かに過ごすような日だとか」
「ふーん、そんなものなんだね」
「そこは国による文化の違いらしいのでそのクリスマスも違うんでしょうね」
「なるほど、国が違えば文化も違ってくるのか」
「あくまでもそういう日を国として受け入れているだけでしかないそうですよ」
「それはそれで悪くないかもね」
「そういえばアレッシオさんって余ったものとかもらって帰ってますよね」
「うん、日持ちしないものとかはもらって帰ってるよ」
「アレッシオさんの家って大家族なんですよね」
「うん、だからケーキとかは喜ばれるよ」
「子供はそういうのが好きですからね」
「好みはあるけど、チョコレート系のケーキが人気なんだよね」
「チョコレートは高級品ですからね、お店だとあんな安く出せるのが凄いですよ」
「国が違えば物の価値も変わるんだろうね、こっちではチョコレートは高級品だから」
「砂糖は今では割と安く手に入りますからね、甘味も安く手に入りますし」
「ピンからキリまでだよね」
「この先が20番街ですね、行きましょう」
こっちの世界でも砂糖は今では割と安く手に入るようになっている。
ただ質が値段によって変わるのは言うまでもない。
とはいえ平民でも砂糖が手に入りお菓子を作れたりするのは嬉しいものだ。
デザート系もケーキ類などは小麦が行き渡るので平民でも作るのは簡単だ。
その一方でチョコレートは原料のカカオを手に入るのが難しいため高級品らしい。
こっちの世界でのカカオの原産地はそれこそ遠くにある熱帯の国だかららしい。
「それにしてもケーキの宅配までやってくれるのは嬉しいよね」
「デザート類はアイス系以外は宅配開始当初からメニューにありましたね」
「アイスは流石に溶けちゃうもんね」
「ええ、なのでアイス類の宅配は溶けないようにしないと駄目だとか」
「そんな事が出来るの?」
「ドライアイスという冷却材のようなものを使うと聞きました」
「ドライアイス?」
「素手では絶対に触ってはいけないものなので、取り扱い注意らしいですよ」
「そんな危険なものを使って冷やすのか」
「アヌークさん達の国ではアイスなんかをテイクアウトする時によく使うそうですね」
「危険だけど便利でもある、か」
「この先みたいですね、行きましょう」
アイス類の宅配に慎重になっている理由もドライアイスの問題がある。
下手に客に怪我でもさせようものなら、という事もある。
こっちの世界にはドライアイスなんてものは当然ない。
だからこそアイス類の宅配に慎重になっているのだ。
「ここだね」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はーい!」
「お待たせしました」
「はい、まず先に代金として銀貨一枚いただきます」
「これでいいかしら」
「はい、ではこちらがご注文のブッシュドノエルになります」
「ええ、ありがとう」
「容器は行政区分に従った上で可燃ごみでお願いします」
「分かったわ」
「ではまたのご利用をお待ちしています、それでは失礼します」
「そろそろあの子が来る時間ね、楽しみだわ」
ブッシュドノエル、クリスマスに食べられる丸太のようなケーキ。
横に長いケーキでマルタのようにデコレートされたケーキだ。
ブッシュドノエルはクリスマス特有のケーキで、普段はそこまで見ないもの。
キッチンハウスでもクリスマスの期間限定として出している。
テイクアウトと宅配でのみ発売するメニューもアヌークは考えている様子。
このブッシュドノエルはそんなテイクアウトと宅配限定のメニューの一つだ。
「ばーば!」
「あら、いらっしゃい、待ってたわよ」
「今年もお世話になります」
「この季節はみんなに会えて嬉しいわ」
「年末年始は集まるって決めていますからね」
「今回はいいものを用意したの、みんなで食べましょう」
「すみません、いろいろと」
「うふふ、お婆ちゃんにぐらいいろいろさせてね」
「ありがとう!ばーば!」
「いくつになっても孫は可愛いものね、ふふ」
その頃のアレッシオ達は帰り際に休憩していた。
冬は温かい飲み物をもたせてくれるのもアヌークらしさだ。
「ふぅ、暖まるね」
「この温度の変わらない水筒ってどんな仕組みなんでしょう」
「不思議だけど便利だからいいんじゃない」
「それもそうですね」
そのまま休憩を終えて店に帰還する。
魔法瓶の技術はこっちでも不思議らしい。
「ただいま戻りました」
「お帰り、はい、温かいおしぼり」
「ありがとうございます」
「無事に届けてくれたみたいデスね」
「この期間限定のメニューとかいろいろやってるのも大きいですよね」
「年末年始はイベントも多いからね」
「それについても勉強ですね」
「では休んだら仕事に復帰してクダサイね」
冬は家族で集まるような貴族の人もいるのは変わらない様子。
そんな家だからこそ宅配も役に立つというもの。
貴族にもそんな光と影の歴史があるものなのである。




