焼きおにぎり
冬のフェアも始まり順調に滑り出した異世界キッチン。
また年末年始に向けてスケジュールの調整などもきちんとしている。
冬は主に温かいものがよく出る、冷たいものも割と出る。
宅配の際にも防寒具を用意する事となる。
「すっかり冷えたわね」
「宅配もきちんと上着を用意してくれてますからね」
「今回の届け先にもさっさと行って終わらせましょ」
「ですね、8番街のゲラルトさんの家です、行きましょう」
今回の届け先は8番街のゲラルトという人の家。
サービス業である以上季節で休むなどは出来ないものだ。
「そういえば今回頼まれたものって何かしら」
「焼きおにぎりですね、醤油の方での注文です」
「焼きおにぎりってあれよね、醤油とか味噌を塗ってオーブンで焼いたやつ」
「はい、本当は七輪というもので焼くと美味しいそうですが」
「七輪ってなんなのかしら」
「炭のようなもので魚やきのこなんかも焼ける道具らしいですよ」
「割とシンプルな道具なのね」
「ただお店で出す以上七輪で焼くのは難しいので、オーブンで焼いているとか」
「そういうところは設備的な問題もあって仕方ないのかしらね」
「だと思います、でもオーブンでもそこまで差はなく焼けるそうですよ」
「技術って凄いわね、オーブンなんてこっちだと高級な道具なのに」
「おにぎりは宅配でも人気メニューなんですよね、ライスは珍しいですし」
「東の国で主食にされてるのよね、東の地自体調査がまだ完全じゃないのに」
「でも東の国の人もこの国では見ますし、商人なんかは交易もしてますよ」
「どんな国かはまだ完全には分かってないけど、文化的なものは入ってきてるのよね」
「ええ、それもあっておにぎりはそんな東の国の文化として人気メニューなんです」
「ただ交流自体はされているのなら旅をする文化みたいなのはあるんですよね」
「そうね、東の国の人が暮らしてるのは国でも把握してるし」
「食文化っていうのは何気に興味深いですからね」
「この先が8番街ね、行くわよ」
「はい、早く届けてしまいましょう」
そのまま8番街に入っていく。
東の国は人や物の交流はすでに行われているとの事。
その一方で調査は完全には出来ておらず未知の部分も多いとか。
なので東の国から来た人は好奇の目で見られる事もあるそうな。
だがそんな中でもこの国に順応しているとエトは言う。
別に追い出したり差別したりする理由もないと国民も思っているのだろう。
「でも東の国って魚を生で食べるんでしょ?」
「アヌークさんはそう言っていましたね、海産物なら大体は食べるとか」
「国の調査団の話だと島国って聞いてるから、魚を食べる文化なのかしら」
「だと思います、海に囲まれた国ですから動物を狩るより魚を捕るのだとか」
「そういうところが文化的な違いなのかしらね」
「ライスが主食なのは水が豊かな地だかららしいです」
「つまり麦を育てるよりお米を育てるのに適してるって事なのね」
「はい、東の国の食文化はそういう水に関係している部分が大きいとか」
「なるほどねぇ、島国で海に囲まれてて陸でも水が豊かだからって理由なのね」
「なので東の国は水の国とも言われてるらしいです」
「文化って難しいわ、でも勉強するのは楽しいわね」
「そろそろですね、早く届けてしまいましょう」
国の調査団の報告はエトも聞いている。
東の国は水が豊かな国であり島国である。
魚やお米の食文化はそういったところに起因しているとも。
パンが主食のこっち側の国とはまた異なる食文化なのだ。
「ここですね」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせしました」
「はい、とりあえず先に代金として銅貨一枚いただきます」
「これでよろしいですね」
「はい、ではこちらがご注文の焼きおにぎりになります」
「ありがとうございます」
「容器は行政区分に従った上での可燃ごみでお願いします」
「分かりました」
「ではまたのご利用をお待ちしています、それでは失礼します」
「さて、では早速いただきますか」
焼きおにぎり、店では醤油と味噌を選ぶ事が出来る。
また七輪で焼くのは難しいので、基本オーブンで焼いている。
使っている米も焼きおにぎりに適した米を専属の取引先から仕入れている。
そういった取引先を確保するのが安定供給の確保でもある。
そういったところも抜かりなく確保するのがアヌークだ。
おにぎり一つでも米や海苔からこだわるのである。
「ん、これは美味しいですね、ライスがモチモチでとてもいい」
「整形したライスに味をつけて焼く、なるほど」
「ライスの文化には興味がありましたが、これはいい」
「自分で作るとなると難しいですからね」
「こうして手軽にライスが食べられるのはいいものです」
その頃のエト達は帰り際に休憩をしていた。
冬でも帰りにはきちんと休ませるのがアヌークの方針だ。
「ふぅ、落ち着くわね」
「冬なので温かい飲み物を持たせてくれるのは助かります」
「この保温の水筒ってどういう仕組みなのかしら」
「世の中には便利なものがありますね」
休憩を終えてそのまま帰路につく。
帰ったらまた仕事である。
「ただいま戻ったわよ」
「お帰り、はい、おしぼり」
「どうも」
「宅配は冬には増えそうデスね」
「寒いのは嫌だけど、きちんと働くから安心しなさい」
「うん、期待してるからね」
「はい、お任せください」
「では休んだらまた頼みマスね」
冬は家にこもりたい人も増える季節。
それもあり宅配の需要も増えそうな季節。
アヌークも見積もりはきちんとしているようである。




