135/402

手羽先

秋のフェアメニューも順調に売れている異世界キッチン。

その一方で定番メニューも着実に売れている。

さらに宅配やテイクアウトもそれなりに出るので売上は増えている。

夜にはお酒を飲みに来てくる客も増えてくる。

「この辺りか、噂の料理屋ってのは」

「なんでも安い値段で酒が飲めて肴もあるらしいな」

「それならぜひともって感じだ」

「お、ここか、よし、行くか」

彼の名はパリス、主に山のものを扱う商会に所属する商人だ。

仕事終わりに同僚から聞いた話を思い出してやってきたらしい。

「防犯はされてるんだな」

「中は暖かいな、最近は冷え始めたから嬉しいぜ」

「いらっしゃいませ！何名様ですか！」

「おう、一人だ」

「かしこまりました、おタバコはお吸いになられますか」

「いや、吸わないぜ」

「かしこまりました、では禁煙席にご案内しますね」

「こんな時間なのに若い店員が働いてるんだな」

そうして席に案内される。

そこで一通りの説明を受ける。

説明は問題なく理解した模様。

続いてタブレットの説明に移る。

「タブレットの説明をしますね、まず画面にタッチしてください」

「こうか？」

「はい、続いて食べたい料理をタッチします」

「こうだな」

「選択の際はこうしてスライドさせます」

「こうだな」

「それでよろしければここをタッチ、そして確定をタッチして注文完了です」

「分かった」

「一旦リセットして…では説明は以上になります、それでは」

そうして由菜は一旦下がり別の料理を運びに行く。

パリスはとりあえず水を取りに行く事に。

「さて、水はセルフって言ってたな」

「ここにコップを当てて…それにしても知らないキカイだらけだな」

「あとは氷と手拭き、しかしこんなに用意してそれも使い捨てとか凄いもんだ」

「さて、酒と簡単な肴だな、ふむ何にするか」

「酒と酒の肴…お、これなんかよさそうだな、これとこれとこれで確定っと」

「にしても便利なキカイだな、こいつは」

そうしていると先に瓶ビールが運ばれてくる。

ちなみに生ビールと瓶ビールは大きな違いはなく、瓶の方が実はお得なのだ。

「お待たせしました、先に瓶ビールになります」

「おう、サンキュ」

「料理はもう少々お待ちください、それでは」

「先に少し飲んで待つかな」

瓶ビールと生ビールは実は同じものである。

しかも実は瓶ビールの方が量と値段的にお得だったりするのは意外と知られていない。

「ん、こいつは美味いな、ラガーってのはこんな美味いのか」

「普段はエールばっか飲んでるけど、ラガーも悪くないもんだな」

そうしていると料理が運ばれてくる。

手羽先とよだれ鶏、どっちも酒の肴には最適な鶏肉料理だ。

「お待たせしました、手羽先とよだれ鶏になります」

「おう、サンキュ」

「手羽先の食べ方についてはこちらを、この通りに食べると綺麗に食べられます」

「ああ、すまない」

「こちらは伝票です、会計の際にお持ちください、それでは」

「さて、食うか」

手羽先、名古屋ではポピュラーな骨付きチキンである。

ただ綺麗に食べるのが意外と難しいニクい奴でもある。

そんな手羽先にも綺麗に食べる方法はきちんと存在する。

この店では手羽先の綺麗な食べ方を書いた紙を印刷して用意してある。

手羽先を頼んだ客にはそれも提供して綺麗に食べて欲しいのである。

そんなアヌークもはじめて食べた時は手羽先には苦戦したという。

だからこそ今は美味しく食べられる事も勉強だったと言っている。

ちなみに手羽先の味付けはアヌークの独自配合の秘伝のスパイスを使っている。

なのでその独自配合の味はアヌークが独自に生み出した秘伝の味だ。

スパイスの配合もアヌークはきちんとしているのである。

「ん、このよだれ鶏ってのは美味いな、ピリッした辛さが酒に合う」

「名前はともかく、酒の肴としては普通に美味いもんだな」

「この手羽先ってのは、ここをまずへし折って切り離す…」

「んで折った方から咥えて下に引くようにして食う…」

「お、本当に綺麗に食えたな、少し面倒ではあるが味は確かに美味い」

「手羽先は少し面倒だとは思っちまうが酒の肴としてはいい美味さだ」

「これが安く食えて酒も安いなんていい店だ」

そうしているうちに手羽先とよだれ鶏を完食する。

お酒も飲み干し会計を済ませる事に。

「支払いを頼む」

「はい、手羽先とよだれ鶏と瓶ビールですね」

「全部で銅貨一枚と青銅貨三枚になります」

「こいつで頼む」

「銀貨一枚いただきます、お釣りの青銅貨二枚になります」

「おう、確かに」

「満足していただけマシタか」

「あんたが料理人か」

「ハイ、シェフ兼オーナーのアヌークといいマス」

「美味かったぜ、酒も肴もあんな安くていいのかと思ったぜ」

「ああいうのは量がそこまで多くないからこその値段設定デスね」

「なるほど、まあ量と値段は比例するってのは当たり前だもんな」

「ハイ、量が多かったり具が多い料理はそれだけ高いものデスよ」

「だから酒の肴はそんなに量が多くないからこそあの値段に出来るか」

「そういう事デスね」

「そういやあの手羽先ってやつは美味いんだが、食べ方が少し面倒だな」

「元々郷土料理に近いというか、地域独特な感じのあるものデスからね」

「つまり世界でみんなが食べてるような料理でもないって事か」

「ハイ、そんな感じデス」

「おっと、そろそろ家に帰らないとな、んじゃまた食べに来るぜ」

「夜はお酒メインで来るお客も増えたよね」

「やはり仕事終わりのお酒は美味しいものなのデスよ」

そうしてパリスは満足そうに帰っていった。

夜はお酒を求めてくるお客も増えたようではある。

手羽先に苦戦するのは初見あるあるのような気がする。