とんかつ弁当
秋のフェアも順調に売れている異世界キッチン。
フェアメニューは季節ごと、つまり三ヶ月ごとに入れ替わる。
宅配にも対応させているので、そちらも合わせて更新される。
対応メニューは今後も順次増えていく予定らしい。
「今回の届け先ってどこかしら」
「えっと、11番街のタニスさんの家ですね」
「11番街ね、ならさっさと行きましょう」
「ああいうところはお姫様なんですよね」
今回の届け先は11番街。
一応街全体にチラシは出しているものの、遠くからは意外と来ないらしい。
「そういえば今回の注文ってとんかつ弁当だったかしら」
「はい、そうですよ」
「揚げ物ってこっちでも食べられるけど、店のものみたいにはいかないものなのよね」
「そうなんですか?」
「アヌークが言うには油の質とか種類の問題かもしれないとは言ってたけど」
「でも確かにお店のやつはサクサクに仕上がってますよね」
「そうなのよ、あの味はイクスラでも出せないから、腕じゃないのは確定よね」
「だとしたら言う通り油の質とか種類の問題なんでしょうか」
「一応火の話もしたけど、こっちだとそれは特に問題ないっぽいわ」
「うーん、揚げ物が店のものとこっちのものだと違うというのは」
「まあこっちのが不味いっていう意味じゃないのよ」
「つまり揚げ物の質の違いは油なんでしょうか」
「だと思うわよ、家庭ならともかく城の設備でもそれなんだから」
「なるほど、揚げ物に関しては何かとありそうですね」
「難しい話よねぇ」
「油の質とか種類、ふむ」
エトが言うには店の揚げ物とこっちの揚げ物では明らかに違うという。
別に不味いという事ではないらしいのだが。
それに関しては油の質とか種類の問題ではないかとアヌークは言う。
食材に関してもこっちとは違ったりするので、そこは恐らく関係ないだろう。
上質な油に変えれば美味しくなるか、それとも揚げ物に適した油を探すか。
イクスラもそれをアヌークに相談はしているとのこと。
揚げ物の質の問題は油だと見ているのがアヌークらしい。
エトも揚げ物が割と気に入っているからだろう。
「でも揚げ物に使うのに最適な油ってなんなのかしら」
「お店だとどんな油を使っているんでしたっけ」
「それはよく覚えてないけど、揚げ物に適したものとだけは聞いてるわ」
「それが判明したらこっちでも広めた方がいいんでしょうか」
「別に広めなくてもいいけど、揚げ物にはこの油って知られるのは大切よね」
「揚げ物に適した油、だからこのとんかつみたいにサクサクになるんですよね」
「王族だと肉は基本的に牛なのよね、豚と鶏は世間一般的に平民が食べるものよ」
「でもいいものなら豚でも鶏でも美味しいと思いますよ」
「姫だってそれが偏見だっていう事ぐらい分かってるわよ」
「美味しいですからね、とんかつ」
「チキンカツもね、他の料理も美味しいし姫は豚も鶏も好きよ」
「そういう認識があるっていうだけなんですよね」
「ええ、肉屋でも牛肉だけ豚と鶏より高めの値段だから」
「それもあるからなんでしょうね、大きな差があるわけでもないのに」
「平民だって牛肉ぐらい食べるのにね、困ったものよ」
「エトさんって偏食家だとは思いますけど、好きなものは好きって言いますからね」
そんな肉のイメージもこの世界ではあるのか。
とはいえそれは肉の質の話であり、平民でも牛肉ぐらい食べる。
あくまでも王族は質のいい肉を食べているだけの話。
なのでただの偏見でしかない。
「ここかしら」
「みたいですね、すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「はい!」
「お待たせしました」
「先に代金として銅貨一枚と青銅貨二枚いただきます」
「これでいいですね」
「はい、確かに、ではご注文のとんかつ弁当になります」
「ええ、ありがとう」
「出来るだけ早くに召し上がってくださいね」
「分かりました」
「容器や食器は行政区分に従った上での可燃ごみでお願いします」
「ええ、分かりました」
「ではまたのご利用をお待ちしていますね」
「それでは失礼します」
「さて、それじゃいただこうかしら」
とんかつ弁当、名前の通りとんかつとライスの弁当だ。
他にも少々の漬物と千切りキャベツなどもついている。
あとはとんかつソースやキャベツに使うドレッシングにからしなどがつく。
それらは小袋なので使うかどうかは本人の自由だ。
「うん、美味しそうですね」
「ん、これは美味しいですね、ライスも温かいのが嬉しいです」
「野菜もドレッシングで美味しくいただけるのは嬉しいですね」
「とんかつも当然美味しくて、ソースがあるともっと美味しい」
「からしというのは辛いんですけど、とんかつと相性がいいですね」
「こういう調味料もつけてくれるのは嬉しい限りですよ」
その頃のエト達は少しの休憩をしている。
宅配はしっかりと休憩も大切だ。
「ふぅ、最近はすっかり涼しくなったわね」
「もうすっかり秋ですからね」
「冬になったらまた美味しいものが食べられそう、もちろん秋もね」
「エトさん、意外と食べるようになりましたよね」
「美味しいんだから当然じゃない」
「美味しいから、なるほど」
そのまま店に帰還する。
少々の休憩をして仕事に戻る事に。
「ただいま」
「お帰り、はい、おしぼり」
「どうも」
「宅配の方も順調みたいデスね」
「そうね、街を実際に見られるのはいいものよ」
「お姫様らしいね」
「それじゃ休んだら仕事に戻ってね」
「はい、分かりました」
そうして宅配も着実にその知名度を上げている。
店の味が家でも食べられる事はやはり大きいのだ。
そんな新たな楽しみが国の人達には出来たようだ。




