カレードリア
秋のフェアメニューも順調に売れている異世界キッチン。
その一方で宅配メニューも少しずつ対応するメニューを広げている。
麺類などの汁物にも順次対応させる予定とアヌークは言う。
また最近からグラタンやドリアなどのオーブン料理が対応した模様。
「今回届けるのってどこなの」
「今回は15番街のギブソンさんの家ですね」
「15番街か、ならそんな遠くないかな」
「はい、早く終わらせてしまいますか」
今回の届け先は15番街とのこと。
王都は広いので治安の悪い地域も当然あるのだが。
「そういえばこの街の中でも治安の悪い地域ってあるよね」
「確か29番外と33番街は荒れていると聞きましたね」
「でも思ってるよりは悪いニュースは聞かないよね」
「その二つは経済的にも貧しい地域だとは聞きます、暴力が起こるとかではなく」
「それで治安が悪いか、貧しい人に施しを与えるとかはしないのかな」
「アヌークさんが言うには物やお金を与えても貧困の解決にはならないと言っていましたね」
「なんで?」
「アヌークさんの国で貧しい人に農具を与えたら解体して売り払ったとか」
「そんな事があったんだ、ならどうすればいいのかな」
「結局は物やお金を与えても解決しないんでしょうね」
「うーん、貧困の問題って想像以上に根が深いのかな」
「それなら井戸の掘り方でも教えた方がいい、そう言っていましたね」
「農具を与えたら売り払われた、まそかそんな事をするなんて思わないしね」
「相手がいい人だという前提で行動した結果だとも言っていましたね」
「いい人だという前提で、売るなんて想定してなかったのか」
「そういう事だと思います、アヌークさんの国でさえそれだと根は深いんですよ」
「僕の家はそこまで裕福ではないけど、食べられるだけは稼いでるし」
「お店のお給料が銀貨十枚は普通に高給取りですけどね」
「それを従業員全員にだから、大したものだとは思うけど」
「なんにせよ貧困の解決はどこの国でも難しいという事ですよね」
この王都でも貧民街のような場所は存在する。
それが29番街と33番街らしい。
ただ治安が悪いとは言っても盗みや暴力が行われているというわけではない様子。
貧民街特有の独特な治安という事であり、想像するものとは違う。
俗に言うダウンタウンであり、一部の若者が反貴族のような感じらしい。
それでも国の手は行き届いているそうで、設備の設置や舗装はされているとの事だ。
「そういえば今回の注文ってなんだっけ」
「カレードリアですね、オーブン料理にも対応したみたいですよ」
「オーブンって高熱でじっくりと焼く調理器具だよね」
「はい、家庭用だと主にパンや揚げ物なんかを焼くそうですよ」
「そういえばそういうのってこっちにもあるよね」
「ありますけど高いですね、国の補助で安く買う事は出来ますけど」
「お店のやつだとそれ用だから家庭用に比べると違うのかな」
「そうだとは言ってましたね、業務用と言うらしくお店などで使うものだとか」
「業務用、家庭用と違うって事なんだね」
「この先ですね、さっさと終わらせてしまいましょう」
店で使っているオーブンやレンジは言うまでもなく業務用である。
家庭でもそういうものは入手出来るが電力消費が高いのでおすすめはしないが。
そんなオーブンはこっちの世界にもあるらしいが、高価なものだという。
その一方で電子レンジはまだ存在していないとのこと。
技術という面でもオーブンは可能だが、レンジはまだ難しいのだろう。
だからこそ店の電子レンジに興味を示しているのだ。
「ここみたいだね、すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「ご注文の品をお届けに参りました!」
「はーい!」
「お待たせしました」
「えっと、先にお代の銅貨一枚と青銅貨一枚をいただきます」
「これで」
「確かにいただきました、ではこちらがご注文のカレードリアになります」
「うん、ありがとう」
「容器は行政区分に従った可燃ごみでお願いします」
「分かった」
「ではまたのご利用をお待ちしていますね」
「さて、いただくとしようかな」
カレードリア、カレーの味をつけて焼いたドリアだ。
スパイスの配合はドリア向けに配合したものを使っている。
米はサフランライスであり、チーズともよく合う。
カレーの匂いが食欲をそそる店でも人気の品である。
「うん、これは凄くいい匂いだ」
「ん、美味しいな、チーズをこんなに使ってあるのか」
「下のライスは黄色いって事は味付けしてあるんだね」
「チーズとそれに使ってあるカリーがいい具合に合ってて美味しさが増してる」
「これが家で食べられるなんてお得だね、また頼もうかな」
その頃のソアレ達は店に帰る途中で休んでいた。
夏は過ぎているので水分補給もしっかりとする必要もなくなっているが。
「ふぅ」
「もうすっかり秋ですね」
「お店でも秋のフェアが始まってるもんね」
「季節限定というのは客引きにはいい餌になってますよね」
「商魂逞しい限りだよね、本当に」
「料理というのはそれだけ面白いですよ」
そうして休憩を終えて店に戻る。
あとは次の宅配の注文までは店で働くのである。
「ただいま」
「お帰り、はい、おしぼり」
「どうも」
「宅配にも慣れてきたみたいデスね」
「うん、いつでも行けるよ」
「なら安心かな、休んだら仕事に戻ってね」
「はい」
そうして宅配に対応するメニューは随時増やしていく。
次は汁物系を対応させる予定だ。
そういった事もしっかりする辺りがアヌークらしさである。




