麻婆丼
夏のフェアも終わりが近づく時期になってきた。
予定では来週から秋のフェアに切り替えるとアヌークは言う。
その一方で宅配のメニューからも夏限定が消え秋限定に切り替わる。
季節限定のメニューの関係で店のメニューと宅配のチラシも切り替えるのだ。
「今回届けるのってどこですか」
「21番街のアドネルさんの家ですね」
「21番街、少し遠いね」
「それでも仕事ですから」
この王都はかなり広く、36番街まである一大都市だ。
ちなみに王城は区画で言うところの11番街にあるらしい。
「そう言えば今回の注文って麻婆丼だっけ」
「はい、麻婆豆腐をライスに乗せたものですね」
「麻婆カレーとはどう違うんだろう?」
「アヌークさんが言うには麻婆カレーは麻婆豆腐とカレーのミックスだそうですよ」
「それで麻婆丼は?」
「麻婆丼はシンプルに麻婆豆腐をライスに乗せたものですね」
「でもカレーのトッピングにも豆腐がなかった?」
「アヌークさんが言うには麻婆カレーと豆腐カレーは別物なんだそうです」
「そういうよく分からない違いがあるのが料理の面白さなのかな」
「だと思います、料理をする人には分かる違いなのかもしれませんね」
「僕は料理はしないからよく分からないな」
「私は料理はしますけど、それでもそういう細かい違いはよく分かりません」
「そういえば麻婆豆腐って辛い料理だよね」
「アヌークさんが言うには麻婆豆腐の本場は地域によって味が変わるとか」
「そうなの?だとしたら激辛の味の地域とかそんな感じなのかな」
「みたいです、お店で出しているものも激辛とまろやかなものに分けてるそうです」
「同じ料理なのに地域で味が違う、不思議な話だよね」
「料理の奥深さなのかもしれませんね」
麻婆丼に使っている麻婆豆腐は広東風の麻婆豆腐だ。
店でも広東風の麻婆豆腐は子供にも人気がある料理なのだとか。
四川風の麻婆豆腐はその辛さから激辛マニアなどに大好評らしい。
辛い料理も置いているが、基本的に辛さはそこまで辛くしていないものが多い。
激辛の料理を頼むのは自己責任ですという事も店のルールだ。
なので売上に関しても広東風の方が圧倒的に多く出ている。
激辛料理は激辛料理という個別のジャンルとして扱っている。
間違って頼んでクレームを受けないようにするための措置でもあるのだが。
「でも僕は料理はしないけど、レシピは役に立ってるよ」
「アレッシオさんの家で作ってもらっているんですね」
「うん、他の子達にも人気だからね」
「アレッシオさんの家って大家族でしたよね」
「そうだよ、僕は次男坊だけど」
「次男坊のアレッシオさんは何歳なんですか」
「僕は今年で16だね、長男の兄さんは19だから」
「一番下の子は何歳なんですか?」
「一番下は今年で3歳だね」
「その計算だと相当なペースで産んでる事になるような」
「お父さんも意外とそういうのには積極的なのかなぁともね」
「もしかして子供がどうやって産まれるかご存知ですか」
「知ってるけど、それって知らないものなの?」
「だとしたらアダルトな本とか…」
「それは流石に読んだ事はないかな、でも国の教材でも勉強してるから」
「ああ、そういう」
「国の教材で教える事なんだから知ってて当然だと思ってたけど」
「で、ですよね」
「そろそろ21番街だよ、行こう」
「あ、はい」
そのまま21番街に入っていく。
住所を確認してアドネルさんの家に向かう。
「ここだね、すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「お届けに上がりました!」
「はい!ただいま!」
「お待たせしました」
「まずは先に代金として銅貨一枚と青銅貨一枚をいただきます」
「これでいいですね」
「はい、確かに受け取りました」
「ではこちらがご注文の麻婆丼になります」
「なるべく早く召し上がってくださいね」
「分かった」
「あと器は行政区分に従った上での可燃ごみでお願いします」
「分かった、ありがとう」
「ではまたのご利用をお待ちしています」
「さて、早速いただこうかな」
麻婆丼、麻婆豆腐をライスに乗せた丼もの。
別々で食べるのが面倒な人には人気もある一品だ。
「ん、これは美味しいね、ピリッと辛いんだけど辛さはそんなに強くない」
「だけどライスにソースが染みてて凄く美味しいな」
「これが豆腐っていうやつなんだね、東の国の輸入ショップでは見るけど」
「食べやすくて味も文句なし、このサービスは素晴らしいね」
「ライスと一緒に食べると美味しさも大きく増している、これはいいや」
アレッシオとソアレは店に帰る途中での水分補給をしていた。
夏はまだ完全に終わっていないので、水分補給はしておくに越した事はない。
「ふぅ、落ち着くね」
「そういえば来週から秋のフェアが始まるって言ってましたよ」
「だとしたら夏の限定メニューも今週いっぱいか」
「秋の限定メニューも楽しみですね」
「限定メニューも集客には便利だよね」
「少し高くても売れるものはやはり強いですね」
そのまま水分補給を終えて店に帰還する。
そこで少し休んだ後仕事に戻る。
「ただいま戻りました」
「お帰り、はい、冷たいおしぼり」
「ありがとうございます」
「宅配もいい感じに知られているようデスね」
「来週からは宅配のチラシも変わるんですよね」
「うん、夏限定が終わって秋限定が新しく入るよ」
「分かりました、そっちも覚えておきます」
「では休んだらまたお願いしマスね」
そうして宅配も確実に知られ始めている。
やはり使えるものは使うものである。
人の目につく場所を使うのは大切である。




