123/402

ネバネバ丼

夏のフェアメニューも順調に売れている異世界キッチン。

その一方で宅配も順調にその評判が広まっている。

また冷房の効いた店内に涼を取る目的でやってくる客もいる様子。

それでもドリンクとデザート程度は頼んでくれるようではある。

「この辺りですか、噂の料理屋は」

「聞いた話だと病みつきになる限定メニューがあるとか」

「その噂については確かめておく必要がありますね」

「む？ここですね、では行きますか」

彼の名はトマソン、国の兵士だ。

同僚から聞いた話に興味を持ったようで、食べに来た様子。

「防犯はされてるんですね」

「中は涼しい…これもキカイみたいですね」

「いらっしゃいませ！何名様ですか！」

「ああ、一人です」

「かしこまりました、おタバコはお吸いになりますか」

「いえ、吸いません」

「かしこまりました、では禁煙席にご案内しますね」

「食事時とはいえ、客層の幅広さは凄いですね」

そうして席に案内される。

そこで一通りの説明を受ける。

説明は問題なく理解してくれた様子。

続いてタブレットの説明に移る。

「タブレットの説明をしますね、まずは画面にタッチしてください」

「こうですか」

「はい、続いて食べたい料理をタッチします」

「はい」

「選択の際はこうしてスライドします」

「こうですね」

「そして決まりましたらここをタッチ、よろしければ確定してください」

「分かりました」

「一旦リセットして…説明は以上になります、それでは」

そうしてリーザは一旦奥に下がり別の料理を運びに行く。

トマソンはとりあえず水を取りに行く事に。

「水はセルフでしたね、さて」

「ここにコップを当てて…しかし凄いですね」

「あとは氷と手拭き、しかしどうやってこんなに…」

「さて、注文を決めてしまいますか」

「話に聞いていたものは…これですね、あとはこれとこれ、確定っと」

「これで完了みたいですね、では飲み物を取りに行きますか」

そうしてドリンクバーに飲み物を取りに行く。

一通り見て選んだものはレモネードだった。

今の季節は冷たいレモネードが体に染み渡る。

冷たい飲み物もその種類の多さが光る。

「ふぅ、これは美味しいですね」

「レモンの味がする甘い飲み物ですか」

「似たようなものは知ってますけど、こんな甘くはないですね」

「甘さもいい感じに美味しさを引き立ててます」

そうしているとネバネバ丼が運ばれてくる。

夏の滋養強壮に効く複数の刻み野菜やとろろなどを和風だしで味付けした一品だ。

「お待たせしました、ネバネバ丼になります」

「これがあいつの言っていた…どうも」

「デザートが必要な時はこちらでお呼びください、それでは」

「さて、ではいただきますか」

ネバネバ丼、名前の通りネバネバの食材を使った丼。

使っているのは複数の刻み野菜にとろろに茎わさび、そこに牛丼の牛肉が乗っている。

これを食べるコツはよく混ぜてスプーンでいただく事。

それによりネバネバが増して味が強くなる。

また和風だしにより味に深みが出ているのも特徴。

ネバネバはこちらの世界では言うまでもなく好みが大きく分かれる料理。

だがハマった人はそれこそ大絶賛する味らしい。

このネバネバ丼は夏の滋養強壮に効くものも使われているのが特徴。

なので主に仕事をする男性にはウケがいい。

ただし口臭が少し気になるようになるのが難点だ。

「ん、これは美味しいですね」

「野菜と肉が乗っていて、そこにネバネバの…これは芋でしょうか」

「あとスープがそれに染みていてとても食べやすい」

「それだけでは確実に好みが分かれる味でしょうね、これは」

「でも確かにこれは美味しい、病みつきになるというのも分かりますね」

「あと鼻に抜けるような辛味がありますね、おかげで気持ちよく食べられる」

「好みは確実に分かれますが、これは確かに好きな人は好きな味ですよ」

そうしているうちにネバネバ丼を完食する。

そのままデザートを頼む事に。

「お待たせしました、デザートですね」

「はい、お願いします」

「かしこまりました、器はお下げしますね、少々お待ちください」

器を下げて一旦奥に下がる。

それから少ししてアイスティラミスが運ばれてくる。

「お待たせしました、アイスティラミスになります」

「どうも」

「こちらは伝票です、会計の際にお持ちください、それでは」

「さて、いただきますか」

アイスティラミス、名前の通りティラミスのアイスケーキだ。

食後のデザートとしては人気の品であり、アヌークもおすすめする一品だ。

「ん、これは美味しいですね」

「コーヒーのような苦味とクリームの美味しさがいい感じです」

「食後のデザートとしては食べやすいですね、これは」

そうしているうちにアイスティラミスを完食する。

飲み物を飲み干し会計を済ませる事に。

「すみません、支払いをお願いします」

「はい、ネバネバ丼とアイスティラミスとドリンクバーですね」

「全部で銀貨一枚になります」

「これで」

「ちょうどいただきます」

「満足していただけマシタか」

「あなたがシェフですか」

「ハイ、シェフ兼オーナーのアヌークといいマス」

「とても美味しかったです、あんな独特な料理ははじめてでした」

「ネバネバの料理は好みが分かれるものデスからね」

「確かにそうだと思います、でも好きな人は好きな料理ですよね」

「ハイ、そういう料理も出してみようとは思っただけデスから」

「そういえばあの白いネバネバはなんなんですか」

「あれはとろろというものデス、山芋をすりおろしたものデスね」

「山芋ですか」

「冷たいおそばなんかにも乗せると美味しかったりしマスね」

「でも不思議と美味しかったです、また食べたいですね」

「ネバネバ丼は夏限定と決めているのデス、そこはご理解デスね」

「そういうポリシーなんですね、おっと、そろそろ行かないと、それでは」

「ネバネバ丼ってハマる人もそれなりに出てるよね」

「好きな人は好きな味デスね」

そうしてトマソンは満足そうに帰っていった。

朝定食の和食につく納豆もそうだが、ネバネバは好みが分かれる。

好きな人はとことんハマるもの、それが夏限定ネバネバ丼だ。