バターチキンカレー
夏のフェアも好調な売れ行きの異世界キッチン。
宅配も順調に知られているのか、注文も増え始めている。
その一方で夏という事もあり、宅配は出来るだけ早く食べるように促す。
食中毒を防ぐには早く食べてしまうという事は大切なのだ。
「今回の届け先はどこだっけ」
「14番街のステートさんの家ですね」
「14番街か、この街も広いから大変だよね」
「仮にも王都ですからね、仕方ないですよ」
異世界キッチンがあるのは王都の6番街。
そこから王都全域をカバーするのは簡単ではないが、それでもやっているのだ。
「今回の注文ってバターチキンカレーだっけ」
「はい、カレーはライスとルーは別にして食べる時に自分でかけるそうです」
「宅配だとそうなるのは仕方ないのかな」
「お店ならお皿ですけど、宅配だと丼みたいな感じですからね」
「あとライスには福神漬っていう漬物も付いてるから、お得感はあるよね」
「福の神の漬物なんて凄い名前ですよね」
「名前の由来はあると思うけど、僕は好きだよ」
「甘くて食べやすいのもありますからね、ライスが進むっていうやつです」
「作り方はそんな難しくないみたいだけど」
「見た感じ複数の野菜が使われています、あと細かく刻んであるみたいですね」
「ただ醤油は貴重品だし、みりんなんて手に入らないから」
「作るのは難しいですよね、作り方自体はそうでもないみたいですが」
カレーには福神漬、アヌークもそれは譲れないらしい。
とはいえカレーには福神漬派とらっきょう派があるものだ。
アレッシオやソアレに限らず店のスタッフは福神漬派が多い。
なおそんな中でイクスラがらっきょう漬けの作り方を聞いていた。
醤油は手に入るものの、輸入品のため高価なもの。
みりんに至っては手に入れるのはまず無理なのがこの国の事情だ。
東の国からの輸入品店に行けば醤油や味噌は手に入るとエトは言う。
だがみりんはそこでもあれば幸運程度には入手困難らしい。
「そういえばエトが言ってたけど、国の貴族とかがらっきょうブームみたいだね」
「らっきょうはこっちでも比較的手に入るそうですよ」
「それでイクスラさんが漬け方を聞いてたのか」
「おかげで貴族の間ではすっかりブームになってしまったみたいです」
「でも意外なものが食べられるって事なのかな」
「お店で出している料理はこっちだと食べないようなものも美味しくして出してますね」
「ああいうのは国の違いなのかもね」
「でも僕もレシピを聞いて家で作ってもらうと家族も喜ぶから」
「大家族でしたっけ、アレッシオさんの家は」
「うん、だからお店でもらったレシピとかは意外と好評だよ」
「家庭でも作れそうな料理もありますからね」
「14番街はここを真っ直ぐだね」
「急ぎましょうか」
そのまま14番街に入り、目的のステートの家に向かう。
少し歩いてその家を見つける。
「ここだね」
「そのようです」
「すみませーん!キッチンハウスの宅配のお届けです!」
「届けに参りました!」
「はい!」
「お待たせしました」
「はい、まずは代金からいただきますね」
「ああ、はい、分かりました」
「お支払いは銅貨一枚と青銅貨二枚になります」
「これでいいかな」
「はい、ちょうどいただきます」
「ではこちらがご注文のバターチキンカレーになります」
「ありがとう、こういうサービスがあると助かるよ」
「はい、あと器は紙なので可燃ごみでお願いします、行政区分には従ってください」
「分かりました、ではそうさせていただきますね」
「あとスプーンは…それも燃えると言っていましたから可燃ごみで大丈夫です」
「分かりました、また利用させてもらいますね」
「ではそろそろ失礼しますね」
「またのご利用をお待ちしています」
「さて、いただくとしようかな」
バターチキンカレー、その名の通りバターが香るカレーだ。
定番メニューのカレーに比べると辛さはマイルドでもある。
バターを使ってあるからというのもあり、辛さは控えめになっている。
甘さも多少あるので、子供でも食べやすい。
鶏肉も大きめにカットしているので食べごたえ抜群だ。
カレーも肉も美味しいフェア限定のカレーである。
「さて、うん、これは美味しいね」
「カリーなのに辛さは控えめで、甘さもある」
「バターを使っているからこの味なんだろうね」
「ライスについてる漬物も凄く美味しい、これは進むね」
「鶏肉も大きくカットしてあるから、食べごたえ抜群、これはいい」
「食べやすくて満足感も高い、値段の割にお得感が強いね、うん、実に美味しい」
その頃のアレッシオ達は水分補給をしていた。
夏はこまめに水分を摂る事が必要である。
「アヌークさんの持たせてくれたこの塩タブレットって不思議な感じだね」
「飲み物も麦茶という不思議な感じのお茶ですし」
「でも塩タブレットを食べて麦茶を飲むのがベストらしいけど」
「以前は塩レモン水でしたね、作る余裕も出来てきたんだと思います」
「麦茶ってこっちでも作れないかな」
「エトさんかイクスラさんに聞いてみては?」
「材料についてだね」
「そういう事です」
麦茶に必要なのは大麦だ。
それが手に入るのなら麦茶は作れそうではある。
とりあえずそのまま店に帰還する。
大麦についてはあとで聞いてみる事に。
「ただいま戻りました」
「お帰り、はい、冷たいおしぼり」
「ありがとうございます」
「休んだら仕事に戻ってもらいマス、とりあえずクールダウンデスね」
「はい、問題ないですよ」
「宅配依頼が来たらまた頼むから、それまではお店の方でやっててね」
「はい、その時はいつでも行けるようにしておきますね」
「無理だけはしないでクダサイね」
そうして宅配に関しては時間帯も関係してくるものはある。
昼頃は宅配が増えるし、夕食時なんかはテイクアウトが増える。
時間帯によって需要は変わってくるものである。




