大箱スパイシーナゲット
夏のフェアも順調に売れている異世界キッチン。
そんな夏のフェアは冷たいメニューと辛いメニューが多くある。
暑い時は辛いものと冷たいものがよく売れる。
アヌークなりの統計なのだろう。
「今回の届け先ってどこですか」
「10番街のスタンクさんの家ですね」
「10番街、分かりました」
「とりあえず早く行かないとですね」
宅配を始めてからそっちの方もなかなかに好調なので、ソアレも忙しいものだ。
やはりそこまで高くない値段でキッチンハウスの味が食べられる需要なのだろう。
「今回の注文ってスパイシーナゲットの大箱だよね」
「はい、辛いチキンナゲットですね」
「アヌークさんが言ってたけど、夏は辛いものが売れるらしいね」
「そういうデータがあるとは聞きましたけど」
「辛いものか、僕はどうにも苦手だなぁ」
「私もそんな得意じゃないです、カリーとかは好きなんですけど」
「僕も食べられないっていうわけじゃないんだけど、激辛とかは無理かも」
「由菜さんが言うには辛いっていうのは痛覚、つまり痛みなんだそうです」
「それでなんだ、辛いものを食べると痛いって感じたのは」
「人の感覚って不思議なものですよね」
「今回注文を受けたスパイシーナゲットの大箱って要するに大盛りだよね」
「はい、辛い味のチキンナゲットを30個と辛いソースでだそうです」
「好きな人もいるけど、僕達には無理だよね」
「お互いに子供ですからね、年齢的にも」
アレッシオもソアレもこの世界では働ける年齢ではある。
ただそれでも子供なのに変わりはないので、辛い食べ物は苦手なのだろう。
まかないでもチーズや甘いものなどをよく食べているのもある。
味覚はまだまだ子供という事だ、エトなんかもそれは感じさせる。
とはいえ今は思春期で成長途中なのだから気にする必要はない。
アヌークもそう言ってくれているのであまり気にしてはいないようではある。
「そういえばソアレって好きなものとかあるの」
「好きなもの…ハヤシライスが好きです」
「あの甘いカリーみたいなやつだよね」
「はい、あれはとても美味しいし食べやすいですから」
「僕に言えた義理でもないけど、まだまだお互いに子供だよね」
「ですよね、働けるだけでっていう事です」
「僕もこの歳で働いてるから、余り物は家族のお土産にしてもらってるから」
「アレッシオさんの家って家族は多いんですか?」
「僕は次男だけど、親の他に子供が結構ね、妹が四人と僕含めて男が四人いる」
「凄い大家族ですね」
「だからお土産のケーキとかは毎回争奪戦なんだよ」
「大家族というのも大変なんですね」
アレッシオの家は次男のアレッシオ含め子供が8人の大家族らしい。
それだけ産んだ母親も凄いし、父親もそれだけ凄いとも言える。
それもあってなのかお土産のケーキなどは毎回争奪戦になるらしい。
そのお土産はそれだけ下の子達も期待しているという。
今では家族一の稼ぎ頭でもある。
まさかの銀貨10枚を日給でもらっているのだから、大したものである。
「ここかな?すみませーん!キッチンハウスの宅配です!」
「ご注文のお届けに参りました!」
「はい!」
「お待たせしました、待っていました」
「はい、こちらがご注文の大箱スパイシーナゲットとハバネロソースですね」
「これが、美味しそうな匂いだ」
「代金は銅貨一枚と青銅貨二枚になります」
「これで」
「ちょうどいただきます」
「確かに美味しそうな匂いだ、これならお昼も満足出来そうだね」
「辛いものが好きなんですか?」
「好きというか、まあ好きなんだけどね、それでこの宅配を見たから」
「それでご注文ですか、またのご注文もお待ちしていますね」
「うん、そうさせてもらうよ」
「箱は紙なので可燃ごみでお願いしますね」
「分かった」
「一応行政区分には従ってお願いします」
「分かった、ありがとう」
「では失礼します」
「またのご利用お待ちしていますね」
そうして今回の宅配を終えて帰路につく。
人の味覚は千差万別である。
「さて、では早速」
「おぉ、いい感じに辛そうな色をしているね」
「ソースからもこれが辛いというのが伝わってくるね」
「では早速、いただくとしようかな」
「うん、これはいい感じに辛くて僕好みの味だね」
「ソースにつけると辛さがマシマシって感じで実にいいや」
「この辛さは頼んで正解だった味だね」
その一方で2人は帰りに水分補給をしていた。
こちらの世界も今は夏なので、水分補給はしっかりしておく必要がある。
「ふぅ、流石に夏の晴れの日はきついかもね」
「アヌークさんもしっかり水分を補給するように言っていましたから」
「アヌークさんが言うにはレモン水と塩がいいって言ってたよね」
「暑い日に不足しがちなものはそれで補えるそうです」
「レモン水と塩、一応家でも言ってみよう」
「私も覚えておきますか」
そのまま水分補給を終えて帰路につく。
だがその後ろ姿を見ている人の影があったようで。
「あれが噂の…少し見に行ってみようかな」
そんな事は知らないまま2人は店に帰り着く。
アヌークから冷たいおしぼりを渡されそれでしっかり汗を拭いておく事に。
「お疲れ様デス」
「はい、なんとか無事に終えました」
「今は暑いデスから、熱中症には気をつけてもらわないと困りマスから」
「とりあえず水分補給は言われた通りにしてます」
「ハイ、ならいいのデスが」
「言われた通りレモン水に塩を入れたやつは作ってます、それでいいんですよね」
「ハイ、それならどちらも手に入ると聞いていマスから」
「どっちも平民でも簡単に手に入るので、冷たい水も合わせてですね」
「では体をクールダウさせたらまた頼みマスね」
夏の暑さ対策はアヌークからしっかりと叩き込まれている。
幸いこちらの世界ではレモンも塩も冷たい水も手軽に手に入る。
隣国から世界に広まっている機械の力は偉大なのだ。
とはいえ友好と同時に国としては油断ならないと国は警戒しているようだ。




