106/402

杏仁かき氷

タブレットの導入の方にも慣れてきた異世界キッチン。

フェアメニューとは別に早くも冷たいデザートの導入も始まっている。

夏はまだ先にも関わらずかき氷系のデザートがメニューに並ぶ。

とはいえそれが売れないという事もないようで。

「この辺りですよね、噂の料理屋は」

「噂だと冷たい甘味が食べられるとの事ですが」

「甘い物好きの身としては食べてみなくてはいけませんね」

「む、ここみたいですね、では」

彼の名はクロイツ、この国の騎士団の騎馬隊の隊長だ。

騎士団の中でも知られる甘党の男である。

「防犯はされているのですね」

「中は客も多いですね、それだけのお店という事ですか」

「いらっしゃいませ！何名様ですか！」

「一人…って姫様ではないですか、仰っていた職場はここでしたか」

「あんたクロイツね、まあいいわ、一人ね、おタバコはお吸いになられますか」

「吸いません」

「かしこまりました、では禁煙席にご案内します」

「姫様がこのような場所で働いていたとは、これも社会勉強ですかね」

そうして席に案内される。

そこで一通りの説明を受ける。

説明については問題なく理解した様子。

そのままタブレットの説明に移る。

「注文のやり方を説明しますね、まずはタブレットの画面をタッチしてください」

「こうですね」

「はい、そこから食べたいものを選んでその絵をタッチしてください」

「こうですか」

「はい、選択する際は指をこうしてスライドする事で画面が移動します」

「はい」

「注文が完了したらここをタッチ、確認画面が出るのでよろしければ完了を」

「分かりました」

「では一旦リセットして…以上になります、それでは」

そうしてエトは他の客に運ぶ料理を取りに行く。

クロイツは水を取りに行く事に。

「水はセルフでしたね、さて」

「ここにコップを当てて…しかし凄い設備ですね、ここは」

「あとは氷と手拭き、しかし氷もこんなにあるとは」

「さて、注文を決めてしまいますか」

「甘味ですね、ふむ、甘味だけでも多様なものです」

「さて、何にするか…む？これがよさそうですね、これとこれ…あとは…完了、と」

「これで完了みたいですね、飲み物でも取りに行きますか」

そうしてドリンクバーに飲み物を選びに行く。

一通り見て選んだものはミックスジュースだった。

甘党だからなのか、ジュースを選ぶ隊長殿。

別に恥ずかしいなどとはこれっぽっちも思わないようではある。

「ん、これは美味しいですね、果実のジュースでミックスですか」

「複数の果実を混ぜると意外と美味しいものなのですね」

「果実自体は手に入りそうですし、やってみますか」

「ふぅ、これは落ち着く甘さだ」

そうしていると杏仁かき氷とイタリアンプリンが運ばれてくる。

杏仁かき氷は杏仁豆腐の上にいちごのかき氷を乗せたデザートだ。

「お待たせしました、杏仁かき氷とイタリアンプリンになります」

「どうも」

「こちらは伝票です、会計の際にお持ちください、それでは」

「さて、ではいただきますか」

杏仁かき氷、杏仁豆腐にいちごのかき氷を乗せたデザート。

いちごのかき氷の甘さと冷たさ、杏仁豆腐の滑らかさを同時に楽しめる。

かき氷は早いかと思いきや、今でもそこそこ売れていたりする。

氷に甘いシロップをかけて食べるというのはこっちでは意外と新鮮らしい。

そもそも氷を作れる機械類は高価なものでもある。

今でこそ国の執政の一環として国民に配布されているが、それでも高いものなのだ。

とはいえ国の努力もあって今では氷菓子なども国では広まっている。

ただかき氷という食べ方はまだないようではある。

それもあってなのかかき氷は意外と人気メニューだ。

去年の夏もかき氷は結構売れていたというデータがあるのだから。

「ん、これは美味しいですね、削った氷に甘いシロップですか」

「氷菓子自体は珍しくなくなったとはいえ、こういう食べ方もあるのですか」

「食べやすいのに加え、シロップが氷によく馴染むのもあってとても食べやすい」

「夏には早いとは思いますが、それでもこれは美味しいですね」

「氷の下には…白いゼリー？でもこれも美味しいですね」

「白くて柔らかいものが甘いシロップに浸してあるようです」

「こっちのプリンというのも美味しいですね、甘いものが好きな私にはたまらない」

「ここの甘いものは実に美味しい、話は本当だったのですね」

そうしているうちに杏仁かき氷とイタリアンプリンを完食する。

飲み物を飲み干し会計を済ませる事に。

「支払いをお願いします」

「はい、杏仁かき氷とイタリアンプリンとドリンクバーですね」

「全部で銅貨一枚と青銅貨三枚になります」

「ではこれで」

「銀貨一枚いただきます、お釣りの青銅貨二枚になります」

「確かに」

「満足していただけマシタか」

「あなたがシェフですか」

「ハイ、オーナー兼シェフのアヌークといいマス」

「とても美味しかったですよ、ああいう食べ方もあるのですね」

「かき氷はこっちだと珍しいみたいデスね」

「かき氷というのですか、確かに氷をあんな感じに削るのは難しいですから」

「それで珍しいという事デスか」

「ええ、キカイなどは隣国から入ってきているのですが」

「まだかき氷を作れるようなものはない、デスね」

「ええ、そういう事です」

「技術は進歩してもまだ何かとあるのデスね」

「そういえば例のミックスジュースは何を使っているのですか」

「ミックスジュースデスか？私の作るものでいいならレシピいりマスか？」

「いいのですか」

「こちらのものでも作れると思うので、構いマセンよ」

「ではいただいておきます」

「これがミックスジュースのレシピデスね」

「ふむ、これなら出来そうですね」

「それはよかったデス」

「おっと、ではそろそろ行きますね、姫様を頼みますよ」

「エトの知り合いみたいだね」

「国の偉いポジションの人みたいデスね」

そうしてクロイツは満足そうに帰っていった。

男でも甘いものが好きと公言出来る素晴らしさ。

甘さ控えめなんていらないのです。