89 チョコ完成
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みんなはテンパリングに悪戦苦闘していた。
成功しているかどうかは、何かに薄く塗って冷やし、その固まり具合を見れば分かる。
固まり方にムラがあったり、表面が白っぽくなったりしたら失敗なので、私がそれをチェックして成功しているようなら、型に流し込んで固める。
なお、失敗したものはそのままだと美味しく食べられないので、再度溶かしてテンパリングする必要があった。
ただし、チョコに水分が混じってしまうと、もう駄目なので、それはホットチョコレートや焼き菓子とか、別な用途に使うことにする。
丁度作ろうと思っていたものがあるから、それに使わせてもらおうと思う。
その作業と並行して、私もお母さん用のチョコレートを作っておくかな。
そしてみんなのチョコが完成した頃──。
「みんなー、おやつだよー!」
「おお、ケーキ?」
「ガトーショコラだよ。
本格的なケーキと比べれば、案外手軽に作れるよ」
これは余ったチョコや、失敗したチョコを流用して作った。
作り方を大雑把に説明すると、溶かしたチョコにバターや卵で作ったメレンゲを混ぜてオーブンで焼き、粉砂糖を振りかけるだけだ(生クリームを入れる場合もある)。
まあ、他にも細かい行程とかもあるんだけど、さほど特別な材料は必要無いので、素人でも挑戦しやすいお菓子だと思う。
「これは私からみんなへの、バレンタインデーチョコだと思ってね」
賞味期限的にはバレンタインデー当日まで持つし、むしろ作りたてよりも1日くらい時間を置いた方が生地が馴染んで美味しいんだけど、こんな大きな物を家や学校まで持ち運ぶのは大変だし、学校では冷蔵庫で保存する訳にもいかないので、傷んでしまわないかちょっと心配……。
そんな訳で、この場で食べてしまうことにする。
「珠戸さん、ありがとー」
「美味っ!?」
「これ……小学生が作れるものなんだ……」
みんな喜んでくれて何よりだ。
そんな訳で、みんなとのチョコ作りは成功裏に終わった。
なお、完成したお母さん用のチョコは、その晩の内に渡すことにした。
冷蔵庫に保存しておくとどうしてもお母さんの目に入る為、お母さんのテンションが上がってなんかウザかったので。
「そわそわしてるの鬱陶しいから、もう渡すね」
「えっ!?」
一瞬お母さんは複雑な顔付きとなる。
たぶんバレンタインデーに渡してもらった方が、価値があると思ったのだろう。
……いや、当日だから特別だとか、私の気持ち的にはそんなことはまったく無いので、無意味な葛藤だけどね。
「ありがとう、綺美ちゃん!
このチョコを綺美ちゃんだと思って、大切に食べるね!」
「なんか気持ち悪い言い方はやめて……」
何故私を食べる!?
まあ、「一生保存する」とか言い出さないだけ、チョコを食べる気がある分まだマシな気がするけど……。
さすがに食べ物を粗末にすることを、私が嫌っていることは理解しているようだ。
そしてバレンタインデー当日──。
「えっ、私にですか!?」
私は福井さんに、小さなチョコを渡した。
「いつも副委員長として助けてくれるから、そのお礼にね」
当然、恋愛的な意味合いは一切無い……と思う。
所謂友チョコというやつだ。
福井さんの想いに気付いているのに、ちょっと思わせぶりな態度だとは思うけれど、彼女への感謝の気持ちと、友人としてもっと親しくしたいという気持ちに嘘はない。
まあ、将来的には本命チョコになっていく可能性もあるのかもしれないが、まずは友達として段階を踏んでいこうと思う。
「あ、ありがとうございます……うっ!」
「……チョコを食べる前から、鼻血を出さないでよ……」
私はポケットからティッシュを取り出した。
こういう福井さんの奇行はお母さんと似た部分があって、むしろ少し安心感を覚えてしまうのだから困ったものだ……。
そういえば、「親と似たタイプの人を好きになることが多い」って聞いたことがあるけど、まさかね……。




