88 チョコ作り
バレンタインデーを目前とした土曜日。
私達は丹治易さんの家に集合し、チョコ作りをすることになった。
まず買ってきた板チョコを細かく斬り刻む。
そしてそれを湯煎で溶かして、型に流し込んで固める。
大雑把にはこんな行程だけど、トリュフチョコとかを作ろうとすると、また違った行程も必要になる。
……だけどまずは、基本の作り方をやってみようか。
「こうやって包丁でみじん切りにして……」
私が手本を見せる。
いや、他の子に包丁を使わせるのは危ないかな?
包丁を使う行程は全部私がやってしまうか。
「みじん切りは私がやるから、みんなは適当なサイズまでチョコを割って。
長時間触っているとチョコが溶けて味が落ちるから、手早くね」
「そういうことならお姉ちゃんに任せて!」
え、こぶしちゃんに?
「ふん!」
袋に入れたまま握りつぶしてる──!?
「そ、それはどうかなぁ……?
あまり圧力をかけたら、チョコに含まれている油分が分離するんじゃ……?」
スチール缶を握り潰せるこぶしちゃんの怪力じゃ、ちょっとチョコがチョコではなくなってしまいそうだ。
「じゃ、こうか?」
今度は床に置いたチョコ(袋入り)に、連続でパンチを入れ始めた。
う……う~ん……、絞るように握りつぶすよりはいいかもしれないし、こぶしちゃんのパワーなら粉々に砕けるかもしれないけど、それ床大丈夫?
「ちょっ、床を壊さないでくださいましよ!?」
あ、丹治易さんからイエローカードがでた。
「というか、階下から騒音の苦情がくるから……」
ですよね、頭映さん。
まあ、こぶしちゃんの力なら、そんなに時間は必要としないから、数十秒でチョコは粉々になったようだ。
……これ、粉末になっていない?
「そして細かくしたチョコをボウルに入れて湯煎で溶かすけど、お湯の温度は高すぎても低すぎても失敗するよ。
50度から55度くらいがいいんだって」
ただし、ホワイトチョコレートとかだとまた温度が違う。
「これ、飲めそう……」
「さくらちゃーん、いちいちつまみ食いしていたら終わらないから、我慢してねー」
チョコは飲み物じゃありません!
いや、飲めるようにすることもできるけど、今回はそういう方向ではやらないよ。
で、溶けたらテンパリングと言って、ココアバターを安定した結晶にする作業があるのだが、この温度調整が難しい。
溶けたらボウルを氷水に入れて、全体を均一に攪拌しつつチョコの温度を28度まで下げて、再び湯煎して32度まで上げるという……。
素人にはまず一発で成功させるのは無理。
失敗すると味や見た目が悪くなってしまうけど、チョコは大量にあるので、みんなには何度も挑戦してもらうしかないね。
「そして、あとは型に入れて冷やして……」
と、一通り作り方を実演して見せたので、今度はみんなに湯煎からやらせてみよう。
その間に私は、別の物を作ることにする。
「珠戸さん、何を作るのですか?」
「それはできてからのお楽しみだよ」
それから私は、自分の作業をしながら、みんなの作業を監督する。
こういう時はふざける人が出がちだけれど、食べ物で遊ぶことは許さないよ!
まあ、比較的みんな真面目にやっているようだけど。
特に真剣なのは、意外にもこぶしちゃんだった。
まあ、さくらちゃんにチョコをあげるのだろうし、大食いの彼女を相手にするのなら、調理スキルは磨いておいた方がいい。
あと、福井さんと……それから丹治易さんや頭映さんも、チョコを送る相手がいるからなのか、真剣に作っている。
ただ、さくらちゃんと羽田さんは、食べたい気持ちの方が強いのか、ちょっと集中力に欠けるなぁ。
「チョコをあげる相手がいなくても、自分で食べるのなら美味しい方がいいでしょ?
頑張ろうね」
「あ、そうだね」
「がんばりマース」
2人は納得してくれたようだけど、親姉妹にもあげた方がいいと思うよ?
あと、久遠さんも来ていたけど、チョコ作りには参加せずに、ゲームをしていた。
何しに来たの?




