85 必需品なのです
ゆりさんはえっちな本とかについて、必要なものだと断言した。
「まあ……これは保健体育的な話になってくるから、ちょっと生々しいことなんだけどね。
ああいうえっちな物を見たいとか、したいという気持ち──つまり性欲ってのは、我慢したからといって、消えるものじゃないんだよ」
「そ、そうなの……?」
「そうなんだよ。
勿論、ある程度は抑えることはできるよ。
でも本来は子孫を残したいという動物の本能だから、完全に消すことは無理だよ、普通は……。
薬とかで抑えるとか、家庭環境や精神的な問題で毛嫌いしているとか、例外はあるけれどね」
う~ん、保健体育で子供の作り方や月経とかについては習ったけれど、私にはまだ実感が伴わない物だった。
それどころか私は、まだ恋すらも知らない。
だから簡単に我慢できる物だと思っていたんだけど、そうでもないようだ。
「そんなに我慢が、難しいものなんだ……」
「ちょっと大げさなたとえだけど、綺美ちゃんもお腹が減ったら、何か食べるまでその空腹感は消せないでしょ?
食欲みたいに命には直結しないから、そこまでは深刻じゃないけれど、性欲も何らかの形で発散させないと、どんどん溜まっていくんだよ。
だからああいう本とかも、必要なんだ。
まあ最悪、想像でどうにかすることもできるけど、それじゃあ我慢できなくて、実際の人間を相手にどうにかしちゃおうという人も、一定数はいるからね。
時には理性を、上回ってしまう人もいるくらいなんだ。
いや、普通に恋人を作ってそういうことをすればいいんだけど、それが難しい人もいるし」
そんなに……。
それに確かにお母さんの好みは私だから、恋人を作るというのも難しい話だよねぇ……。
そして我慢させすぎて、私に襲いかかられても困るなぁ……。
お母さんは私が本気で嫌がることはしないって思っていたけど、それに甘えていた部分もあるのだろうか……?
あと、私も恋愛対象が女性でも大丈夫だということが判明した今、恋人を作ることは簡単ではないのかもしれない。
となると、私も将来ああいう本が、必要になったりするのだろうか……?
だとすると、今おかあさんに厳しく言うのは、ブーメランになってしまうかもしれない。
「……分かった。
じゃあ、私の見えない所では黙認するけど、ゆりさんもその辺は気をつけてね」
「うん、ホント先輩がスマンかった……」
それから私は家に帰って、部屋でゆりさんと話し合ったことを色々と考えた。
理解しがたいこともあるけど、仕方が無い部分があるということも分かった。
はぁ……それにしても、自分の性的嗜好には驚いたけれど、意外と動揺していないのは、お母さんのおかげというか、所為というか……。
正直言って、お母さんの正体を知った時の方が衝撃的だったしね……。
暫くして、部屋のドアがノックされた。
「綺美ちゃん……一緒に初詣に行かない?」
……お母さんも、私との距離感を探っている感じだなぁ……。
「いいよ、行こう」
このままお母さんとギクシャクしているのも嫌だし、何かの切っ掛けになるかな?
初詣に行った神社は、さくらちゃんとこぶしちゃんの家だ。
本殿へと続く参道は、人が沢山いた。
「結構混んでるね」
もう夕方が近いのに、少し混雑している。
「ここは有名だからねぇ。
でも、年が明けた瞬間だと、こんなものじゃないわよ?」
「そうなんだ」
私は夜に出歩かないから分からないや。
「はぐれないように、手を繋ぐ?」
「そんな低学年の子供じゃあるまいし……」
見た目はともかくね!
見た目的に違和感が無くても、さすがに知り合いには見られた恥ずかしいから、それは嫌だ。
そもそもここからなら、はぐれても地力で歩いて家に帰れるし……。
「あ、たこ焼きや、焼きそばが売ってる」
露店が並んで、ちょっとしたお祭りみたいになっている。
さすがに寒いので、金魚すくいとか生き物を扱うような店は無いけれど、色々と売っていた。
そりゃ混むはずだよ。
「帰りに買って行きましょうか。
晩ご飯にどう?」
「ああ、そうだね」
おせち料理ばかりじゃ、飽きるしなぁ。
そして神社の売店の前を通ると、
「あ、綺美~!
あけましておめでと~!」
さくらちゃんに声をかけられた。




